COLUMNコラム
「お客様は神様」の時代は終わりました。企業に義務化される「カスハラ対策」と、従業員を守るための法的防衛策を弁護士が徹底解説
ニュース解説 2026.03.06.
~目次~
「誠意を見せろと土下座を強要された」
「毎日のように同じクレーム電話がかかってきて、業務が手につかない」
「SNSに実名や写真をさらすと脅された」
これらは全て、立派な「カスタマーハラスメント(カスハラ)」です。
かつて日本では「お客様は神様」という言葉が誤った形で浸透し、理不尽な要求も我慢して受け入れることが美徳とされる風潮がありました。
しかし、時代は変わりました。
東京都で日本初のカスハラ防止条例が施行されてから1年が経過し、国レベルでも法制化に向けた動きが加速しています。もはやカスハラは「運が悪かった」で済まされる問題ではなく、企業が取り組むべき「法的義務」となりつつあります。
本コラムでは、弁護士横田秀俊が、どこからがカスハラになるのかの境界線、被害に遭った際の具体的な対処法、そして企業が従業員を守らなかった場合に負う法的リスクについて、詳しく解説します。
福井県大野市から全国の企業・労働者の皆様へ、現場で役立つ法律知識をお届けします。

なぜ今、「カスハラ」がこれほど問題視されているのか
近年、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が急速に社会問題化した背景には、いくつかの要因があります。
①SNSの普及
気に入らない対応をされた顧客が、その様子を隠し撮りし、一方的な主張と共に拡散させる事例が後を絶ちません。これにより、企業側が「炎上」を恐れて過剰な謝罪を重ね、クレーマーを増長させる悪循環が生まれていました。
②労働力不足の深刻化
「理不尽な客に耐えてまで働きたくない」と、優秀な人材が離職してしまうケースが急増しています。
企業にとって、従業員をカスハラから守ることは、単なる福利厚生ではなく、事業を継続するための「経営課題」そのものになっているのです。
こうした背景から、厚生労働省も対策マニュアルを作成し、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の指針にカスハラ対策を盛り込むなど、国を挙げての規制強化が進んでいます。
2025年に東京都で施行された防止条例は、その象徴的な動きと言えるでしょう。


どこからが「カスハラ」?正当なクレームとの境界線
現場で最も悩ましいのが、「これは正当なクレームなのか、それともカスハラなのか」という判断基準です。
商品に不備があった場合に交換を求めたり、サービスの不手際に対して謝罪を求めたりすることは、消費者の正当な権利(クレーム)です。これを拒否することはできません。
しかし、その「手段」や「態様」が社会通念上許される範囲を超えた場合、それはカスハラとなります。
厚生労働省のマニュアル等でも、以下の2つの要素で判断する傾向にあります。
【要求内容の妥当性】
商品代金の返金だけでなく、迷惑料として高額な金銭を要求する。
社長を出せ、担当者を解雇しろ、と人事権に介入するような要求をする。
土下座や始末書の提出を強要する。
【手段・態様の相当性】
大声で怒鳴り散らす、机を叩くなどの威嚇行為。
長時間にわたり居座る、または電話を切り上げない(拘束)。
人格を否定するような暴言、セクシャルハラスメント発言。
SNSでの晒し行為をちらつかせて脅す。
つまり、「言っていることが正しいかどうか」だけでなく、「言い方ややり方が常識の範囲内か」が重要な判断基準となります。たとえ企業のミスが発端であっても、人格否定や長時間拘束が許されるわけではありません。


【企業向け】「従業員を守らない」ことが最大のリスクになる理由
経営者や管理職の皆様に強くお伝えしたいことがあります。
「お客様を怒らせるな」といって、現場の従業員にひたすら謝罪を強要したり、個人で対応させ続けたりすることは、法的に非常に危険です。
企業には、労働契約法上の「安全配慮義務」があります。これは、従業員が安全で健康に働ける環境を整える義務のことです。
もし、従業員が執拗なカスハラを受けていることを知りながら、会社が適切な組織的対応をせず放置した場合、どうなるでしょうか。
従業員がメンタルヘルス不調(うつ病など)を発症すれば、それは「労災」と認定される可能性が高くなります。さらに、安全配慮義務違反として、会社に対して高額な損害賠償請求が行われるリスクもあります。
「お客様対応は現場の責任」という考えは捨ててください。カスハラは「組織」で対応しなければ絶対に解決しません。
従業員を守る姿勢を見せない企業は、法的責任を問われるだけでなく、社会的信用も失い、人材も集まらなくなるでしょう。

【現場向け】理不尽な要求への「正しい対処法」3ステップ
では、実際に現場でカスハラに直面した場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
以下の3つのステップを意識してください。
【ステップ1:記録を残す】
これが最も重要です。
電話であれば通話録音、対面であればボイスレコーダーや防犯カメラの映像を確保します。
「言った、言わない」の水掛け論にならないよう、証拠を残すことがクレーマーへの最大の牽制になります。最近では「品質向上のため録音しています」とアナウンスするだけで、電話を切るクレーマーもいます。
【ステップ2:即答しない・約束しない】
クレーマーは、その場での解決(念書へのサインや、「払います」という言質)を迫ります。
しかし、個人の判断で約束してはいけません。
「私一人の判断では決められませんので、会社に持ち帰って協議し、後日回答します」と毅然と伝え、その場を切り上げてください。
【ステップ3:一人で抱え込まない】
必ず上司や同僚に報告し、複数名で対応してください。
特に悪質なクレーマーの場合、担当者をコロコロ変えるのは得策ではありませんが、バックアップ体制があることを相手に示すことが重要です。


「土下座強要」は犯罪です。カスハラが触れる刑法リスト
カスハラは、民事上のトラブルにとどまらず、刑法上の犯罪に該当するケースが多々あります。
「お客様だから」と遠慮する必要はありません。
犯罪行為には警察への通報も辞さない構えが必要です。
【強要罪】
「土下座しろ」「念書を書け」など、義務のないことを無理やり行わせる行為。
3年以下の懲役に処される可能性があります。
【恐喝罪】
「ネットにさらすぞ」「金を払わないと店で暴れるぞ」などと脅して、金品を要求する行為。
10年以下の懲役という非常に重い罪です。
【威力業務妨害罪】
現場の従業員が最も疲弊するのは、「いつまでこの電話に付き合わなければならないのか」という出口の見えない恐怖です。 これを防ぐためには、会社として明確な「ガイドライン(判断基準)」を策定しておく必要があります。
例えば、 「同じ要求を3回繰り返されたら、対応を打ち切る」 「大声や暴言があった時点で、警察に通報する」 「対応時間は1回につき30分までとする」 といった具体的なルールです。
従業員個人の判断で電話を切るのは勇気がいりますが、「会社のルールで決まっています」と伝えることができれば、心理的負担は大幅に軽減されます。 経営者の皆様は、従業員に「電話を切る権限」と「断る勇気」を与えてください。それが従業員を守ることにつながります。
大声で騒いで他のお客様の迷惑になったり、何百回も電話をかけて業務を麻痺させたりする行為。
3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
【不退去罪】
「お引き取りください」と退去を求めたにもかかわらず、店や事務所に居座り続ける行為。
これらの行為があった場合、それはもはや「お客様」ではありません。
「犯罪者」として対応を切り替える必要があります。


「電話を切る勇気」を持つために必要な社内ルール
現場の従業員が最も疲弊するのは、「いつまでこの電話に付き合わなければならないのか」という出口の見えない恐怖です。
これを防ぐためには、会社として明確な「ガイドライン(判断基準)」を策定しておく必要があります。
例えば、
「同じ要求を3回繰り返されたら、対応を打ち切る」
「大声や暴言があった時点で、警察に通報する」
「対応時間は1回につき30分までとする」 といった具体的なルールです。
従業員個人の判断で電話を切るのは勇気がいりますが、「会社のルールで決まっています」と伝えることができれば、心理的負担は大幅に軽減されます。
経営者の皆様は、従業員に「電話を切る権限」と「断る勇気」を与えてください。
それが従業員を守ることにつながります。

解決困難なクレーマー対応は弁護士に一任すべき理由
社内で対応しきれない、あるいは身の危険を感じるような悪質なケースについては、弁護士への相談を強くお勧めします。 弁護士が介入することで、以下のようなメリットがあります。
【窓口を一本化できる】
弁護士が代理人となれば、以降、クレーマーからの連絡は全て弁護士が受けます。従業員は直接対応する必要がなくなり、本来の業務に集中できます。
【法的な警告ができる】
弁護士名で「受任通知」を送付し、これ以上の不当な要求や業務妨害行為があれば、法的措置(損害賠償請求や刑事告訴)をとると通告します。多くのクレーマーは、弁護士が出てきた時点でトーンダウンします。
【接近禁止の仮処分など】
執拗なつきまといや、店舗への押しかけがある場合、裁判所を通じて接近禁止の仮処分を申し立てることも可能です。
弁護士法人横田秀俊法律事務所では、これまで数多くの企業様からカスハラ対応のご相談を受けてきました。
マニュアルの作成から、実際のクレーマー対応の代行、警察との連携まで、トータルでサポートいたします。
当事務所は福井県大野市にありますが、オンライン相談(ZOOM、Google Meet等)の体制を完備しており、全国の企業様・個人様からのご相談に対応可能です。
「このクレーム、対応しても大丈夫だろうか?」
「従業員が疲弊している」
と感じたら、手遅れになる前にご相談ください。
毅然とした対応で、あなたの会社と従業員、そしてあなた自身の生活を守りましょう。
【お問い合わせ先】
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