COLUMNコラム
キャンペーン・懸賞の法律-「総付景品」と「オープン懸賞」
エステ法務 2026.01.31.
~目次~
「開店5周年記念!ご来店の方全員に、当店オリジナルの美容液をプレゼント!」
「Instagramをフォロー&いいねしてくれた方の中から、抽選で高級ドライヤーが当たる!」
美容室やエステサロン、ネイルサロンなどの店舗経営において、こうしたキャンペーンは集客の起爆剤となる重要な施策です。
お客様に喜んでいただき、リピート率を高めるために、少しでも豪華なプレゼントを用意したいと考えるのは、経営者として当然の心理でしょう。
しかし、その「サービス精神」が、思わぬ法律違反を招く可能性があることをご存知でしょうか。
景品(おまけ)の提供については、「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」という法律によって、非常に細かなルールが定められています。「知らなかった」では済まされないのが法律の世界です。良かれと思って行ったキャンペーンが原因で、消費者庁から措置命令を受けたり、同業者から通報されたりして、お店の信用を失ってしまっては元も子もありません。
本コラムでは、サロン経営者が特に知っておくべき「総付景品(全員プレゼント)」と「オープン懸賞」の違い、そして法律で定められた「景品の限度額」について、具体的な事例を交えて詳しく解説します。

なぜ「おまけ」が規制されるのか?景品表示法の目的
まず、そもそもなぜ、お客様に無料でプレゼントを渡す行為が法律で規制されているのでしょうか。
「お客様が得をするのだから、何の問題もないのでは?」と思われるかもしれません。
景品表示法の目的は、消費者の利益を保護することにあります。
もし、景品(おまけ)の額に制限がなかったらどうなるでしょうか。本来の商品やサービスの質、価格で競争するのではなく、「高額なおまけ」で客を釣る競争が過熱してしまいます。
例えば、「1万円の施術を受けたら、2万円のゲーム機をプレゼント!」というキャンペーンがあったとします。消費者は、施術の内容よりもゲーム機欲しさにその店を選ぶでしょう。しかし、店側も赤字を出すわけにはいきませんので、その分、施術の質を落としたり、見えない部分で手抜きをしたりするかもしれません。 結果として、質の悪いサービスをつかまされることになり、消費者が不利益を被る可能性があります。
こうした不健全な競争を防ぎ、消費者が商品・サービスの質と価格で正しく選択できるようにするために、景品表示法では「おまけの最高額」や「総額」に厳しい制限を設けているのです。

来店者全員に配るなら注意!「総付景品」の20%ルール
サロンの周年イベントなどで最も一般的なのが、来店者や購入者「全員」にノベルティや商品をプレゼントする形式です。
また、「先着〇〇名様」といった条件であっても、これに該当します。
法律用語では、これを【総付景品(そうづけけいひん)】と呼びます。
ベタ付け景品とも呼ばれます。
総付景品において、最も重要なのが【取引価額の20%】というルールです。
具体的には、以下の基準が設けられています。
■取引価額が1,000円未満の場合 景品類の上限額は【200円】まで
■取引価額が1,000円以上の場合 景品類の上限額は【取引価額の20%】まで
ここで言う「取引価額」とは、お客様が支払う金額(施術代金や商品代金)のことです。
(事例で考える)
ある美容室で、「1万円(税込)のカット・カラー」をしたお客様全員に、店販用のシャンプーをプレゼントしたいとします。
この場合、取引価額は10,000円です。
その20%にあたる【2,000円】が、提供できる景品の最高額となります。
もし、プレゼントしようとしているシャンプーの通常販売価格(または仕入れ値等の実勢価格)が2,500円だった場合、これは【違法】となります。
「たった500円オーバーしただけ」と思われるかもしれませんが、法律違反であることに変わりはありません。
よくある勘違いとして、「定価は3,000円だけど、メーカーから大量に安く仕入れたから原価は1,000円。だからOK」という解釈をしてしまう方がいます。
しかし、景品の価額は、原則として「一般市場価格(通常売られている価格)」で判断されます。安く仕入れたとしても、その商品の価値が3,000円であれば、3,000円の景品を提供したとみなされるリスクが高いため注意が必要です。


抽選で当たるキャンペーンの落とし穴「一般懸賞」の制限
次に、「来店者の中から抽選で〇名様にプレゼント」というケースです。
商品やサービスの購入を条件として、くじ引きや抽選で景品を提供する場合は、【一般懸賞】に該当します。
全員に配る「総付景品」とは異なり、こちらは「当たる人と当たらない人がいる」ため、射幸心(偶然の利益を期待する心理)を煽る性質があります。そのため、総付景品とは異なる制限が設けられています。
■一般懸賞の上限額(最高額) 取引価額が5,000円未満の場合:【取引価額の20倍】まで 取引価額が5,000円以上の場合:【10万円】まで
■一般懸賞の総額規制 キャンペーン期間中の売上予定総額の【2%】まで
(事例で考える)
5,000円のネイル施術を受けた人が応募できる抽選キャンペーンの場合。
最高額の上限は10万円です。
つまり、5,000円の施術のおまけとして、10万円の旅行券が当たるキャンペーンは可能です(上限以内なので)。 しかし、15万円の家電が当たるキャンペーンは【違法】となります。
さらに気をつけなければならないのが「総額規制」です。
例えば、キャンペーン期間中に1,000万円の売上を見込んでいる場合、その2%である【20万円】が、景品総額の上限となります。
1等は5万円でも、それを10本用意してしまえば総額50万円となり、売上規模に対して景品が過大であるとして、法律違反になります。

誰でも応募できる「オープン懸賞」なら上限なし?
ここまで解説したのは、あくまで「来店」や「購入」を条件とする(クローズドな)キャンペーンの話です。
これに対し、商品やサービスの購入を条件とせず、誰でも自由に応募できる懸賞を【オープン懸賞】と呼びます。
例えば、以下のようなケースです。
「誰でも応募OK!クイズに答えてハワイ旅行を当てよう」
「お店に来なくてもOK!Webサイトからアンケートに答えるだけで応募可能」
以前はオープン懸賞にも上限額の規制がありましたが、平成18年の法改正により、現在は【上限額の制限は撤廃】されています。
つまり、極端な話をすれば、1億円の現金や高級外車を景品にしても、景品表示法上は問題ありません(ただし、高額すぎる場合は他の法律や税務上の問題が発生する可能性はあります)。
サロン経営において、この「オープン懸賞」を活用するメリットは、認知度の拡大です。
来店を条件にしないため、まだお店を知らない潜在顧客に対してアピールすることができます。
ただし、「来店不要」と言いつつ、応募用紙をお店に取りに行かなければならない場合や、応募のために何らかの金銭的負担が発生する場合は、オープン懸賞とは認められないため注意が必要です。

SNSキャンペーンの必須条件!「応募規約」の重要性
近年、InstagramやX(旧Twitter)を使ったキャンペーンが非常に増えています。
「フォロー&いいね」や「フォロー&リポスト」で応募完了とする形式です。
これらは基本的に、金銭的な取引を条件としていないため、【オープン懸賞】として扱われることが一般的です。
したがって、景品の金額上限を気にする必要は基本的にはありません。
しかし、SNSキャンペーンには別のリスクがあります。それは「トラブル」のリスクです。
「当選連絡が来ない」
「商品はいつ届くのか」
「個人情報の取り扱いはどうなっているのか」
「アカウントが凍結されてキャンペーンが中止になった」
こうしたトラブルを防ぐために必須なのが、しっかりとした【応募規約】の作成です。
単に「プレゼント企画やります!」と投稿するだけでなく、キャンペーン用のLPや、投稿のキャプション(またはリプライ欄)に、以下の事項を明記する必要があります。
・応募資格(日本国内在住の方、未成年は保護者の同意が必要など)
・当選発表の方法と時期
・個人情報の利用目的(発送のみに使うのか、DMを送るのか)
・免責事項(SNSの不具合で中止になった場合の責任など)
・なりすましアカウントへの注意喚起
特に最近は、サロンの公式アカウントになりすました「偽アカウント」が出現し、応募者にDMを送ってクレジットカード情報を聞き出そうとする詐欺が多発しています。
「偽アカウントによる被害について、当店は一切の責任を負いません」といった免責文言を入れておくことは、お店を守るために不可欠です。
また、SNSのプラットフォームごとの規約(ガイドライン)も守らなければなりません。
例えば、Instagramでは「いいね!」の見返りとして金銭や金券を提供することを禁じている場合があります。法律だけでなく、プラットフォームのルールも確認しましょう。

割引と景品は違う?「値引き」の境界線
「プレゼントを用意するのは面倒だから、割引券を配りたい」という場合もあるでしょう。
実は、景品表示法において【値引き】は景品規制の対象外とされています。
正常な商慣習に照らして「値引き」と認められるものであれば、20%ルールなどの適用を受けません。 例えば、「次回来店時に使える500円OFFクーポン」や「ポイントカードでスタンプが貯まったら1回無料」といった施策です。
これらは、自社のサービスを割り引く行為なので、基本的には自由に設定できます。
しかし、注意が必要なのは【他社の商品券】や【キャッシュバック】の場合です。
「1万円以上の施術で、Amazonギフト券1,000円分プレゼント」
「施術代金の10%を現金でキャッシュバック」
これらは、自社のサービスの「値引き」ではなく、物品や金銭という「景品」を提供しているとみなされる可能性が高いです(ただし、キャッシュバックについては、条件設定によって値引きとみなされるケースもあり、判断が難しいグレーゾーンです)。
「自社で使えるクーポン」なら安全ですが、「どこでも使える金券」や「現金」を渡す場合は、景品規制の対象になる(総付景品として20%ルールが適用される)と考えた方が無難です。

弁護士によるキャンペーン設計のリーガルチェック
ここまで解説してきたように、キャンペーンや懸賞に関する法律は非常に複雑です。
「総付景品」なのか「一般懸賞」なのか、それとも「オープン懸賞」なのか。
その区分けを間違えるだけで、計算式が変わり、適法か違法かの判断が180度変わってしまいます。
特に、新しい集客アイデアほど、前例が少なく法的な判断が難しいものです。
「競合店もやっているから大丈夫だろう」という安易な判断は危険です。
その競合店も、実は法律を知らずに違反状態のまま運営しているだけかもしれません。ある日一斉に摘発されるリスクもあります。
当事務所では、サロン経営者様や企業のマーケティング担当者様からのご相談を受け付けております。
・企画しているキャンペーンが景品表示法に違反していないか
・SNSキャンペーンの応募規約に不備はないか
・景品の上限額はいくらに設定すべきか
・広告表現として問題ないか
これらを事前に弁護士がチェックすることで、安心してプロモーションに注力していただけます。
キャンペーンは、お客様を楽しませるためのお祭りです。
そのお祭りが、法律違反という冷や水で台無しにならないよう、企画段階からリーガルチェックを取り入れることを強くお勧めいたします。
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