COLUMNコラム

  1. TOP
  2. COLUMN
  3. 有期雇用契約(パート・アルバイト)の更新トラブルを防ぐ「雇い止め」のルール〜経営者が知っておくべきリスクと対策〜

有期雇用契約(パート・アルバイト)の更新トラブルを防ぐ「雇い止め」のルール〜経営者が知っておくべきリスクと対策〜

企業法務 2026.01.02.

有期雇用契約(パート・アルバイト)の更新トラブルを防ぐ「雇い止め」のルール〜経営者が知っておくべきリスクと対策〜

 小売業、製造業、サービス業などを営む経営者の皆様、また日々現場でスタッフの管理をされている店長や工場長の皆様。

 パートタイマーやアルバイト、契約社員といった「有期雇用契約」で働くスタッフとの契約更新時期が近づくと、憂鬱な気持ちになることはありませんか?

「勤務態度の悪いスタッフとの契約を、今回の期間満了で終了させたい」

「経営状況の変化で、次の更新は難しい」

 そう考えて、本人に「次回の契約更新はしません」と伝えたところ、

『突然そんなことを言われても困る』

『ずっと働けると言われていた』

『納得できない』

 と激しく反発され、労働組合が乗り込んできたり、弁護士から通知書が届いたりするケースが近年急増しています。

 経営者側としては「期間が決まっている契約なのだから、期間が終われば終了するのは当たり前だ」と考えるのが自然でしょう。

 しかし、日本の労働法、特に労働契約法においては、その「当たり前」が通用しないケースが多々あります。

 これが、いわゆる【雇い止め】の問題です。

 本コラムでは、なぜ「期間満了」で辞めてもらうことがこれほど難しいのかという法的な背景から、トラブルを未然に防ぐための具体的な契約書の作り方、日々の運用上の注意点まで、詳細に解説していきます。

そもそも「雇い止め」とは何か?(労働契約法第19条の壁)

 まず、基本的な用語の整理をしましょう。

 「雇い止め」とは、有期雇用契約において、会社側が契約の更新を拒否し、期間満了をもって雇用関係を終了させることを指します。

 民法の原則で言えば、期間の定めのある契約は、期間が来れば当然に終了します。しかし、労働契約においては、立場の弱い労働者を守るため、労働契約法第19条によって一定の歯止めがかけられています。これを【雇い止め法理】と呼びます。

 この法律では、以下のいずれかのケースに該当する場合、会社が更新を拒絶しても、労働者が「更新したい」と申し出れば、法律上【契約が更新されたもの】とみなされます。

 つまり、雇い止め(解雇)が無効になります。

<ケース1:実質無期状態>

 過去に何度も更新が繰り返されており、実態として「期間の定めのない契約(正社員など)」と変わらない状態になっている場合。

(例:契約書の手続きがずさんで、形式的に更新しているだけの場合など)

<ケース2:更新期待権>

 契約期間満了時に、労働者が「契約は更新されるだろう」と期待することに【合理的な理由】がある場合。

(例:採用時に「長く働いてほしい」と言われた、過去に雇い止めされた人がいない、など)

 形式上契約書に期間が書いてあっても、実態や言動によっては「正社員を解雇するのと同じくらい厳しい理由(客観的合理的理由と社会通念上の相当性)」がない限り、辞めてもらえなくなるのです。

裁判所はここを見る!「更新への期待」が発生する6つの要素

 では、実際にトラブルになり裁判等になった場合、どのような要素が判断材料になるのでしょうか。

 過去の判例から、主に以下の【6つの要素】が総合的に考慮されます。

1.【業務の客観的内容】

 仕事の内容が、正社員と同じような恒常的・基幹的な業務か、それとも臨時的・補助的な業務か。正社員と同じ仕事をしていれば、更新への期待は高まります。

2.【契約上の地位の基幹性】

 その労働者が正社員と同様の責任や権限を持っているか。

3.【更新の回数・期間】

 更新回数が多く、通算期間が長ければ長いほど、期待権は強固になります。例えば、半年契約を10回更新して5年働いている場合などは、期待権が非常に高いと言えます。

4.【同様の地位にある他の労働者の状況】

 同じ立場の他のパート社員もみんな更新されているか、それとも過去に雇い止めされた例があるか。「今まで誰も断られたことがない」という職場環境であれば、「自分も更新される」と思うのは当然と判断されます。

5.【契約更新時の手続】

 ここが非常に重要です。契約期間が過ぎてから事後的に契約書を作ったり、ハンコを推すだけの形式的な手続きだったりすると、「期間は形だけのもの」とみなされやすくなります。

6.【使用者の言動】

 採用時や更新時に、上司や経営者が「うちは定年まで働けるよ」「よっぽどのことがない限り更新するから」といった発言をしていなかったか。

 経営者の皆様は、自社の現状がこれら6つの要素に照らして「危険な状態」になっていないか、一度見直してみる必要があります。

最大のリスク要因「自動更新」の実態を排除せよ

 上記の要素の中で、今日からすぐに改善できるのが「更新手続き」の厳格化です。

 最も避けるべきは、契約書に「本契約は自動的に更新する」と記載してしまうこと、あるいは契約書すら交わさずに「前回と同じでいいよね」と済ませてしまうことです。

 これを防ぐための鉄則は以下の通りです。

・契約満了の1ヶ月前までには必ず面談を行う。

・その際、次回の契約内容(労働条件)を提示し、合意を得る。

・期間満了日までに、必ず新しい雇用契約書(労働条件通知書)に署名・捺印をもらう。

・契約期間が過ぎてから契約書を作成する「遡及(そきゅう)契約」は絶対に行わない。

 「更新手続きを毎回しっかり行う」というプロセス自体が、「この仕事には期限がある」という認識を労働者に与え、過度な期待権の発生を防ぐことに繋がります。

契約書作成の要点①:曖昧さを残さない「更新判断基準」の明記

 契約書(労働条件通知書)には、「更新する場合があり得る」と書くだけでは不十分です。

 「どういう場合に更新し、どういう場合に更新しないのか」という【判断基準】を明確に列挙する必要があります。

 厚生労働省の基準でも明示が求められていますが、具体的には以下のような項目を記載します。

<更新判断の基準例>

・契約期間満了時の業務量(仕事が減れば更新しない可能性があることの示唆)

・労働者の勤務成績、態度

・労働者の能力

・会社の経営状況

・従事している業務の進捗状況

 さらに重要なのは、これらの基準を単に載せるだけでなく、日頃から人事評価や指導記録を残しておくことです。

 いざ「勤務成績不良のため更新しない」と判断した時に、客観的な記録(遅刻の回数、ミスの報告書、指導記録など)がなければ、言いがかりと取られてしまいます。

契約書作成の要点②:トラブル予防の切り札「更新上限(不更新条項)」

 これから新しく人を採用する場合、あるいは契約を更新するタイミングで、最も効果的なトラブル予防策となるのが【更新回数・年数の上限設定(不更新条項)】です。

 契約書の特記事項等に、以下のように明記します。

《記載例》

「本契約の更新は、通算契約期間○年を上限とする」

「本契約の更新回数は最大○回までとし、それ以降は更新しない」

 これを最初の契約時に合意しておけば、労働者は「自分は最大でもここで○年しか働けない」と明確に認識して入社します。

 その結果、「ずっと働けると思っていた」という期待権の主張を封じることができます。

【注意点】

 すでに長年働いているスタッフに対し、次回の更新から急にこの上限をつけることは「労働条件の不利益変更」にあたる可能性が高く、慎重な対応が必要です。

 十分な説明と同意、あるいは代償措置(経過措置)などが必要になる場合がありますので、実行する際は必ず専門家にご相談ください。

「無期転換ルール(5年ルール)」への誤解と正しい対処法

 労働契約法第18条により、有期契約が通算5年を超えた場合、労働者には「無期雇用契約への転換」を申し込む権利が発生します。

 よくある誤解が、「5年を超えたら自動的に正社員にしなければならない」というものですが、これは間違いです。

 あくまで「労働者から申し込みがあった場合」に、「無期(期間の定めのない)契約」に転換されるだけであり、給与や待遇まで正社員と同じにする義務はありません(定年後の再雇用などでよく見られるケースです)。これを「別段の定め」と言います。

 ただし、無期転換されると「契約期間満了による終了」ができなくなるため、雇用の流動性は下がります。

 もし、貴社の人員計画として「長期雇用は想定していない」のであれば、前述の「更新上限」を「通算4年以内」や「更新は3回まで(計4年)」等に設定し、5年を超える前に契約が円満に終了する仕組みを最初から作っておく必要があります。

もしトラブルになったら? 紛争リスクとコスト

 安易な雇い止めを行い、労働者から訴えられて敗訴した場合(雇い止め無効の判決が出た場合)、会社は以下のようなコストを負うことになります。

・【バックペイ(賃金相当額)】

 解雇(雇い止め)してから判決が出るまでの期間(1年〜数年)の給与を、全額支払わなければなりません。働いていなかった期間の給与も、「会社が不当に拒否したせいだ」として支払い義務が生じます。

・【職場復帰】

  信頼関係が崩れた従業員を、再び職場に迎え入れなければなりません。これは現場にとって大きなストレスとなります。

・【慰謝料・解決金】

  和解で解決する場合でも、給与の数ヶ月〜1年分程度の解決金の支払いを求められることが一般的です。

 こうした事態を避けるためにも、「揉めてから対処する」のではなく、「揉めないための契約書を作る」ことが、最もコストパフォーマンスの高い経営判断と言えます。

まとめ:口約束は禁物、書面での合意が会社を守る

 有期雇用契約のトラブルは、多くの場合、入り口である「契約締結時」の甘さに原因があります。

「いい人そうだから、細かいことはいいだろう」

「今までもうまくいっていたから大丈夫だろう」

 という性善説や慣習は、今の時代、経営リスクそのものです。

<今回の重要ポイント>

1.更新手続きを形骸化させず、面談と契約書作成を毎回行う。

2.契約書には具体的な「更新基準」を明記する。

3.可能であれば「更新上限(不更新条項)」を最初から設定する。

4.自動更新条項は絶対に入れない。

 それぞれの企業の業態や、守りたい組織風土によって、適切な契約書の条項は異なります。

 インターネットの雛形をそのまま使うのではなく、自社の実情に合わせたカスタマイズが必要です。

アバター画像

監修・執筆:弁護士 横田 秀俊 福井弁護士会所属

日本弁護士連合会の中小企業法律支援センター幹事を務め、中小企業の法的支援体制の構築に携わる。
福井県内地域においては、福井県事業承継・引継ぎ支援センターのエリアコーディネーターとして、数多くの事業引継ぎや経営課題の解決を主導。
法律のプロフェッショナルとして、緻密な法理と現場主義を両立させた的確なアドバイスを提供している。

pagetop