COLUMNコラム
就業規則、作ったまま放置していませんか?企業を守るための法改正対応チェックポイント
企業法務 2025.12.30.
~目次~
会社を設立した当初に作成した就業規則、その後一度でも見直したことはあるでしょうか。
「従業員も少ないし、大きなトラブルも起きていないから大丈夫」
と考えて、キャビネットの奥底に眠らせてしまっている経営者様は少なくありません。
しかし、企業を取り巻く環境や労働に関する法律は、毎年のように目まぐるしく変化しています。
数年前に作成した就業規則は、現在の法律に適合していない可能性が極めて高く、そのまま運用を続けることは企業にとって予期せぬ大きなリスクとなります。
本コラムでは、なぜ古い就業規則を放置することが危険なのか、そして近年の法改正において必ず確認すべき重要ポイントについて、弁護士法人横田秀俊法律事務所が詳しく解説します。

「古い就業規則」が会社を危険にさらすこれだけの理由
「就業規則なんて、とりあえず形式的にあればいいだろう」と思っていませんか?
その認識は、現代の労務管理においては非常に危険と言わざるを得ません。
法改正に対応していない古い就業規則を放置することは、単に「役に立たない」だけでなく、労使トラブルが発生した際に、会社が違法状態にあることの決定的な証拠(言質)となってしまう可能性があるからです。
労働基準法やその他の労働関係法令は、労働者を保護するために「最低限の基準」を定めています。もし、皆様の会社の就業規則が、改正された新しい法律の基準を下回っている場合、その部分は「無効」となり、法律で定められた基準が自動的に適用されることになります(労働基準法第13条)。
例えば、法律で「有給休暇の取得義務」が定められているのに、就業規則にその記載がなく、実際の運用もなされていない場合、労働基準監督署の是正勧告の対象となるだけでなく、従業員から未払い賃金や損害賠償を請求されるリスクも高まります。
会社を守るために作ったはずのルールブックが、メンテナンスを怠ったせいで、逆に会社を追い詰める凶器になってしまうのです。

必ずチェックすべき近年の重要な法改正3選
ここ数年だけでも、企業の実務に直結する大きな法改正が相次いでいます。
雛形をそのまま使っている場合や、数年間改定していない場合は、ほぼ間違いなく以下の点に対応できていません。
(1)育児・介護休業法の改正
近年、最も頻繁かつ大きな改正が行われている分野の一つです。
特に重要なのが、男性の育児休業取得を促進するための「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設や、育児休業を分割して取得できるようになった点です。
また、有期雇用労働者の育児休業取得要件も緩和されています。
古い規定のままでは、「法律では認められている権利なのに、会社の規則では禁止されている(あるいは記載がない)」という状況になり、明確な法令違反となります。
従業員から申請があった際に現場が混乱しないよう、最新の制度に沿った規定整備が急務です。

(2)パワハラ防止法(労働施策総合推進法)
現在は大企業だけでなく、中小企業に対しても「パワーハラスメント防止措置」が義務化されています。
これに伴い、就業規則において、以下の点を明確に規定する必要があります。
・どのような行為がハラスメントにあたるのか
・ハラスメントを行った者に対して、どのような厳正な処分を下すのか
・相談窓口の設置と周知
「うちはアットホームだから関係ない」は通用しません。
規定がないこと自体が、会社の安全配慮義務違反とみなされ、損害賠償請求のリスクを増大させます。

(3)高年齢者雇用安定法の改正
少子高齢化に伴い、70歳までの就業機会の確保が「努力義務」化されています。
定年を60歳や65歳と定めている場合でも、その後の再雇用制度や継続雇用制度について、最新の法令に沿った規定整備が必要です。特に、定年後の賃金設計や労働条件についてはトラブルになりやすいため、就業規則(または嘱託社員就業規則など)で明確にルール化しておくことが、会社と従業員双方の納得感につながります。

「懲戒事由」が不明確だと処分が無効になるリスク
従業員が問題行動を起こしたとき、会社は「懲戒処分(減給、出勤停止、懲戒解雇など)」を検討します。
しかし、ここで非常に大きな法的な落とし穴があります。
法律上、懲戒処分を行うためには、「あらかじめ就業規則に、その理由(懲戒事由)と処分の種類が明記されていること」が大原則です。これを罪刑法定主義(法律なければ刑罰なし)の原則といいます。
創業当時の古い就業規則では、現代ならではのトラブルに対応しきれないケースが増えています。
例えば:
・SNSでの不適切な投稿による会社の信用毀損(炎上)
・許可のない副業・兼業による業務支障
・社内情報の不正な持ち出しや漏洩
これらに対し、「その他、不適切な行為」といった抽象的で包括的な条項だけで重い処分を下そうとすると、裁判になった際に「就業規則に具体的な根拠がない」として、処分が無効(無効になればバックペイ等の支払い義務が発生)と判断されるリスクが高まります。
「どのような行為をしたら、どのような処分になるのか」を具体的かつ網羅的に定めておくことは、規律ある職場環境を維持するための生命線なのです。

社長室に保管はNG?就業規則の「周知義務」とは
内容のアップデートと同じくらい重要なのが、就業規則の保管・運用方法です。
労働基準法第106条では、作成した就業規則を「労働者に周知させる義務」を定めています。
この「周知」について、裁判所は非常に厳格に解釈しています。単に「就業規則があるよ」と伝えるだけでは不十分で、「従業員が見たいと思ったときに、いつでも見られる状態にしておくこと」が必須条件です。
以下のような管理方法は、法的には「周知義務を果たしていない」とみなされる可能性が高いです。
・社長の机の引き出しに鍵をかけてしまっている
・金庫の中に保管しており、誰も取り出せない
・「見たい」と申し出ないと閲覧させず、総務部長の許可が必要
周知義務が果たされていない就業規則は、法的に「効力が発生していない」と判断されるのが判例の傾向です。
これでは、どんなに立派な規則を作っても、いざという時に会社を守る根拠として使えません。
共有サーバーへのPDF保存、休憩室や食堂への備え付け、入社時の書面配布など、「誰でも・いつでも」アクセスできる環境を整えることが、ルールの効力を担保します。


まとめ:トラブルを未然に防ぐために
就業規則は、会社と従業員との間の「契約書」そのものです。
「法律が変わっている気がするが、何を変えればいいかわからない」
という不安を抱えたまま放置することは、経営上の大きな爆弾を抱えているのと同じです。
今の自社の就業規則が、最新の法律に対応できているか、また、現在の会社の規模や働き方に合っているか。トラブルが起きてから慌てるのではなく、何もない今だからこそ、一度専門家の目でチェックすることをお勧めいたします。
会社を守り、従業員が安心して働ける環境を整えるために、まずは現状の診断から始めてみませんか?

【弁護士法人横田秀俊法律事務所へのご相談について】
当事務所では、福井県を中心に、企業の就業規則作成・変更、労務管理に関する法的アドバイスを行っております。
インターネット上の一般的な雛形ではなく、法改正への対応はもちろん、貴社の業種や実情に合わせた「生きた就業規則」のご提案をいたします。
・「創業以来、一度も就業規則を見直していない」
・「従業員が増えてきたので、きちんとしたルールを作りたい」
・「今の規則で法的に問題がないか不安だ」
このようなお悩みをお持ちの経営者様は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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