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【ニュース解説】米国がICC赤根智子所長を制裁対象に 国際刑事裁判所とは何か、制裁で何が起きるのかを弁護士が解説

ニュース解説 2026.08.28.

【ニュース解説】米国がICC赤根智子所長を制裁対象に 国際刑事裁判所とは何か、制裁で何が起きるのかを弁護士が解説
横田先生、国際刑事裁判所の赤根所長がアメリカから制裁を受けたというニュースを見ました。日本人の裁判官が制裁されるなんて、どういうことなのでしょうか。そもそも国際刑事裁判所という裁判所も、名前を聞いたことがある程度で、よく分からなくて。

Aさん

微笑

横田

大きく報じられましたね。国際刑事裁判所、略してICCは、戦争犯罪やジェノサイドといった特に重大な犯罪について、国ではなく個人を裁く常設の国際裁判所です。その所長を務めている赤根智子さんが、2026年8月18日、アメリカ政府から制裁の対象に指定されました。
制裁というと、北朝鮮やロシアに対するもののイメージがあります。裁判官個人に制裁というのは、聞いたことがありません。

Aさん

微笑

横田

そこが今回の出来事の異例なところです。資産の凍結や入国の禁止といった、本来は国家やテロ組織に向けられるような措置が、裁判所の裁判官個人に向けられているのです。今日は、ICCという裁判所の仕組みと、今回の制裁が何を意味するのかを、順を追ってお話しします。

2026年8月18日、アメリカのトランプ政権は、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長と、検察局のアブドゥライェ・セエ上級公判弁護士の2人を、新たに制裁の対象に指定すると発表しました。日本政府は翌19日、外務報道官談話で「今回の措置は大変残念です」との立場を表明し、赤根所長自身も26日、日本記者クラブのオンライン記者会見で「制裁を受ける理由は全くない」「ICCは決して負けない」と述べています。

この記事では、このニュースをきっかけに、ICCとはどのような裁判所なのか、なぜアメリカが反発しているのか、制裁によって何が起きるのか、そして日本や私たちの生活とどう関わるのかを解説します。

2025年2月の大統領令14203号署名とカーン検察官の指定から、2026年8月18日の赤根智子所長らの指定、日本政府の談話、8月26日の赤根所長の記者会見までを時系列で示す。

国際刑事裁判所(ICC)とは何か

国際刑事裁判所(International Criminal Court、ICC)は、オランダのハーグに本部を置く常設の国際刑事法廷です。1998年に採択された「ローマ規程」という条約に基づき、2002年に発足しました。

裁く対象は、国家ではなく個人です。

ジェノサイド(集団殺害)、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪という、国際社会全体にとって最も重大な犯罪について、国家の指導者であっても個人として刑事責任を問うというのがICCの役割です。

もっとも、ICCは何でも裁けるわけではありません。

管轄権が及ぶのは、原則として、ローマ規程の締約国の領域内で犯罪が行われた場合か、犯人が締約国の国民である場合です(このほか、国連安全保障理事会からの付託などがあります)。また、その国の裁判所が自ら捜査・訴追する意思と能力を持っている場合には、ICCは手を出さないという「補完性の原則」もあります。

裁判官は18人で、締約国の会合で選ばれます。現在の所長が赤根智子さんです。近年では、2023年にロシアのプーチン大統領に、2024年にイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状が出されたことで、ICCの名前を目にする機会が増えました。

国際刑事裁判所の基本を説明するスライド。1998年のローマ規程に基づき2002年に発足し本部はハーグ、裁く対象は国家でなく個人、対象はジェノサイドなど4つの重大犯罪、補完性の原則、裁判官は18人と紹介。

日本とICCの関わり――赤根智子所長とは

日本は2007年10月1日にローマ規程に加入し、ICCの加盟国となりました。分担金の拠出額は加盟国の中で最大で、ICCを財政面で支える立場にあります。国内でも「国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律」(平成19年法律第37号)が整備され、ICCの捜査や裁判に協力するための手続が定められています。

赤根智子所長は、長年、日本の検察官を務めたのち、2018年からICCの裁判官となり、2024年3月11日、日本人として初めてICCの所長に選出されました。外務省も、これを歓迎する外務大臣談話を出しています。

つまり、今回制裁の対象になったのは、日本が長年支えてきた国際裁判所のトップであり、日本が送り出した法律家でもあるということです。

日本とICCの関わりを示すスライド。2007年10月1日のローマ規程加入、加盟国で最大の分担金拠出、2024年3月11日に赤根智子判事が日本人初の所長に選出、国内のICC協力法の整備を4つの枠で紹介。

アメリカはなぜICCに反発しているのか

アメリカはローマ規程の締約国ではありません。2000年に署名はしたものの、2002年には締約国となる意思がないことを国連に通知しています。イスラエルも締約国ではありません。

アメリカ側の主張の中心は、「締約国でない国の国民を、その国の同意なしにICCが捜査・訴追するのは主権の侵害だ」というものです。ICCは、アフガニスタンの事態に関してアメリカ軍関係者の行為も含めた捜査を認め(2020年)、パレスチナの事態に関してイスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を出しました(2024年11月)。これらがアメリカの強い反発を招きました。

これに対し、ローマ規程12条2項(a)は、犯罪が行われた場所が締約国の領域内であれば、犯人の国籍を問わずICCの管轄権が及ぶと定めています。アフガニスタンは2003年から締約国であり、パレスチナについてもICCは2021年に管轄権が及ぶとの判断を示しています。「非締約国の国民にはICCの管轄権が一切及ばない」という説明は、この条文の文言からすると広すぎるという指摘があります。もっとも、管轄権があることと、実際に逮捕状を執行できることは別の問題で、この点はイスラエル側からの異議も含めて争いが続いています。

トランプ大統領は2025年2月6日、大統領令14203号に署名し、ICC関係者に制裁を科す枠組みを作りました。同月にはカーン検察官(当時)が、その後も裁判官や検察局関係者が段階的に指定され、2026年8月18日の赤根所長らの指定に至りました。赤根所長によれば、18人の裁判官のうち9人が制裁対象になっているという異例の事態です。

アメリカがICCに反発する理由を対比するスライド。左に非締約国の国民を裁くのは主権侵害だとする米国側の主張、右に犯罪地が締約国なら管轄権が及ぶとするローマ規程12条2項(a)の考え方を並べて整理。

今回の制裁で具体的に何が起きるのか

今回の制裁は、アメリカの国内法である国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とするもので、主な内容は次のとおりです。

・アメリカ国内にある資産や、アメリカ人(アメリカの企業を含む)が管理する資産の凍結

・アメリカ人が制裁対象者と取引をすることの禁止(資金や物品・サービスの提供だけでなく、対象者からサービスを受けることも含まれ得ます)

・本人と一定の家族のアメリカへの入国停止

さらに、制裁対象者が50%以上を所有する法人も凍結の対象になる「50%ルール」があります。

「アメリカの話なら、ハーグや日本で暮らす分には関係ないのでは」と思われるかもしれません。しかし実際には、制裁の影響は日常生活に及びます。クレジットカードの国際ブランドや、メール・クラウドといったITサービスの多くはアメリカ企業が提供しており、これらが利用できなくなる可能性があるからです。2025年に制裁対象となったカナダ出身の裁判官は、指定から数時間でカードが使えなくなり、通販サイトのアカウントも閉鎖されたと報じられています。赤根所長も26日の会見で、一部のクレジットカードが使えなくなり、日常生活に影響が出ていることを明らかにしました。

なお、アメリカ財務省は今回の指定と同時に、一定の取引を2026年9月17日まで認める「一般許可」も出していますが、これは取引の「巻き戻し」に必要な範囲に限った時限的なものです。

制裁の内容を説明するスライド。国際緊急経済権限法を根拠とする資産凍結、アメリカ人との取引禁止、本人と家族の入国停止の3つと、50%ルール、2026年9月17日までの一般許可GL12を図解で示す。
制裁が日常生活に及ぶ影響のスライド。クレジットカードの停止、メールやクラウドの利用停止、通販アカウントの閉鎖、銀行の過剰遵守の4例を挙げ、日本の金融機関に法的義務はない点にも触れる。

日本の政府・企業・金融機関はどう対応すべきか

日本政府は8月19日、外務報道官談話で「我が国は、国際社会における最も重大な犯罪の処罰と撲滅、法の支配の徹底のため、常設の国際刑事法廷であるICCを一貫して支持してきています。このような立場から、今回の措置は大変残念です」と表明しました。もっとも、抗議や撤回要求といった踏み込んだ表現は含まれておらず、この対応については、より強い姿勢を求める声も報じられています。

日本の金融機関や企業については、アメリカの大統領令に直接従う法的な義務はありません。しかし、米ドル決済、アメリカの親会社やアメリカ人の役職員、アメリカ国内のサーバーが関わる取引ではアメリカ法との接点が生じ得ますし、法的義務がなくても、将来の制裁リスクを避けるために取引を停止する「過剰遵守」が起きることがあります。赤根所長の日本国内の口座やカードがどうなるのかに注目が集まっているのも、このためです。

企業の実務としては、制裁対象者リスト(SDNリスト)に載ったことだけを理由に一律に取引を拒むのではなく、

①相手が制裁対象者本人か、対象者が50%以上を所有する法人か

②アメリカ人・アメリカ法人・米ドル決済などの接点があるか

③一般許可や個別許可の対象か

④契約上の制裁条項がどうなっているか

⑤日本法上の契約責任や差別禁止との関係はどうか

という順に整理して検討することになります。

過剰に反応すれば日本法上の契約責任を問われかねず、逆に接点を見落とせばアメリカ法違反のリスクがある、という難しい判断です。

日本の企業・金融機関の対応手順のスライド。相手は誰か、アメリカとの接点、許可の有無、契約条項、日本法との関係という5段階のチェックリストと、過剰反応と見落としの板挟みになる判断の難しさを図解。

法的に見た争点――制裁は「合法」なのか

アメリカ国内では、この大統領令をめぐって複数の連邦訴訟が起こされています。ICCに関する研究や教育、法的助言といった「言論」に制裁を適用することについては、連邦地方裁判所が合衆国憲法修正第1条(表現の自由)に反すると判断した例が複数あります。今年8月11日には、人権団体などがICCの裁判官・検察官らへの制裁の無効を求めて新たに提訴しています。ただし、大統領令全体を無効とした上級審の判断はまだなく、指定そのものは現在も実施されています。

国際法の観点では、ローマ規程48条がICCと裁判官・検察官に必要な特権免除を認めているほか、同70条は、ICC職員の職務を妨害・威迫する行為や、職務を理由とする報復を犯罪と定めています。アメリカ政府が裁判官の判断や検察官の捜査を理由に制裁を科していることから、これらとの緊張関係を指摘する議論があります。もっとも、アメリカはローマ規程の当事国ではなく、国家の制裁措置に70条が適用された例もないため、「違法だ」と断定できる段階にはありません。

日本法でも、ICC協力法64条がICC職員への暴行・脅迫などを処罰していますが、経済制裁がこれに当たるとは言い難く、日本法だけで対応できる問題ではないのが実情です。

法的な争点を整理したスライド。アメリカ国内法では修正第1条をめぐる連邦訴訟、国際法ではローマ規程48条・70条との緊張関係、日本法ではICC協力法64条の限界と、三つの法秩序ごとに未解決の問題を示す。

遠い世界の話ではない――「法の支配」を考える

今回の出来事が私たちに突きつけているのは、「裁判官が、その判断を理由に不利益を受けてよいのか」という問いです。

裁判官は、当事者がどれほど強い立場にあっても、法に従って判断する。その判断を理由に報復されないからこそ、裁判は信頼されます。これは国際裁判所に限った話ではなく、日本の裁判所についても同じことがいえます。私たちが日々、交通事故や相続、離婚の紛争を裁判所に持ち込めるのは、裁判官が誰の圧力も受けずに判断するという前提があるからです。

赤根所長は会見で、ICCは重大な国際犯罪の被害者にとって「最後の希望」だと述べました。制裁の是非については立場によって見方が分かれるでしょうが、司法の独立が損なわれれば、最終的に不利益を被るのは力のない側だという点は、忘れてはならないと思います。

紺色の背景に「裁判官は、その判断を理由に不利益を受けてよいのか」と問いを掲げ、司法の独立が法の支配の土台であり、損なわれれば不利益を被るのは力のない側だと3点で述べる。

困ったときは弁護士に相談を

国際的な制裁の話は、企業にとっても他人事ではなくなってきています。海外との取引がある事業者の方は、取引先や決済経路にアメリカ法との接点がないか、契約書の制裁条項がどうなっているかを、一度確認しておくことをお勧めします。

また、国際刑事裁判所の仕組みそのものに関心を持たれた方も、ぜひこの機会に「法の支配」とは何かを考えてみてください。


制裁といっても、アメリカ国内の資産だけの話ではなく、カードやメールまで使えなくなることがあるとは思いませんでした。裁判官が判断を理由に不利益を受けるというのは、確かに怖いことですね。

Aさん

微笑

横田

そうなんです。制裁の是非は政治的な評価が分かれるところですが、裁判官が独立して判断できる仕組みは、国際裁判所でも日本の裁判所でも、私たちの権利を守る土台になっています。
うちの会社も海外の取引先がありますが、こうした制裁のことは意識したことがありませんでした。福井から離れた場所に本社がある取引先のことでも相談できますか。

Aさん

微笑

横田

もちろんです。当事務所は全国の案件に対応しており、オンラインでのご相談も承っています。契約書の制裁条項の確認や、取引先が制裁対象になった場合の対応など、早めに整理しておくと安心です。一人で抱え込まず、まずはお気軽にお声がけください。

お問い合わせ先

弁護士法人横田秀俊法律事務所

〒912-0087 福井県大野市城町8番6号

電話:0779-64-4099

ZOOMやGoogle Meetなどを使ったオンライン相談にも対応しています。

福井県内に限らず、全国の案件に対応しています。

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監修・執筆:弁護士 横田 秀俊 福井弁護士会所属

日本弁護士連合会の中小企業法律支援センター幹事を務め、中小企業の法的支援体制の構築に携わる。
福井県内地域においては、福井県事業承継・引継ぎ支援センターのエリアコーディネーターとして、数多くの事業引継ぎや経営課題の解決を主導。
法律のプロフェッショナルとして、緻密な法理と現場主義を両立させた的確なアドバイスを提供している。

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