COLUMNコラム
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協議離婚の落とし穴|離婚協議書・公正証書を作るべき理由
離婚 2026.07.22.

Dさん

横田

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横田

口約束の危険――「言った・言わない」になる前に
協議離婚は、夫婦が離婚に合意し、離婚届を提出すれば成立します。
裁判所を通す必要がなく、費用も時間もかからないため、日本で最も多く選ばれている離婚の形です。
しかし、この手軽さには落とし穴があります。離婚の条件まで口約束で済ませてしまうことです。
養育費、財産分与、慰謝料、面会交流――こうした取り決めは、離婚届には一切記載されません。つまり、離婚そのものは成立しても、お金や子どもに関する約束は何の証拠も残らないのです。
離婚した直後は、お互い「ちゃんと守ろう」と思っているものです。ところが、時間が経って相手が再婚したり、転職して収入が変わったりすると、状況は変わります。「そんな金額で約束した覚えはない」「もう払えない」と言われたとき、口約束では「言った・言わない」の水掛け論になってしまいます。
特に養育費は、子どもが成人するまで長く続く約束です。途中で支払いが滞ったとき、約束した内容が何も残っていなければ、取り立てることすら難しくなります。実際、養育費の不払いは社会的にも大きな問題になっており、その背景の一つに「取り決めを口約束で済ませてしまった」ケースが少なくありません。だからこそ、合意した内容は必ず形に残すことが大切なのです。
「相手を信用しているから書面はいらない」と考える方もいます。しかし、書面を作ることは相手を疑うことではありません。むしろ、お互いが約束した内容をはっきりさせ、後の誤解を防ぐための、いわば二人の安心のための手続きです。気持ちが冷静なうちに、きちんと取り決めておくことこそ、双方にとって誠実な対応だといえるでしょう。


離婚協議書で合意を明確にする
そこで最初の一歩となるのが、離婚協議書の作成です。これは、夫婦が話し合って決めた離婚の条件を、書面にまとめたものです。
離婚協議書には、一般的に次のような項目を記載します。
- 離婚の合意(協議離婚すること)
- 親権者をどちらにするか
- 養育費の金額・支払い方法・支払い期間
- 面会交流の頻度や方法
- 財産分与の内容
- 慰謝料の有無と金額
- 年金分割に関する取り決め
これらを文書にして双方が署名・押印しておけば、後から「そんな約束はしていない」と言われても、合意の内容を客観的に示す証拠になります。お互いが何に同意したのかが一目で分かるため、無用な誤解やトラブルを防ぐことができます。
離婚協議書を作るうえで気をつけたいのは、表現があいまいにならないようにすることです。
たとえば「養育費は適宜支払う」「財産は話し合って分ける」といった書き方では、後でいくらでも解釈が分かれてしまい、せっかくの書面が役に立ちません。
「毎月末日までに金〇万円を指定口座に振り込む」というように、金額・時期・方法を具体的に書き込むことが、トラブルを防ぐうえで欠かせません。
ただし、注意していただきたいのは、離婚協議書はあくまで「証拠」であって、それ自体に強制力があるわけではないという点です。相手が約束を破って支払いを止めたとき、協議書を根拠に「払え」と請求はできますが、いきなり財産を差し押さえることはできません。差押えをするには、原則として改めて裁判などの手続きが必要になります。
ここをもう一歩進めて、より強い効力を持たせるのが、次に説明する公正証書です。


強制執行認諾文言付き公正証書という切り札
離婚協議書をさらに強力にするのが、公正証書です。公正証書とは、公証役場で公証人という法律の専門家が作成する公的な文書のことをいいます。
公正証書を作る最大のメリットは、強制執行認諾文言を付けられる点にあります。これは、「約束した支払いを怠ったときは、ただちに強制執行を受けても異議はありません」という趣旨の一文です。この文言が入った公正証書があれば、相手が養育費などの支払いを止めたとき、裁判を起こさなくても、いきなり相手の給料や預金を差し押さえることができます。
たとえば、養育費が3か月滞ったとします。協議書だけなら、まず裁判をして勝訴判決をもらわなければ差押えはできません。これには相応の時間と労力がかかります。一方、強制執行認諾文言付きの公正証書があれば、その手続きを飛ばして、すぐに差押えへ進めるのです。この差は非常に大きいといえます。
さらに、こうした公正証書が手元にあること自体が、不払いに対する抑止力にもなります。「払わなければすぐに給料を差し押さえられる」と分かっていれば、支払う側も安易に滞納しにくくなるからです。実際に差押えに至らずとも、公正証書の存在が約束の履行を後押ししてくれるという、目に見えない効果も見逃せません。
公正証書を作成する流れは、おおむね次のとおりです。まず夫婦で合意内容を固め、公証役場に連絡して必要書類を準備します。公証人が文案を作成し、内容を確認したうえで、双方が公証役場に出向いて署名・押印すれば完成です。事前に弁護士が合意内容を整理しておくと、抜け落ちのない、後で争いになりにくい公正証書を作ることができます。
公正証書の作成には公証役場での手続きが必要で、財産の額などに応じた手数料がかかります。とはいえ、将来の不払いのリスクを考えれば、決して高い投資ではありません。一度作っておけば、いざというときに裁判という大きな負担を回避できるのですから、その安心は金額に換えがたいものです。
長く続く支払いの約束ほど、公正証書にしておく価値が高いといえるでしょう。



法改正で変わる養育費――それでも公正証書が要る理由
ここで、養育費に関する最近の法改正に触れておきます。令和8年(2026年)4月に施行された改正により、養育費については債務名義(公正証書や判決など)がなくても、一定の範囲で差押えができる仕組みが導入されます。
これは、養育費に「一般先取特権」という優先的な権利を認めるもので、子どもの生活を守るための大きな前進です。
「では、もう公正証書は要らないのでは」と思われるかもしれません。しかし、それは早合点です。
理由は次のとおりです。
まず、この新しい仕組みは養育費に限られたものです。慰謝料や財産分与の分割払いなど、養育費以外の支払いについては、従来どおり強制執行認諾文言付きの公正証書がなければ、簡単には差押えに進めません。
また、養育費についても、差押えをスムーズに進めるには、金額や支払い条件が明確に定まっていることが前提になります。口約束のままでは、いざというときに「いくらの約束だったか」を立証する手間が残ります。公正証書にしておけば、その立証の問題が生じません。
さらに、面会交流や財産分与の細かな条件など、金銭の支払い以外にも取り決めておきたい事項は数多くあります。これらを口約束のままにしておくと、離婚後に「そんな話は聞いていない」という新たな紛争の火種になりかねません。公正証書という一つの文書にまとめておけば、お互いが何に合意したのかが明確になり、後日のトラブルを大きく減らすことができます。
つまり、法改正があっても、離婚の条件を公正証書にまとめておく意義は依然として大きいのです。養育費だけでなく、お金に関する取り決め全体を一通の公正証書に整理しておくことが、最も安心できる備えといえます。どのような内容にすべきか、どこまで盛り込むべきか迷ったら、専門家に相談しながら作成することをおすすめします。
当事務所は全国対応で、オンライン相談も承っています。




まとめ
協議離婚は手軽な反面、口約束のまま終えると後でトラブルになりがちです。
合意した条件は離婚協議書で明確にし、お金に関する約束は強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくことで、不払い時にすぐ差押えへ進めます。
令和8年4月の法改正で養育費は債務名義なしでも差押え可能になりますが、慰謝料や財産分与の分割払いなどは従来どおり公正証書化の意義が大きい点に注意してください。


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