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下積みが減る時代に――AIに任せるものと、若手弁護士にしか積めない経験

若手弁護士向け 2026.06.30.

下積みが減る時代に――AIに任せるものと、若手弁護士にしか積めない経験
最近、リサーチや要約をAIに任せると一瞬で終わってしまって。便利な反面、自分が経験を積む場が消えていく気がして不安なんです。

若手弁護士

微笑

横田

その不安はもっともです。ただ、消えていく経験と、これから濃くなる経験を分けて考えると、見え方が変わりますよ。
分けて、ですか。

若手弁護士

微笑

横田

ええ。日経でもAI時代の弁護士の働き方が取り上げられていましたが、置き換わる仕事と残る仕事は、実はかなりはっきり分かれてきている。
残る仕事に早く時間を移せた人が伸びる、ということでしょうか。

若手弁護士

微笑

横田

そこが核心だと思います。今日はその線引きを一緒に引いてみましょう。
下積みが減る不安は本物だが、消える経験と濃くなる経験を分ければ見え方が変わり、残る仕事に早く時間を移せた人が伸びると示すスライド。

「下積みが減る」という不安の正体

若手の不安は、たいてい同じ場所から来ています。

判例リサーチ、書式作成、長い資料の要約――こうした作業は、かつて若手が時間をかけて取り組み、その過程で実務感覚を身につける場でもありました。

判例を一つひとつ読み込むうちに論点の勘どころがつかめ、書式を何度も書くうちに条項の意味が腹落ちする。そうした「手を動かしながら覚える」過程が、AIで短時間に片づくようになると、「経験を積む機会そのものが減るのでは」という心配が生まれる。

この不安は的外れではありません。

日本経済新聞もAI時代の弁護士の働き方を論じる中で、従来の業務の一部が技術に置き換わっていく流れに触れています。

ただ、ここで立ち止まって考えたいのは、作業をこなすこと経験を積むことは、本当は同じではない、という点です。手を動かした総量ではなく、何を考えたかが経験の中身を決めます。同じ判例調査でも、ただ要約を作って終わる人と、なぜその結論に至ったのかを問い、依頼者の事案にどう効くかまで考える人とでは、五年後に残るものがまるで違うのです。

判例調査・書式作成・資料要約は手を動かす中で実務感覚を育てる場だったが、AIが短時間で代替するようになり経験を積む機会が減る不安が広がると解説するスライド。
作業をこなすことと経験を積むことは別物で、手を動かした総量でなく何を考えたかが経験の中身を決め、五年後に残るものは思考の深さで変わると述べるスライド。

 AIに置き換わっていく仕事

まず、置き換わりやすい仕事を冷静に並べてみます。

  • 定型的な判例・条文のリサーチ、一次的な情報収集
  • 長文資料や議事録の要約、論点の洗い出し
  • 定型書式・ひな形のたたき台作成
  • 大量の記録の中からの該当箇所の検索

これらに共通するのは、正解の形がある程度決まっている作業だということです。

入力に対して出力の型が定まっているものほど、機械が得意とします。もちろん、AIの出力をそのまま使えるわけではなく、誤りやハルシネーションを見抜いて補正する責任は弁護士に残ります。

存在しない判例をもっともらしく示してくることもあり、最後に一次資料へ当たって裏を取る手間は省けません。けれど、ゼロから手で組み立てる時間は確実に短くなっていきます。たたき台が一瞬で出てくるなら、力を注ぐべきは「そのたたき台をどう吟味し、どう直すか」の側に移っていく、ということです。

AIに置き換わりやすいのは判例・条文の調査や要約、ひな形作成、記録検索など、正解の形がある程度決まった作業だと示すスライド。
AIの出力はそのまま使えず、存在しない判例を示すこともあるため一次資料での裏取りは必須で、誤りを補正する責任は弁護士に残ると述べるスライド。

若手弁護士に残る価値

では、残るものは何か。これも具体的に挙げてみます。

  • 依頼者が言葉にできていない「本当の悩み」を引き出す力
  • 複雑で錯綜した事実を、法的な主張として構成し直す判断
  • 相手方との交渉、そして依頼者との信頼関係を築く力

依頼者は、整理された相談を持ってきてくれるとは限りません。むしろ、何が問題なのか本人も分かっていないことのほうが多い。「お金の話」と言いながら本当は感情の整理がつかないだけだった、という相談は珍しくありません。

その混沌から核心を引き出すのは、人と向き合う中でしか磨けない技術です。事実を法的に構成する判断も、過去の型の当てはめでは届かない場面が必ず残る。一つとして同じ事案はなく、どの事実を主張の柱に据えるかは、その都度の見極めにかかっています。交渉や信頼関係に至っては、相手の感情や場の空気を読む営みであり、ここは当面、人の領分であり続けるでしょう。

興味深いのは、これらの力こそ、かつては「下積みの先」にあるとされてきたものだ、ということです。作業時間が短くなるなら、その分を早くこの領域に振り向けられる、とも言える。

つまり、下積みが減ることは、本来たどり着きたかった場所に早く立てる、という見方もできるのです。

若手に残るのは、言葉にできない本当の悩みを引き出す力、錯綜した事実を法的主張に構成し直す判断、信頼関係と交渉力の三つだと示すスライド。
事実の構成は型の当てはめでは届かず都度の見極めが要り、交渉や信頼関係は感情と空気を読む人の領分で、下積みが減るのは目指す場所への近道だと述べるスライド。

 差を生むのは「何を任せ、何に注ぐか」の設計力

ここで一つ、視点を足します。残る価値は「人にしかできないこと」だけではありません。

何を仕組みに任せ、何に自分の時間を注ぐかを設計する力そのものが、これからの差になります。すべてを自分で抱え込む人より、任せどころを見極めて要所に集中する人のほうが、結果として深い経験を積んでいく。

考えてみると、期日管理、利益相反チェック、金銭の入出金管理といった仕事は、本来、弁護士の頭脳を消耗させるべき領域ではありません。これらは正確さが命で、かつ型が決まっている。

つまり、本来は仕組みが担うべき仕事です。それを人の記憶や手作業で背負い続けると、肝心の「残る価値」に注ぐ時間とエネルギーが削られていきます。期日を一つ落とさないために神経をすり減らしている間は、依頼者の本当の悩みに耳を澄ます余力は生まれにくいのです。

  • 任せるべき定型業務を見極める
  • 任せた分の時間を、判断と対人の仕事に振り向ける
  • その配分を、案件が増える前に設計しておく
何を任せ何に注ぐかを設計するチェックリスト。期日管理を仕組みに任せる、利益相反の確認を仕組みで処理、金銭管理を手作業から切り離す、配分を増える前に設計を列挙。
残る価値は人にしかできないことだけでなく何を任せ何に注ぐかの設計力で、期日・利益相反・金銭管理は型が決まった仕事であり抱え込むほど残る価値に注ぐ時間が削られると述べるスライド。

切り替えを早く始めた人ほど伸びる

この切り替えは、早く始めた人ほど複利で効いてきます。仕組みに任せる習慣を登録五年目あたりで身につけた人と、十年目になっても全部を手で抱える人とでは、同じ五年でも積み上がる経験の質が変わってくる。前者は対人と判断の場数を重ね、後者は管理の事務作業に追われ続ける。年数が同じでも、中身の差は静かに開いていきます。

断定はできませんが、これからの数年は、その差がはっきり表れる時期になるように思います。

AIや仕組みは、若手から経験を奪う存在ではなく、経験の中身を「作業」から「判断」へ移してくれる装置になり得る。問題は、その装置を使う側に回るか、使われることを恐れて立ちすくむか。選べるのは、ほかでもない自分自身です。完璧に使いこなせるようになってから、と構える必要はありません。任せられる小さな業務から手放していく――その一歩が、数年後の立ち位置を変えていきます。

仕組みに任せる切り替えは早く始めた人ほど複利で効き、五年目で習慣を持つ人と十年目でも手で抱える人では経験の中身が静かに開くと説くスライド。
AIや仕組みは経験を奪わず経験の中身を作業から判断へ移す装置になり得るため、完璧を待たず小さな業務から手放す一歩が数年後の立ち位置を変えると述べるスライド。

置き換わる仕事を惜しむより、空いた時間をどこに使うかを考えるべきなんですね。

若手弁護士

微笑

横田

そうです。そして「任せる」と決めた以上、任せ先がきちんと正確であることが前提になる。期日も相反も金銭も、本来はそこに頭を使いたくない領域でしょう。
たしかに、そこを仕組みに預けられたら、相談対応にもっと集中できます。

若手弁護士

微笑

横田

うちの事務所では、案件管理と利益相反チェックを一体にしたツールでその土台を作っていてね。管理を任せて、人にしかできない部分に時間を寄せる、という発想です。
仕組みを「使う側」に回る、という話とつながりました。

若手弁護士

微笑

横田

ええ。最終回でその全体像をまとめるつもりなので、そのときにまた。
不安の正体、置き換わる仕事、残る価値、設計力の四点を振り返り、任せて残る価値に時間を注ぐことの重要性を結論づける。
AIは経験を奪わず判断へ移す装置であり、小さな業務から手放す一歩が数年後を変えると呼びかけ、事務所名を示す。
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監修・執筆:弁護士 横田 秀俊 福井弁護士会所属

日本弁護士連合会の中小企業法律支援センター幹事を務め、中小企業の法的支援体制の構築に携わる。
福井県内地域においては、福井県事業承継・引継ぎ支援センターのエリアコーディネーターとして、数多くの事業引継ぎや経営課題の解決を主導。
法律のプロフェッショナルとして、緻密な法理と現場主義を両立させた的確なアドバイスを提供している。

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