COLUMNコラム
もっと身近な法律を。横田秀俊法律事務所のコラムをお届けします。
日弁連の「生成AI利活用に関する注意事項」を読む──守秘義務・ハルシネーション・最終責任を実務にどう落とすか
若手弁護士向け 2026.06.27.

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

~目次~
注意事項は何を問題にしているか
2025年、日弁連のワーキンググループが、弁護士業務における生成AIの利活用に関する注意事項を公表した。
生成AIを業務に取り込む弁護士が増えるなかで、どこに注意を払うべきかを示したものだ。便利さが先行して広まる一方で、踏み外すと弁護士としての義務違反に直結する論点があるため、その勘所を整理しておこうという趣旨だと受け止めるとよい。
注意事項が扱う論点は、大きく守秘義務、誤情報(ハルシネーション)、責任の所在、そして職務上の倫理に整理できる。
いずれも目新しい価値観ではなく、従来から弁護士が負っている義務を、新しい道具にあてはめ直したものだと捉えると分かりやすい。
守秘義務も、成果物に対する責任も、生成AIが登場する前から弁護士が当然に負っていたものだ。新しいのは義務の中身ではなく、それを脅かしかねない道具のほうだ、という整理である。
だからこそ、注意事項を「AI特有の難しい話」として身構える必要はない。
むしろ、すでに身につけているはずの職業倫理を、新しい道具を前にしても崩さずに保てるか、という問いとして読むのが実務的だ。
- 守秘義務との関係
- 出力された情報の正確性の検証
- 誤りがあった場合の責任の所在
- 職務上の倫理・品位の保持


守秘義務という最大の関門
注意事項のなかでも、実務上もっとも重いのが守秘義務との関係だ。依頼者から預かった情報を外部の生成AIサービスに入力すると、その情報が事業者側に渡る、あるいは学習に使われるなどして、守秘義務違反につながるおそれがある。
便利さに引っ張られて、つい依頼者の事情をそのまま貼り付けてしまう──この一手が、もっとも起こりやすく、かつもっとも重い事故になり得る。
ここでの線引きはシンプルだ。依頼者を特定できる情報、事件の核心に触れる情報を、外部のサービスへ安易に入力しない。
利用するなら、入力した情報が外部に漏れない閉じた環境であることが前提になる。利用規約やプライバシーポリシーを確認し、入力したデータが学習に使われない設定になっているか、保存される場合はどこにどれだけの期間置かれるかまで把握しておきたい。設定一つで挙動が変わるサービスも多く、初期設定のまま使うと意図せず情報が外部に蓄積されることがある。
- 依頼者情報を外部AIに入力すると守秘義務違反のおそれ
- 入力内容が学習や保存に使われない設計かを確認する
- 守秘性を担保できる閉じた環境での利用を前提に置く
抽象的な法律論を組み立てるのにAIを使うのと、具体的な依頼者情報を貼り付けて要約させるのとでは、リスクの質がまったく違う。
前者は一般的な論点整理にとどまるが、後者は守秘義務の核心に触れる。固有名詞を伏せる、事案を抽象化してから尋ねるといった工夫で、同じ作業でもリスクの質は大きく変えられる。
まずこの区別を自分の中で明確にしておきたい。


ハルシネーションは人が検証して記録に残す
生成AIは、存在しない裁判例や条文をもっともらしく出力することがある。いわゆるハルシネーションだ。
実在する判決の体裁で架空の事件番号や判示を作り出すこともあり、見た目だけでは真偽を判別しにくい。注意事項も、出力をそのまま信用せず、人が検証することを求めている。
実務での作法は二段構えで考えるとよい。
第一に、判例や条文は必ず一次情報にあたって裏を取る。裁判例なら判例データベースや原典で事件番号と判示を確認し、条文なら現行の条文そのものを引く。
第二に、検証したという事実を記録に残す。誰がいつ何を確認したかが残っていれば、後から経緯を説明できるし、チーム内での再確認の無駄も減る。とくに複数人で一つの案件を扱うとき、「この引用はもう裏取り済みなのか」が見えるだけで手戻りが大きく減る。
- 出力された判例・条文は一次情報で裏を取る
- 検証した事実そのものを記録として残す
- 「確認済み」を個人の記憶に依存させない


署名するのは弁護士──最終責任は移転しない
ここは強調しておきたい。AIが誤った内容を出力したとしても、最終的に書面に署名し、依頼者に説明し、責任を負うのは弁護士本人だ。最終責任はAIに移転しない。
「AIがそう言ったので」は、依頼者にも裁判所にも通らない。
便利な道具を使っても、判断の主体が弁護士であることは変わらない。だからこそ、出力をそのまま貼り付けるのではなく、自分の判断を一枚かませる工程が要る。
具体的には、出力を下書きや叩き台として扱い、論理の筋・引用の正確性・事案への当てはめを自分の目で通したうえで成果物に落とす、という順序を崩さないことだ。
AIは作業を速める道具ではあっても、責任を肩代わりする主体ではない。
注意事項が責任の所在を明確にしているのは、この当たり前を改めて確認するためだと理解している。
- 誤りがあっても署名するのは弁護士
- 「AIが言った」は免責にならない
- 出力と最終成果物の間に自分の判断を挟む


個人の注意力を超える部分をどう支えるか
ここまでをまとめると、要点は三つだ。
依頼者情報を守り、出力を検証し、記録を残す。
言葉にすればシンプルだが、これを案件が立て込む日常のなかで一件ずつ徹底するのは、個人の注意力だけでは正直しんどい。忙しいときほど、確認を一つ飛ばしたい誘惑が強くなる。
うっかり外部サービスに依頼者名を入力してしまう、検証したつもりで記録を残し忘れる──こうしたヒヤリは、注意力の問題というより仕組みの問題だ。
人は疲れるし、急ぐと手順を飛ばす。守秘性の高い環境で情報を扱い、誰がいつ何を確認したかが自然に残る基盤があれば、個人の気の張り方に頼らずに済む。注意で防ぐのではなく、そもそも事故の入口を狭めておく、という発想に立ち替えたい。
- 守秘性は気合ではなく環境で担保する
- 検証や確認の記録は仕組みとして残るようにする
- 注意力の問題を仕組みの問題に置き換える



若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

