COLUMNコラム
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取適法への衣替えとフリーランス新法──クライアントの委託契約を「総点検」したくなる年に、何をどう捌くか
若手弁護士向け 2026.06.26.

若手弁護士

横田

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~目次~
下請法はなぜ「取適法」になったのか
2026年1月、従来の下請法が取適法(中小受託取引適正化法)へと改称され、内容も強化された。
「下請」という語が実態に合わない、上下関係を固定する響きがある、といった指摘が背景にある。発注側と受託側はあくまで対等な取引当事者であるという前提を、法律の名称の段階から示し直したものと理解すればよい。公正取引委員会も改称の趣旨を取引の適正化という観点から説明している。
ただ、若手の先生に最初に伝えたいのは、改称はラベルの話ではないということだ。規制の射程と禁止行為の双方に手が入った。顧問先に「名前が変わっただけですよ」と説明してしまうと、適用対象や禁止行為の拡張を見落としたまま点検を進めることになり、後で困る。相談の入口でこの一言を言ってしまうかどうかが、その後の点検の質を分けると言ってもいい。
強化の方向感を一言でいえば、発注側が取引上の優位を背景に受託側へ不利益を押しつける余地を、より丁寧に塞いだということだ。
たとえば代金の決め方や支払手段といった、これまで運用や慣行に委ねられていた部分が、明文のルールとして締め直されている。顧問先にとっては「これまで問題にならなかったやり方」が、そのまま続けると問題になり得る、という点を具体的に説明できると安心される。
- 親事業者・下請事業者という用語整理を含め、制度の建て付けが見直された
- 一方的な代金決定の禁止が明確化された
- 手形払いが原則として認められなくなった


適用対象はどこまで広がったか──運送と従業員数基準
従来の下請法は、資本金区分を基準に適用対象を切り分けていた。
発注側と受託側の資本金の組み合わせで、規律が及ぶかどうかを機械的に判定する仕組みだ。
取適法では、ここに二つの拡張が加わった点が実務上大きい。
一つは運送委託の取り込みだ。
物品の製造や情報成果物の作成だけでなく、運送の委託も規律の対象に含まれるようになった。物流に関わる取引を抱える顧問先では、これまで対象外と整理していた契約が射程に入る可能性がある。とくに自社で製造や販売を行いつつ、配送だけを外部の運送事業者に委託している会社では、製造委託とは別の類型として運送委託が単独で問題になり得る。
「うちはモノを作っているわけではないから関係ない」と考えていた会社ほど、思わぬところで対象に該当することがある。
もう一つは従業員数基準の新設だ。
資本金区分だけでは捕捉できなかった取引、たとえば資本金は小さいが従業員規模の大きい事業者との取引などについて、従業員数を基準に適用を判断する道が開かれた。資本金を意図的に小さく抑えている事業者や、設立間もない会社でも実態としては相当の人員を抱えるケースなど、資本金という一つの物差しだけでは取引の実態を測りきれない場面があったためだ。
資本金だけ見て「対象外」と即断していた契約を、改めて見直す必要が出てくる。
点検にあたっては、相手方の資本金と従業員数の双方を確認したうえで、委託の類型が製造・修理・情報成果物・役務・運送のいずれに当たるかを整理する、という二段階で詰めると漏れが出にくい。
- 運送委託が新たに対象類型に加わった
- 資本金基準に加え従業員数基準が導入された
- 「対象外」と整理済みの契約こそ再確認が要る


フリーランス新法が発注側に課す義務
取適法と並んで点検需要を押し上げているのが、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)だ。こちらは取適法のように資本金や従業員数で対象を切り分けるのではなく、発注側に対して、相手が個人で働くフリーランスである場合に守るべき義務を課している。
同じ「委託」でも、相手が法人か個人かで適用される法律の枠組みが変わってくる点に注意したい。
実務で押さえておきたいのは三点だ。
第一に、取引条件の明示義務。
委託の内容や報酬額などを書面または電磁的方法で明示しなければならない。口頭での発注や、内容のあいまいな発注書が常態化している現場では、ここがそのまま是正対象になる。
第二に、60日以内の報酬支払。物品やサービスを受領した日から起算して、原則60日以内に報酬を支払う必要がある。月末締め翌々月払いのような支払サイトを慣行で続けている会社では、起算日の取り方次第で60日を超えてしまうことがあり、要確認だ。
第三に、ハラスメントに関する相談体制の整備など、就業環境への配慮義務だ。
発注側の企業にとっては、契約書の文言だけでなく、支払いサイトや社内体制まで含めた点検が必要になる。「契約書を直せば終わり」ではないところが、相談を受ける側として説明のしどころになる。
契約書のレビューと、業務フローや社内規程の見直しを、別々のタスクとして切り分けて提示できると、依頼者も対応の段取りを立てやすい。
- 取引条件の明示は書面または電磁的方法で
- 報酬は受領日から原則60日以内に支払う
- ハラスメント相談体制など就業環境への配慮も求められる


「総点検」が現場で生む同時進行の負荷
ここまでが法律の中身だが、現場の負荷は別のところにある。取適法とフリーランス新法という二つの軸で、しかも複数のクライアントについて、委託契約を一斉に点検することになる点だ。
A社の運送委託契約を取適法の観点で見て、B社のフリーランス向け発注書をフリーランス新法の観点で見て、C社は両方にまたがる──といった具合に、案件ごとに見るべき論点も進み具合もばらばらになる。
一社あたりの作業はさほど重くなくても、社数が増えると全体像が急速に見えなくなる。しかも点検は一往復で終わらず、こちらの指摘に対して先方が修正案を返し、それをまた確認する、というやり取りが各社で並行して走る。どの会社のボールが今どちらにあるのか、という状態管理まで含めて抱えることになる。
さらに、改正対応という性質上、依頼者側も社内の各部署に確認を取りながら進めることが多く、回答が戻ってくるタイミングも会社ごとにまちまちだ。
こちらの作業が止まっているのか、先方の確認待ちなのかを取り違えると、催促のしどころを誤って心証を損ねかねない。
- クライアントごとに適用される法律の組み合わせが異なる
- 同じ会社でも契約類型ごとに点検の深さが変わる
- こちら待ち/先方待ちが混在し、ボールの所在が見えにくくなる
- 案件数が増えると「いま全体でどこまで進んだか」が掴めなくなる


どの会社のどの契約をどこまで見たか
総点検の局面で実際に効いてくるのは、法解釈の精度よりも進行の可視化だ。
「どの会社の」「どの契約を」「どの観点で」「どこまで見たか」が一覧で見えているかどうか。
これが曖昧だと、点検漏れか二重作業のどちらかが起きやすい。とりわけ複数の弁護士やスタッフで分担すると、口頭やメールでの引き継ぎだけでは状態がすぐにずれていく。
紙のメモや個別のファイル名で管理していると、社数が増えた瞬間に破綻しがちだ。誰かが途中まで見た契約を、別の人が最初から見直すような無駄も生まれる。
逆に、誰かが見たはずだという思い込みで、実際には誰も見ていない契約が残ることもある。
法律の中身を正しく理解していることと、複数案件をさばき切ることは、別の能力として要求される。
- 点検の単位(会社・契約・観点)を分けて状態を持たせる
- 「未着手/確認中/完了」のような進捗を一目で分かるようにする
- 担当者間で進み具合を共有できる形にしておく



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