COLUMNコラム
もっと身近な法律を。横田秀俊法律事務所のコラムをお届けします。
訴状もウェブ会議もオンラインへ──民事裁判手続デジタル化の全面施行で、若手が押さえておきたい実務の勘所
若手弁護士向け 2026.06.24.

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

~目次~
何がオンラインで完結するようになったのか
2026年5月21日に施行された改正民事訴訟法・改正民事訴訟規則によって、民事訴訟手続の全面デジタル化が動き出しました。
訴状などのオンライン提出、ウェブ会議による期日、事件記録の閲覧、電子化された判決書の送達、そして手数料の納付に至るまで、主要な場面をオンラインで進められる枠組みが整っています。
これまでも争点整理にウェブ会議が活用されてきましたが、今回はその範囲が手続全体に広がったイメージです。紙と郵送を前提にしてきた段取りを、根本から組み替える必要が出てきます。
たとえば、これまで「正本・副本を用意して郵送・持参する」ことを前提に組まれていた事務の流れは、データの作成とアップロードを前提とした流れに置き換わっていきます。書面を綴じる、副本を数える、という所作が減るぶん、ファイルをどう作り、どこに保存し、どう提出するかという別の段取りが立ち上がってくる、ということです。
変化の捉え方としては、「楽になる」という側面だけでなく、「これまで体が覚えていた段取りが一度リセットされる」という側面を意識しておくと、移行期の戸惑いが減ります。慣れた手順ほど無意識に進めてしまうものですが、その無意識が通用しない場面が当面は混在します。
- 訴え提起から記録閲覧・送達・納付まで、オンラインで進められる
- 従来の郵送・持参を前提とした事務フローの見直しが必要
- 書面を綴じる所作が減るぶん、データの作成・保存・提出の段取りが要る
- 「便利になる」だけでなく「段取りが変わる」と捉えるのが実務的


mintsと裁判所システムの操作に慣れる
オンライン提出の中心になるのが、mintsと呼ばれる民事裁判書類電子提出システムです。アカウントの取得には所定の本人確認が必要で、まずここを済ませておかないと、いざというときに提出ができません。
操作そのものは、慣れてしまえば難しいものではありません。ただ、締切直前に初めて触る、という状況は避けたいところです。
ファイル形式や容量の制限、サインインの手順といった「事務的だが間違えると止まる」ポイントは、余裕のあるうちに一度通しで体験しておくのが安全です。誤ったファイルをアップロードした場合の対応など、裁判所が公表している手引も目を通しておくと安心できます。
実際に起こりやすいのは、PDFの作り方や容量で引っかかる、提出の権限まわりで迷う、といった地味なつまずきです。
こうした点は事件の中身とは関係のないところで時間を奪うため、平時のうちに一度練習しておく価値が高い。あわせて、事務職員と操作を分担する事務所であれば、誰がアカウントを持ち、誰がアップロードまで行うのかという役割分担を、早めに決めておくと混乱が減ります。
手続が変わるときは、自分一人の習熟だけでなく、事務所としての運用ルールも一緒に整えておくのが現実的です。
- アカウント取得と本人確認は、案件が動く前に済ませておく
- ファイル形式・容量・サインイン手順を事前に確認しておく
- 事務職員と分担する場合は、誰が何を担うかの役割を決めておく
- 締切直前の「初めての操作」は避け、平時に一度通しで練習する


電子書面の様式と、送達日の起算に注意
ここが今日の本題です。電子化に伴い、提出する書面の様式や、システムを通じた送達の扱いが整理されました。
とくに気をつけたいのが、送達日の起算です。
システムを通じた送達では、いつをもって送達があったとみなすのかというルールが定められており、紙の郵送とは感覚が異なります。
控訴期間など、送達日を起点に走る期間を管理している以上、この起点を取り違えると致命的になりかねません。
「届いたのを見た日」と「送達があったとされる日」が一致するとは限らない、という前提で、施行後のルールを一度きちんと確認しておくことをお勧めします。
怖いのは、メールの通知に気づくのが遅れたり、忙しさにまぎれて確認を後回しにしたりしている間にも、期間そのものは粛々と進みうる、という点です。紙であれば封筒が手元に届いて存在を主張してくれますが、システム送達では自分から見にいかないと気づけない場面が出てきます。控訴期間のように一日の差が結論を分ける期間では、この「気づきの遅れ」がそのままリスクになる。だからこそ、通知を受けたらまず送達日を確定させ、そこから走る期間を即座に控えておく、という運用を習慣にしておくことが大事です。
起点を押さえる作業を、事件ごとに必ず通る関所のように位置づけておくと、抜けにくくなります。
- 提出書面の様式は、施行後の書式に沿っているか都度確認する
- システム送達では「送達があったとみなされる時点」を正確に把握する
- 通知の見落としで期間が進む事態を避け、確認を習慣化する
- 控訴期間など、送達日起点の期間管理を従来の感覚で流さない


対象範囲と段階的拡大のスケジュール
注意したいのは、今回のデジタル化がすべての手続を一度に対象にしたわけではない、という点です。
今回オンライン申立て等の対象になったのは民事訴訟手続が中心で、民事執行や倒産、労働審判などの非訟手続、人事訴訟、家事事件手続は、この時点では対象外とされています。
これらの手続については、今後段階的にオンライン化が広がっていく予定が示されています。つまり、しばらくは「オンラインで進む手続」と「従来どおりの手続」が併存するということです。事件類型ごとに今どちらの扱いなのかを取り違えないことが、地味ですが重要になります。
たとえば、本案の民事訴訟はオンラインで進めていても、関連する保全や執行は従来の方式で動かす、といった併走が同じ依頼者の案件内で起こりえます。一つの頭の中で二つの作法を切り替える場面が増える、ということです。
こうした併存期は、思い込みでの取り違えが起きやすい時期でもあります。「最近はだいたいオンライン」という感覚で進めたら、その手続は対象外だった、という行き違いは十分に起こりえる。
手続に着手する前に、その事件類型が今どちらの扱いなのかを一拍おいて確認する癖をつけておくと、移行期の事故を防ぎやすくなります。
- 今回の対象は民事訴訟手続が中心で、家事・執行等は当面対象外
- 対象外の手続も、今後順次オンライン化が拡大していく見込み
- 同じ依頼者の案件内でオンラインと従来方式が併走しうる
- 事件類型ごとに「今どちらの扱いか」を取り違えない


デジタル化が進むほど、案件管理の精度が問われる
逆説的ですが、手続がデジタル化されるほど、案件ファイルをどう管理するかという足元の体制が効いてきます。書類がデータで行き交い、送達もシステム上で起きるとなれば、どの案件の、どの書面が、いつ提出・送達されたのかを、自分の側で正確に追えていなければなりません。
紙であれば机の上に積まれて存在感を主張してくれますが、データはそうはいきません。案件ごとに書類・期日・連絡履歴を一元化し、必要なときにすぐ辿り着ける環境があるかどうかで、対応の速さと正確さが変わってきます。
データは検索性に優れる一方で、フォルダのどこに何を入れたかが曖昧だと、かえって所在を見失いやすい。命名や保存のルールを決めて、案件単位で情報がまとまる形をつくっておくことが前提になります。
あわせて、データを扱う以上は情報セキュリティの重要性も増します。便利さと管理責任は、いつも表裏一体だということです。
端末の管理やバックアップ、共有範囲の見直しといった基本も、データ量が増えるほど効いてきます。
- データ化された書類・送達は、自分の側の記録で追える状態にする
- 案件ごとに書類・期日・連絡履歴を一元化し、即座に参照できるように
- 命名・保存のルールを決め、データの所在を見失わないようにする
- 取り扱うデータが増えるほど、情報セキュリティの比重も高まる



若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

