COLUMNコラム
もっと身近な法律を。横田秀俊法律事務所のコラムをお届けします。
退職代行ブームと非弁提携――「誰から、どんな対価で来た案件か」を記録するという防御
若手弁護士向け 2026.06.22.

若手弁護士

横田

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~目次~
急拡大する退職代行と、若手に届く誘い
退職代行サービスは、ここ数年で一気に広がりました。
入社して間もない人が会社を辞めるために使う、といった報道も増え、世間的にはすっかり身近な存在です。
上司に直接「辞めます」と言い出せない、引き止めにあって退職を切り出せない――そうした人たちの受け皿として、需要が定着しつつあります。市場が拡大すれば、そこに弁護士の関与を求める動きが出てくるのも自然なことです。
問題は、その関与の入り方です。
業者から客を紹介してもらい、対価を払う――こうした誘いが、登録間もない若手のところにも届きます。
「実務はこちらで整えるので、先生は名前を貸してくれるだけでいい」といった形で持ちかけられることもあるかもしれません。仕事が欲しい時期だからこそ、つい受けてしまいかねない。とりわけ、独立したばかりで案件を増やしたい時期や、固定収入の不安がある時期には、その誘いが魅力的に映ります。
けれど、ここには非弁提携という、看過できないリスクが潜んでいます。声をかける側も、経験の浅い弁護士のほうが境界線への警戒が緩いことを、ある程度見越しているのです。
- 退職代行の普及とともに、弁護士の関与を求める接点も増えている
- 紹介と対価をめぐる誘いは、若手にこそ向けられやすい


「使者」までの業者と、「交渉」からの弁護士
線引きの出発点は、業者にできることの範囲です。弁護士でない一般の業者ができるのは、本人の意思を会社へそのまま伝える、いわば使者としての役割までです。「辞めます」という本人の決定を、本人に代わって伝達する。退職届を提出する、退職日についての本人の希望を伝える、貸与品の返却方法を確認する――こうした事実の伝達にとどまる限りは、原則として問題は生じにくいとされています。
ところが、退職に伴って残業代の請求や未払金、慰謝料といった話が出てくると、性質が変わります。これらは法律的な問題であり、会社と話し合い、条件を詰める交渉の領域です。たとえば「有給を消化させてほしい」「未払いの残業代を払ってほしい」と会社側と条件をやり取りし、折り合いをつけていく。これはもはや意思の伝達ではなく、権利義務をめぐる交渉そのものです。
報酬を得る目的でこうした法律事務を扱えるのは弁護士であって、業者が本人に代わって交渉すれば、それは弁護士法72条が禁じる非弁行為になりうる。同条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁じています。使者と交渉の間には、はっきりした断層があるのです。注意したいのは、この断層が現場ではしばしば曖昧になることです。「伝えるだけ」のつもりが、会社から条件を提示され、それを本人に取り次いで返答を伝えるうちに、実質的な交渉に踏み込んでいく。境界はグラデーションになりやすく、だからこそ意識して線を引く必要があります。
- 業者は本人の意思の「伝達」まで、交渉は弁護士の領分
- 残業代・慰謝料などの請求は、伝達ではなく法律的な交渉に当たりうる


紹介料の授受が非弁提携になるとき
若手にとって、より直接的に効いてくるのが提携の問題です。
業者から客を紹介され、その対価として紹介料をやり取りする。これは、非弁行為を行う者と弁護士が手を組む非弁提携として、弁護士法に抵触しうる行為です。
たとえ自分自身の交渉行為が適法であっても、非弁の構造に報酬を通じて加担すれば、懲戒のリスクは現実のものになります。ここを誤解している人が少なくありません。
「自分がやっている交渉は弁護士として適正だから、紹介料を払っても問題ないはずだ」と考えてしまう。
しかし、問われているのは交渉の中身ではなく、対価を介して非弁業者と結びつく構造そのものです。
お金を受け取って、あるいは支払って、法律的な問題の処理を他者との間で斡旋すること自体が、非弁行為と評価されうる。
紹介料という形であれ、システム利用料という名目であれ、案件の流れと金銭の流れがセットになっていれば、実質で判断されます。
「自分は交渉をきちんとやっているのだから問題ない」という理屈では、対価関係の問題はカバーできません。
誰と、どのような金銭の流れでつながっているか――そこが問われます。報酬の名目を言い換えても、実態が斡旋への対価であれば評価は変わらない、という点は押さえておきたいところです。
- 自分の行為が適法でも、対価を介した提携は別途リスクになりうる
- 「斡旋」への対価の授受という形が、懲戒の火種になる


東京弁護士会の2025年10月の注意喚起
こうした状況を踏まえ、東京弁護士会は2025年10月22日、退職代行サービスと弁護士法違反に関する注意喚起を公表しました。
これは、弁護士法違反の疑いで退職代行の運営会社や法律事務所等に強制捜査がなされたことを受けて、改めて出されたものです。
注意喚起では、業者が本人に代わって会社と話し合いをすることが非弁行為となりうること、報酬を得て法律的な問題の処理を他者へ斡旋することが非弁行為に当たりうることが、具体的な事例とともに整理されています。
抽象的な原則論を繰り返すのではなく、現に起きている類型に即して注意を促している点に、事態の切迫感がうかがえます。
ここで重く受け止めたいのは、実際に強制捜査という段階まで来ているという事実です。
注意喚起や倫理研修で語られる「気をつけましょう」のレベルではなく、捜査機関が動いている。つまりこれは、いつか問題になるかもしれない抽象的な懸念ではなく、現に動いているリスクなのです。
新しい業態は適法ラインが定まりきっておらず、グレーに見える領域も、ある日を境に明確に「黒」と扱われることがあります。声をかけられた時点の空気感だけで判断せず、その都度、最新の注意喚起や処分例に目を通しておく姿勢が求められます。
- 2025年10月22日、強制捜査を受けて改めて注意喚起が出された
- 業者による交渉、対価を伴う斡旋が非弁行為になりうると整理された


案件の「入口」を記録するという自衛
では、若手として何ができるか。発想として有効なのは、案件の入口を記録に残すことです。新しい業態ほど適法ラインが曖昧で、後から「あれは大丈夫だったのか」と問われる場面が出てきます。受けた時点では問題ないと思っていた経路が、数年後の基準では危ういと評価される、ということも起こりうる。
その案件は誰から来たのか。紹介者がいたのか、対価のやり取りはあったのか、あったとすればどういう性質のものか。
こうした受任経路を一件ごとに記録しておけば、自分の関与の構造を後から客観的に説明できます。
仮に問い合わせや調査を受けても、「この案件は本人から直接の依頼で、紹介料の授受はない」と経緯を辿って示せるかどうかで、立場の安定感はまるで違ってきます。
それだけではありません。
記録する習慣そのものが、入口での歯止めになります。「紹介者」「対価の有無」という欄を埋めようとした瞬間に、自分がいま何にサインしようとしているのかが可視化される。書こうとして手が止まれば、それは立ち止まるべきサインです。疑いを招きそうな経路を、受任の前にもう一度見直すきっかけになる。
- どこから来た案件かを一件ごとに残し、構造を説明可能にしておく
- 記録する習慣が、入口でいったん立ち止まる契機にもなる
受任経路を可視化しておくことは、誰かのためというより、まず自分を守るための備えだと考えています。
案件を処理することに気を取られていると、つい後回しにしがちな部分ですが、最初の一手間が、後から効いてくる領域です。



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