COLUMNコラム
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友人だから、で曖昧にした立場が招くもの――知人相談に潜む利益相反の落とし穴
若手弁護士向け 2026.06.19.

若手弁護士

横田

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友人夫婦の相談がなぜ懲戒に至るのか
親しい友人夫婦の一方から「ちょっと相談したい」と持ちかけられる。中立のつもりで話を聞き、事情を整理してあげる。一見、善意の延長です。ところが後に、その相談で得た情報が相手方配偶者に不利に使われたと問題視され、懲戒に至った――そうした構図の事例が知られています。
場面を思い描いてみてください。共通の友人である夫婦の、妻のほうから「最近うまくいっていなくて」と打ち明けられる。あなたは弁護士として、財産分与の見通しや、子の親権がどう判断されやすいかを、つい踏み込んで説明する。妻はそれを参考に動き出す。やがて夫婦は本格的に争い始め、あなたは夫側から「代理人になってほしい」と頼まれる。ここで引き受けてしまえば、かつて妻から聞いた内情を知る者が、その妻と対立する立場に回ることになります。
ここで起きているのは、立場を曖昧にしたまま情報に触れてしまったことの代償です。
誰の味方として話を聞いているのかを明示しないまま踏み込むと、後からその関与の意味を問われたとき、説明がつかなくなります。
- 中立を装った情報収集が後で問題視される
- 得た情報が一方に不利に使われたと評価される
- 立場を明示しなかったことが咎められる


相談は受任ではない、しかし
「相談を受けただけで受任していない」という弁解は、半分しか通りません。
確かに相談と受任は別物です。
委任契約を結び、着手金を受け取って初めて代理人になる、という外形だけを見れば、立ち話程度の相談は受任の手前にあります。
けれど、相談で一方の事情を深く知った後に、その相手方の代理人として反対側に立てば、それは明確な利益相反になります。
問題は情報です。
一度得た情報は消せません。中立のつもりで聞いた話であっても、その内容を頭に入れたまま相手方につけば、相談した側から見れば「自分の手の内を知る者が敵に回った」ことになる。
依頼者の立場で考えれば分かりやすいかもしれません。自分が弱みや本音を打ち明けた相手が、後日、対立する側の代理人として現れたら、どう感じるか。たとえ法廷でその情報が一言も使われなかったとしても、「使われるかもしれない」という疑念だけで信頼は崩れます。
受任の有無という形式より、情報をどの立場で受け取ったかという実質が問われるのです。


交友関係が立場の整理を鈍らせる
この落とし穴が厄介なのは、相手が知人だからこそ起きる点にあります。
見知らぬ依頼者なら、私たちは自然に「どちらの代理人か」を意識します。事務所の応接室で、委任契約書を前に話を聞く。その枠組み自体が、立場を意識させてくれます。
ところが友人相手だと、その線引きが甘くなる。場所も居酒屋やカフェ、あるいは電話やメッセージアプリで、契約書も報酬の話もないまま、いつの間にか具体的な事情に踏み込んでいる。
「困っているなら聞くよ」という親切心が、立場の明示を後回しにさせます。友人だから無料で、友人だから気軽に、友人だから正式な手続きは抜きで――その積み重ねが、いざというとき自分の足を取る。
さらに、知人相談はそもそも記録に残りにくいという問題も重なります。
事務所の受付を通さず、事件番号も振られない。だから後日、別ルートから同じ紛争が持ち込まれたときに、過去の接点と結びつかない。
交友関係は、本来最初に引くべき線を見えにくくするだけでなく、引き損ねた線の痕跡まで消してしまう力を持っています。
- 知人相手だと代理人意識が緩む
- 親切心が立場明示を後回しにさせる
- 線引きの甘さが後で自分を縛る


鉄則は相談段階での立場明示
では、どう守るか。鉄則は二つです。
第一に、相談の段階で自分の立場をはっきり示すこと。
「私はあなたの相談を聞くが、相手方の代理人になる可能性もある」あるいは「一方の話を聞いた以上、相手方からの依頼は受けられない」――どちらの線を引くにせよ、曖昧にしないことです。
これは友情を損なう行為ではありません。むしろ逆で、最初に線を引いておくほうが、後で気まずい思いをせずに済みます。「弁護士としては、両方の話は聞けないんだ」と早い段階で伝えておけば、友人もそういうものかと受け止めてくれることが多い。深く聞いてしまってから「やっぱり関われない」と引くほうが、よほど角が立ちます。
第二に、過去の接点を確認すること。
その人物や関係者と、自分が以前どんな形で接触していたか。相談を受ける前に、過去の関わりを洗い出しておけば、後から「あの時の相談相手の配偶者だった」と気づいて青ざめる事態を避けられます。配偶者や家族、勤務先など、相談者の周辺にいる人物まで視野に入れて確認できると、なお安全です。


接触を記録し受任前に照合する
立場の明示も過去の確認も、記憶任せでは破綻します。
誰と、いつ、どんな相談で接触したか。これを軽い相談まで含めて記録しておくことが、知人相談の落とし穴を防ぐ最後の砦になります。
正式な受任に至らなかった相談ほど、記録から抜け落ちがちです。けれど利益相反は、まさにその「記録に残さなかった軽い接触」から表面化します。何年も前に一度コーヒー片手に聞いただけの話が、忘れた頃に紛争となって戻ってくる。そのとき、記録さえあれば「この人とは過去に接点がある」と機械的に気づけますが、記憶だけが頼りでは、忙しさのなかで見過ごしてしまう。
接触を残し、新しい受任の前に自動で照合できる状態をつくっておけば、友人関係に引きずられた判断の前に、一度立ち止まる機会が生まれます。
記録は、自分の善意や記憶力を疑うためのものではありません。むしろ、善意ゆえに緩みがちな判断を、入口で支えてくれる安全網だと考えるとよいと思います。



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