COLUMNコラム
もっと身近な法律を。横田秀俊法律事務所のコラムをお届けします。
利用率66%の時代に問われるのは「使うか」ではなく「どう安全に使うか」
若手弁護士向け 2026.06.15.

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

利用率66%が意味すること
あるリーガルテック企業が弁護士100名・社労士100名に行った調査では、生成AIの業務利用率が66%に達したと報告されています。
利用者層は弁護士から社労士・司法書士・行政書士・税理士へと広がっており、AI活用の裾野が士業全体に拡大している、という構図です。
三人に二人が何らかの形で業務に使っている。これは、AIを使うこと自体が特別ではなくなったことを意味します。数年前なら「先進的な事務所が試している」と語られていた技術が、いまや日常の道具に近づいている。
議論の出発点は「使う人はまだ少数」ではなく「使うのが当たり前になりつつある」へと移っています。
具体的な使われ方も多様です。
契約書のたたき台づくり、長文の議事録や陳述書の要約、難解な条文をかみ砕いた説明、英文資料の下訳、リサーチの取っかかり――
いずれも、これまで時間を奪われていた地味な作業ばかりです。だからこそ広まった、とも言えます。
- 弁護士に限らず、隣接士業まで含めて利用が広がっている
- 文書作成・要約・翻訳・初期リサーチなど用途が実務に密着している
- 「特別な人が試す道具」から「日常の作業を支える道具」へ位置づけが変わった
この変化を前にして、使わないことを選び続けるのは、それ自体が一つの判断になります。
横並びを気にする必要はありませんが、現実が動いていることは押さえておきたいところです。


懸念のトップは誤回答と情報漏洩
ただし、この調査は楽観一色ではありません。
利用が広がる一方で、「誤った回答・不完全な回答が返ってくる」という懸念が多く挙げられたと報告されています。
前の記事で触れたハルシネーションの問題が、現場の実感としても上位に来ているわけです。便利だと感じている人ほど、出力を鵜呑みにできないという緊張も同時に抱えている、という構図です。
そしてもう一つ、士業が口をそろえる懸念が情報漏洩です。
便利さと裏腹に、入力した情報がどこへ行くのか、という不安がつきまといます。弁護士の場合、扱う情報の多くが他人の秘密です。一般企業のように「社外秘」で済む話ではなく、依頼者の人生や財産に直結する事実を預かっている。だからこそ、この不安は他業種より一段重い意味を持ちます。
- 誤回答・不完全な回答への懸念
- 入力した情報の漏洩リスク
- どこまで信頼してよいか分からないという不確実性
便利だが不安、という両義的な感覚が、利用率の数字の裏側に広がっています。
注目すべきは、これらの懸念がいずれも「AIの性能」ではなく「AIとの付き合い方」に属する問題だという点です。性能はこれからも上がるでしょうが、付き合い方は使う側が設計しなければ整いません。


無料ツールに依頼者情報を入れる危うさ
特に若手に気をつけてほしいのが、手軽な無料ツールの使い方です。
リサーチや文書作成を急ぐあまり、依頼者の氏名や事件の具体的な事情を、そのままプロンプトに打ち込んでしまう。
これは守秘義務との関係で、看過できない危うさをはらみます。
たとえば、相談メモを丸ごと貼り付けて「論点を整理して」と頼む。固有名詞も金額も病名も入ったまま、外部のサーバーへ送られていく。手元では便利に要約が返ってくるので、何が起きているか実感しにくい。
ここに落とし穴があります。
無料の生成AIサービスの中には、入力された内容が学習に使われる可能性があるものもあります。依頼者から預かった秘密が、自分の管理の及ばない場所へ流れていくとすれば、それは守秘義務違反の問題に直結しかねません。
便利さの代償として、最も守るべきものを差し出してしまう構図です。
怖いのは、漏洩が起きても多くの場合その瞬間には気づけないことです。情報が流れた事実が表面化するのは、ずっと後になってからかもしれない。気づいたときには取り返しがつかない、という点で、一次資料の確認を怠るのとはまた違った種類のリスクだと言えます。
利用規約を読み込み、入力したデータがどう扱われるかを確かめてから使う――その一手間を惜しまないことが、若いうちに身につけたい習慣です。


論点は「使うか」ではなく「どう安全に使うか」
ここまで来ると、問いの形が見えてきます。
利用率66%の時代に意味があるのは、「使うか、使わないか」という二択ではありません。
すでに多くの実務家が使っている以上、現実的な論点は「どう安全に使うか」へと移っています。
使わないという選択は、短期的にはリスクを避けられても、業務効率の差として効いてくる可能性があります。
同じ時間で処理できる量が変われば、依頼者に提供できる価値も変わってくる。
一方、無防備に使えば守秘義務という根幹を脅かす。
どちらの極端も、五年目前後の私たちが取るべき道ではありません。
だとすれば、両極のどちらでもなく、安全に使う条件を整えることが現実的な姿勢だといえます。「使わない理由」を探すのでも、「便利だから」で飛びつくのでもなく、どういう条件なら安心して使えるかを自分の言葉で説明できるようにしておく。
この問いの立て直しができている人と、できていない人とで、数年後の差は小さくないように思います。


情報を外に出さない、という設計思想
では「安全に使う」とは具体的に何か。
核心は、依頼者情報を外に出さないことです。
- 依頼者情報を不用意に外部サービスへ入力しない
- 情報を扱う環境が閉じているか、どこへデータが渡るかを確認する
- 案件単位で情報を整理し、誰の何の情報かを管理下に置く
工夫の一つは、入力前に情報を抽象化することです。
固有名詞を伏せ、金額を概数にし、「ある依頼者が」と一般化したうえで論点だけを尋ねる。これだけでも、外に出る秘密の量は大きく減らせます。
ただ、抽象化には手間がかかり、急いでいる日ほど省かれがちです。だからこそ、もう一段根本的な発想として、そもそも依頼者情報を外に出さずに済む、閉じた環境で扱う設計が効いてきます。
入力する前に「この情報はどこへ行くのか」と一拍考える癖。そして、データが自分の管理下から出ていかない仕組み。この二つがそろえば、AIの利便性と守秘義務は両立しうると私は考えています。
道具を断つのではなく、道具を置く場所を選ぶ、という発想です。



若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

若手弁護士

横田

