COLUMNコラム
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懲戒は「能力」ではなく「処理」から崩れる――最初の一回をもらわないという発想
若手弁護士向け 2026.06.13.

若手弁護士

横田

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通算9回という公告が映すもの
2025年9月、ある弁護士の9回目の懲戒処分が官報で公告されました。
報じたブログによれば、懲戒処分の件数9回は現役で最多であり、過去の記録にも並ぶ数字だといいます。
この回の処分内容は業務停止3月でした。
数字のインパクトに目を奪われますが、注目したいのは「9回」という積み重なり方そのものです。
一度きりの大きな不祥事ではなく、処分が連鎖していった点に、私たち実務家が学ぶべきものがあります。
一発の致命傷ではなく、小さな傷が癒えないうちに次の傷を重ねていった。
そういう経過を想像すると、これは資質の問題というより、立て直しの機会を逃し続けた構造の問題に見えてきます。
もう一つ見落としたくないのは、本人が最初からここを目指していたわけではない、という当たり前の事実です。
一回目を受けた時点では、誰もが「次はない」と思っていたはずです。それでも積み上がってしまうところに、この問題の不気味さがあります。


懲戒は能力ではなく処理から崩れる
懲戒というと、何か特別に悪質な行為を思い浮かべがちです。
けれど実際の処分理由の多くは、法律知識の不足ではありません。
事務処理の遅れ、期限の管理漏れ、預り金など金銭の扱いの甘さ。
つまり事務処理の領域から崩れていくことが少なくありません。
これは若手にとって、むしろ厳しい現実です。司法試験を突破した能力があっても、机の上の書類を期日どおりに動かす力は別物だからです。
法律論で負けて懲戒される人は多くありません。多くは、連絡を返さなかった、期限に間に合わせなかった、お金の説明ができなかった――そういう「事件処理の入口と出口」でつまずいています。
- 受任した事件を放置してしまう
- 依頼者からの連絡に応答せず、不信を募らせてしまう
- 期限を一つ落とし、その対応に追われて次を落とす
- 預り金の区分があいまいになり、説明できなくなる
能力ではなく、日々の段取りの問題。だからこそ誰にでも起こりうる、と私は考えています。優秀な人ほど多くの案件を抱え込み、かえって処理が追いつかなくなる、という皮肉もあります。


雪だるまはどう転がり始めるか
怖いのは、最初の小さなルーズさが次の違反を呼ぶ構造です。
たとえば事件を一つ放置して戒告を受ける。
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その対応に追われて他の案件が滞る。
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気づけば信頼を失い、収入が細り、金銭管理がさらに苦しくなる。
一つの綻びが時間と気力と信用を奪い、その不足が次の綻びを生み、負のスパイラルが回り始めるわけです。
極端なケースでは、業務停止の処分を受けた期間中に業務を行ってしまい、それがさらなる処分につながることすらあります。
本来そこで立ち止まるべき局面で、止まれずに次の違反へ進んでしまう。抱えた案件を放り出せず、あるいは収入が絶たれる不安から、踏みとどまれなくなる。
一つ目の小さな緩みが、二つ目、三つ目を引き寄せる。これが雪だるま式の正体です。
ここで大切なのは、転がり始めた雪だるまを途中で止めるのは、転がし始めないことよりはるかに難しい、という点です。坂を下りながら重さも速さも増していくものを、力ずくで受け止めるのは容易ではありません。9回という数字は、この連鎖がどこまで転がりうるかを示す極端な見本といえます。


「最初の一回をもらわない」という意識
ここから引き出せる教訓はシンプルです。
雪だるまを止める最も確実な方法は、転がし始めないこと。
つまり、最初の戒告を絶対にもらわない、と決めることです。
一度目の処分は「軽いもの」と受け取られがちですが、連鎖の起点という意味では決して軽くありません。
戒告それ自体の不利益以上に、そこから始まる流れの入口になりうるという点で重いのです。登録五年目前後は、扱う案件が増え、一人で回す範囲が広がる時期です。先輩のチェックが薄くなり、自分の判断で処理が完結する場面も増えます。だからこそ、最初の一回を入口にしない、という意識を今のうちに持っておく価値があります。
「一回くらいなら」と思った瞬間が、実は一番危ない、と言い換えてもいいかもしれません。
完璧を目指すというより、入口に立たないラインを自分の中に引いておく。そのラインの位置を決めておくことが、忙しさの中での判断を支えてくれます。
具体的には、期限・連絡・金銭という三つだけは何があっても落とさない、と優先順位を固定しておくのが現実的です。
すべてを完璧にこなそうとすれば、忙しい時期に必ず破綻します。
けれどこの三つは、放置すれば直接懲戒の入口になりうる領域です。ほかの仕事を多少後回しにしてでも、この三本だけは死守する。そう割り切っておくほうが、かえって最初の一回を遠ざけられます。
守るべき線を絞ることが、線を守り切るコツでもあるのです。


意志ではなく仕組みで守る
とはいえ、「気をつけます」という意志だけでは、人は必ずどこかで落とします。忙しさのピークでこそミスは起きるからです。注意力には総量があり、案件が増えれば一件あたりに割ける注意は薄まります。
頼るべきは意志ではなく仕組みです。
- 期限を頭ではなく仕組みの中で管理し、抜け漏れを目に見える形にする
- 案件ごとの進捗を一覧で把握し、放置されている事件をすぐ拾えるようにする
- 依頼者への連絡状況も記録し、応答が滞っている案件を可視化する
- 預り金など金銭の動きを可視化し、いつでも説明できる状態を保つ
こうした仕組みがあれば、忙しさに飲まれても「落ちかけているもの」が画面の上で見えてきます。
見えれば、転がり始める前に止められます。
仕組みの良いところは、調子の悪い日でも淡々と同じ仕事をしてくれる点です。気合いの入った日とそうでない日の落差を、仕組みが埋めてくれる。意志を捨てるのではなく、意志が切れた瞬間を仕組みに支えてもらう、という発想です。
もう一つ付け加えるなら、仕組みは「自分の状態を客観的に映す鏡」にもなります。
放置案件の件数が増えていれば、それは自分が処理能力の限界を超えてきたサインです。
鏡があれば、抱えすぎる前に受任を絞る、応援を頼む、といった判断を早めに下せます。
ミスを未然に拾うだけでなく、自分が今どれだけの荷を負っているのかを教えてくれる。
そこまで使えて初めて、仕組みは本当の意味で人を守るのだと思います。



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