COLUMNコラム

もっと身近な法律を。横田秀俊法律事務所のコラムをお届けします。

  1. TOP
  2. COLUMN
  3. 懲戒は「能力」ではなく「処理」から崩れる――最初の一回をもらわないという発想

懲戒は「能力」ではなく「処理」から崩れる――最初の一回をもらわないという発想

若手弁護士向け 2026.06.13.

懲戒は「能力」ではなく「処理」から崩れる――最初の一回をもらわないという発想

横田先生、懲戒処分の通算回数が9回という弁護士が官報に載ったと聞いて、正直ぞっとしました。

若手弁護士

微笑

横田

私もあの公告は印象に残りました。現役で最多、過去の記録に並ぶ回数だそうです。
そこまでいくと、もう特別な人の話という気がしてしまいます。

若手弁護士

微笑

横田

そう思いたくなりますよね。でも、私はむしろ逆で、誰にでも入口はあると感じています。
入口…というと?

若手弁護士

微笑

横田

最初の一回が、どこから始まるか。そこを一緒に分解してみましょう。

記事の概要を示すスライド。懲戒が崩れる場所は能力でなく処理であり、通算9回という極端な事例が示すのは、最初の小さなルーズさが雪だるま式に膨らむ連鎖の構造だと説明。

通算9回という公告が映すもの

2025年9月、ある弁護士の9回目の懲戒処分が官報で公告されました。

報じたブログによれば、懲戒処分の件数9回は現役で最多であり、過去の記録にも並ぶ数字だといいます。

この回の処分内容は業務停止3月でした。

数字のインパクトに目を奪われますが、注目したいのは「9回」という積み重なり方そのものです。

一度きりの大きな不祥事ではなく、処分が連鎖していった点に、私たち実務家が学ぶべきものがあります。

一発の致命傷ではなく、小さな傷が癒えないうちに次の傷を重ねていった。

そういう経過を想像すると、これは資質の問題というより、立て直しの機会を逃し続けた構造の問題に見えてきます。

もう一つ見落としたくないのは、本人が最初からここを目指していたわけではない、という当たり前の事実です。

一回目を受けた時点では、誰もが「次はない」と思っていたはずです。それでも積み上がってしまうところに、この問題の不気味さがあります。

2025年9月に現役最多に並ぶ9回目の懲戒処分が官報に公告された事実を紹介し、件数の多さより積み重なった経緯そのものが問題の本質だと指摘。
一度きりの不祥事でなく処分が繰り返された点に核心があると解説。小さな傷が癒えぬうちに次の傷を重ねる構造と、立て直しの機会を逃し続けた経緯を示す。

懲戒は能力ではなく処理から崩れる

懲戒というと、何か特別に悪質な行為を思い浮かべがちです。

けれど実際の処分理由の多くは、法律知識の不足ではありません。

事務処理の遅れ、期限の管理漏れ、預り金など金銭の扱いの甘さ。

つまり事務処理の領域から崩れていくことが少なくありません。

これは若手にとって、むしろ厳しい現実です。司法試験を突破した能力があっても、机の上の書類を期日どおりに動かす力は別物だからです。

法律論で負けて懲戒される人は多くありません。多くは、連絡を返さなかった、期限に間に合わせなかった、お金の説明ができなかった――そういう「事件処理の入口と出口」でつまずいています。

  • 受任した事件を放置してしまう
  • 依頼者からの連絡に応答せず、不信を募らせてしまう
  • 期限を一つ落とし、その対応に追われて次を落とす
  • 預り金の区分があいまいになり、説明できなくなる

能力ではなく、日々の段取りの問題。だからこそ誰にでも起こりうる、と私は考えています。優秀な人ほど多くの案件を抱え込み、かえって処理が追いつかなくなる、という皮肉もあります。

懲戒の原因は法律知識の不足より事務処理の失敗が多いと説明。期限管理の漏れ、預り金の扱いの甘さ、事件処理の入口と出口でのつまずきを例示。
懲戒につながる典型的な四つのほころびを提示。受任事件の放置、依頼者への不応答、期限の連続ミス、預り金管理のあいまいさを挙げ、いずれも能力でなく日常の段取りの問題と解説。

雪だるまはどう転がり始めるか

怖いのは、最初の小さなルーズさが次の違反を呼ぶ構造です。

たとえば事件を一つ放置して戒告を受ける。

👇

その対応に追われて他の案件が滞る。

👇

気づけば信頼を失い、収入が細り、金銭管理がさらに苦しくなる。

一つの綻びが時間と気力と信用を奪い、その不足が次の綻びを生み、負のスパイラルが回り始めるわけです。

極端なケースでは、業務停止の処分を受けた期間中に業務を行ってしまい、それがさらなる処分につながることすらあります。

本来そこで立ち止まるべき局面で、止まれずに次の違反へ進んでしまう。抱えた案件を放り出せず、あるいは収入が絶たれる不安から、踏みとどまれなくなる。

一つ目の小さな緩みが、二つ目、三つ目を引き寄せる。これが雪だるま式の正体です。

ここで大切なのは、転がり始めた雪だるまを途中で止めるのは、転がし始めないことよりはるかに難しい、という点です。坂を下りながら重さも速さも増していくものを、力ずくで受け止めるのは容易ではありません。9回という数字は、この連鎖がどこまで転がりうるかを示す極端な見本といえます。

一つの綻びが連鎖を生む仕組みを段階的に解説。事件放置が戒告を招き、対応に追われ他の案件が滞り、信頼を失って収入が細り、金銭管理がさらに悪化する負の循環を説明。
転がり始めた雪だるまを止めることは始めないことよりはるかに難しいと論じ、業務停止中に業務を続けてさらなる処分を招いた経緯を9回という連鎖の見本として示す。

 「最初の一回をもらわない」という意識

ここから引き出せる教訓はシンプルです。

雪だるまを止める最も確実な方法は、転がし始めないこと

つまり、最初の戒告を絶対にもらわない、と決めることです。

一度目の処分は「軽いもの」と受け取られがちですが、連鎖の起点という意味では決して軽くありません。

戒告それ自体の不利益以上に、そこから始まる流れの入口になりうるという点で重いのです。登録五年目前後は、扱う案件が増え、一人で回す範囲が広がる時期です。先輩のチェックが薄くなり、自分の判断で処理が完結する場面も増えます。だからこそ、最初の一回を入口にしない、という意識を今のうちに持っておく価値があります。

「一回くらいなら」と思った瞬間が、実は一番危ない、と言い換えてもいいかもしれません。

完璧を目指すというより、入口に立たないラインを自分の中に引いておく。そのラインの位置を決めておくことが、忙しさの中での判断を支えてくれます。

具体的には、期限・連絡・金銭という三つだけは何があっても落とさない、と優先順位を固定しておくのが現実的です。

すべてを完璧にこなそうとすれば、忙しい時期に必ず破綻します。

けれどこの三つは、放置すれば直接懲戒の入口になりうる領域です。ほかの仕事を多少後回しにしてでも、この三本だけは死守する。そう割り切っておくほうが、かえって最初の一回を遠ざけられます。

守るべき線を絞ることが、線を守り切るコツでもあるのです。

雪だるまは転がし始めないことでしか止められないと主張。一度目の戒告が連鎖の起点となり「軽い処分」が最も重い理由はその後にあると解説し、登録五年目前後の注意を促す。
「一回くらい」と思った瞬間が最も危ういと警告し、期限・連絡・金銭の三本を何があっても落とさないことを優先するよう説く。すべての完璧より三本の死守が守り切るコツと結論。

意志ではなく仕組みで守る

とはいえ、「気をつけます」という意志だけでは、人は必ずどこかで落とします。忙しさのピークでこそミスは起きるからです。注意力には総量があり、案件が増えれば一件あたりに割ける注意は薄まります。

頼るべきは意志ではなく仕組みです。

  • 期限を頭ではなく仕組みの中で管理し、抜け漏れを目に見える形にする
  • 案件ごとの進捗を一覧で把握し、放置されている事件をすぐ拾えるようにする
  • 依頼者への連絡状況も記録し、応答が滞っている案件を可視化する
  • 預り金など金銭の動きを可視化し、いつでも説明できる状態を保つ

こうした仕組みがあれば、忙しさに飲まれても「落ちかけているもの」が画面の上で見えてきます。

見えれば、転がり始める前に止められます。

仕組みの良いところは、調子の悪い日でも淡々と同じ仕事をしてくれる点です。気合いの入った日とそうでない日の落差を、仕組みが埋めてくれる。意志を捨てるのではなく、意志が切れた瞬間を仕組みに支えてもらう、という発想です。

もう一つ付け加えるなら、仕組みは「自分の状態を客観的に映す鏡」にもなります。

放置案件の件数が増えていれば、それは自分が処理能力の限界を超えてきたサインです。

鏡があれば、抱えすぎる前に受任を絞る、応援を頼む、といった判断を早めに下せます。

ミスを未然に拾うだけでなく、自分が今どれだけの荷を負っているのかを教えてくれる。

そこまで使えて初めて、仕組みは本当の意味で人を守るのだと思います。

注意力には総量があり「気をつけます」だけでは必ず落とすとして、期限の仕組み管理・進捗一覧化・連絡記録・金銭の可視化という四つの実践項目を提示。
仕組みは調子の悪い日も淡々と動き、意志が切れた瞬間を支える鏡だと説明。放置案件の増加を限界のサインと捉え、受任の絞り込みや応援要請の判断にも仕組みが役立つと示す。

能力の話ではなく、段取りの話だったんですね。少し身近に感じました。

若手弁護士

微笑

横田

身近に感じてもらえたなら何よりです。実は、うちで提供している案件管理ソフトは、まさにこの「見えるようにする」ことに重きを置いていまして。期限と進捗、それに金銭の動きを一つの画面で追えるようにしています。
放置案件が一覧で浮かび上がるなら、最初の一回を防げそうです。

若手弁護士

微笑

横田

ええ、人を疑うのではなく、仕組みで支えるという発想です。気が向いたら触ってみてください。
意志に頼らない、という言葉が刺さりました。

若手弁護士

微笑

横田

刺さったうちが肝心です。元気なうちに仕組みを整えておきましょう。
9回の教訓として、崩れる場所は処理であること、守るべき三本は期限・連絡・金銭であること、守り方は仕組みであることを簡潔に総括し、最初の一回をもらわないと決める重要性を強調。
弁護士法人横田秀俊法律事務所の締めくくりとして、意志に頼らず仕組みで守ること、期限・連絡・金銭の三本を今日から死守することを呼びかける。
アバター画像

監修・執筆:弁護士 横田 秀俊 福井弁護士会所属

日本弁護士連合会の中小企業法律支援センター幹事を務め、中小企業の法的支援体制の構築に携わる。
福井県内地域においては、福井県事業承継・引継ぎ支援センターのエリアコーディネーターとして、数多くの事業引継ぎや経営課題の解決を主導。
法律のプロフェッショナルとして、緻密な法理と現場主義を両立させた的確なアドバイスを提供している。

pagetop