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【法律コラム】令和8年5月29日から変わる防災気象情報― 気象業務法改正で何が変わり、私たちは何をすべきか ―

ニュース解説 2026.06.05.

【法律コラム】令和8年5月29日から変わる防災気象情報― 気象業務法改正で何が変わり、私たちは何をすべきか ―
「最近ニュースで『防災気象情報が変わる』と聞いたのですが、具体的に何がどう変わるのでしょうか。正直、警報や注意報の違いもよくわからなくて……」

相談者

微笑

横田

「いいところに気がつきましたね。実は今日、2026年5月28日から、防災気象情報の仕組みが大きく刷新されるんです。気象業務法という法律の改正に基づくもので、警報の名前にレベルの数字がつくようになるなど、かなり大きな変化です。」
「法律が変わったんですか。それは知りませんでした。私たちの生活にどんな影響があるのか、詳しく教えていただけますか?」

相談者

微笑

横田

「もちろんです。今回の改正は、災害時に『いつ、何をすべきか』を誰にでもわかりやすくすることが目的です。法律的な背景も含めて、順を追って解説しましょう。」

防災気象情報が「建て替え」られた背景

日本は毎年のように台風や大雨による被害に見舞われています。

気象庁は災害のたびに新しい情報を追加してきましたが、その結果、警報や注意報の種類が増え、どの情報がどの程度の危険を示しているのか、住民にとって非常にわかりにくい状態になっていました。

たとえば、従来の制度では「大雨警報」「洪水警報」「土砂災害警戒情報」「氾濫危険情報」など、災害の種類ごとに別々の名称で情報が発表されていました。

しかし、いざ大雨が迫ったとき、これらの情報が警戒レベルのどの段階に対応するのかを瞬時に判断するのは容易ではありません。

気象庁はこの問題を「建て増しを繰り返した家屋」にたとえ、今回の改正を「建て替え」と位置づけました。

従来の情報体系を根本から見直し、誰が見ても危険度と取るべき行動がわかる仕組みに再構築するというのが、今回の改正の趣旨です。

防災気象情報が建て替えられた背景を説明する図。従来は災害の種類ごとに名称が分かれ警戒レベルとの対応が分かりにくかった点と、今回の改正で情報体系を再構築しレベルの数字で危険度が一目で分かるようにした点を、左右に対比して示している。

気象業務法改正の全体像

今回の防災気象情報の刷新は、2025年12月5日に参議院で全会一致で可決・成立した「気象業務法及び水防法の一部を改正する法律」に基づいています。

この法律は、気象庁が発表する予報・警報の法的な根拠を定める気象業務法を改正し、より実効性のある防災情報の提供を可能にしたものです。

改正の柱は大きく二つあります。

一つ目は、大雨・河川氾濫・土砂災害・高潮の4種類の災害について、警戒レベルに応じた統一的な情報体系を構築することです。

これまで災害の種類ごとにバラバラだった警報の名称と警戒レベルの対応関係が整理され、レベルの数字を見るだけで、どの程度の危険があり、何をすべきかが一目でわかるようになりました。

二つ目は、海外の気象事業者による不適切な予報への規制強化です。

近年、海外の天気予報アプリなどが日本国内で利用されるケースが増えていますが、許可を得ずに予報業務を行う事業者への対応が強化されました。

具体的には、無許可の予報業務者の名称公表や、外国法人が許可申請する際の国内代表者の選任義務化などが盛り込まれています。

気象業務法改正の全体像を示す図。2025年12月5日に参議院で可決成立したこと、柱1として大雨・河川氾濫・土砂災害・高潮の4災害を共通の5段階警戒レベルに統一したこと、柱2として無許可の海外気象予報アプリ等への規制を強化したことを二つの枠で説明している。

新しい5段階の警戒レベルと情報名称

新制度では、4種類の災害共通で5段階の警戒レベルが設定され、情報の名称にレベルの数字が付記されます。具体的には次のとおりです。

レベル5「特別警報」

すでに災害が発生している、あるいは切迫している状況を示します。命を守るための最善の行動を取る段階です。

たとえば「レベル5大雨特別警報」のように発表されます。

レベル4「危険警報」

今回新たに設けられた段階で、危険な場所にいるすべての人が避難を完了すべきタイミングです。市町村が「避難指示」を発令する目安となります。「レベル4大雨危険警報」のように発表されます。

レベル3「警報」

高齢者や障害のある方など、避難に時間がかかる方が避難を開始すべき段階です。「レベル3大雨警報」として発表されます。

レベル2「注意報」

避難経路や避難場所の確認など、避難の準備を始める段階です。

レベル1「早期注意情報」

災害への心構えを高める段階です。

名称にレベルの数字が入ることで、テレビやスマートフォンで情報を目にしたとき、数字を見るだけで緊急度を把握できるようになります。

これは特に、土地勘のない旅行先や出張先で災害に遭遇した場合に大きな意味を持つでしょう。

新しい5段階の警戒レベルを色分けで示した表。レベル5特別警報は命を守る最善の行動、レベル4危険警報は全員避難、レベル3警報は高齢者等が避難開始、レベル2注意報は避難準備、レベル1早期注意情報は心構え、と各段階の名称と取るべき行動を一覧にしている。

新設された「危険警報」の意味

今回の改正で最も注目すべき点の一つが、レベル4に対応する「危険警報」の新設です。

従来の制度では、レベル4に対応する気象庁の情報は災害の種類ごとに異なっていました。

大雨による浸水なら「土砂災害警戒情報」、河川の氾濫なら「氾濫危険情報」といった具合です。

これでは、自分の住んでいる地域にどの情報が関係するのかを理解すること自体が難しい状況でした。

新制度では、災害の種類を問わず、レベル4は一律に「危険警報」として発表されます。

この名称を目にしたら、危険な場所にいる人は全員すぐに避難しなければならないということが、直感的に理解できます。

「警報」と「特別警報」の間に「危険警報」を設けたことで、段階的に危険度が上がっていくことが名称からも明確になりました。

「警報が出ているけれど、まだ特別警報ではないから大丈夫だろう」という判断の遅れを防ぐ効果が期待されています。

新設された危険警報の意味を説明する図。レベル4の危険警報は危険な場所にいる全員が直ちに避難することを示す。従来は災害の種類ごとに名称が異なり判断が難しかったが、改正で種類を問わず一律に危険警報として発表される仕組みになったと述べている。

避難指示の法的な位置づけ ― 災害対策基本法との関係

避難指示は、災害対策基本法第60条に基づいて市町村長が発令するものです。

2021年の法改正により、従来の「避難勧告」は廃止され、「避難指示」に一本化されました。

レベル4の段階で避難指示が発令されるのが原則です。

ここで大切なのは、避難指示には法的な強制力がないという点です。避難指示が出ても、住民に避難する法的義務が生じるわけではありません。

ただし、レベル5の「緊急安全確保」も含め、これらの情報は人命を守るために発令されるものですから、指示に従わないことで自らの生命を危険にさらすことになります。

一方、市町村長には、災害が発生するおそれがある場合に適時適切に避難指示を発令する責務があります。

避難指示の発令が遅れたことで住民に被害が生じた場合、自治体が法的責任を問われる可能性もあるのです。

今回の防災気象情報の改正は、この避難指示の発令判断をより明確にする意味も持っています。

レベル4「危険警報」が発表された場合は避難指示を発令する、という判断の目安がはっきりしたことで、自治体の対応もより迅速になることが期待されます。

避難指示の法的な位置づけを説明するスライド。災害対策基本法第60条に基づく制度であること、2021年の改正で避難勧告が廃止され避難指示に一本化されたこと、レベル4で発令されるのが原則で、法的な強制力はないが従わないことは命を危険にさらす行為だと示している。
避難指示と自治体の責務を説明する図。市町村長には災害のおそれがある場合に適切に避難指示を発令する責務があり、遅れて被害が生じれば法的責任を問われる可能性もあると述べる。レベル4危険警報が発令の明確な判断基準となり対応が迅速になると示している。

自治体の責任と住民の「自助」の原則

内閣府が公表している「避難情報に関するガイドライン」には、一つの重要な方針が示されています。

それは、住民は「自らの命は自らが守る」意識を持ち、自らの判断で避難行動をとるべきだという「自助」の原則です。

もちろん、自治体が避難指示を発令し、避難所を開設し、住民を支援する「公助」の役割は極めて重要です。しかし、大規模な災害が発生した場合、すべての住民に個別に避難を呼びかけることは現実的に不可能です。

だからこそ、住民一人ひとりが防災気象情報を正しく理解し、自ら判断して行動できる力を持つことが求められているのです。

新しい防災気象情報は、まさにこの「自助」を支援するための仕組みです。

レベルの数字を見るだけで取るべき行動がわかる制度設計は、住民が自ら判断する際の大きな助けになります。

ただし、高齢者や障害のある方、日本語に不慣れな外国人住民など、自力での避難が困難な方々への配慮も欠かせません。

地域の自主防災組織や民生委員、近隣住民による共助の取り組みと合わせて、新制度を活用していくことが大切です。

自治体の責任と住民の自助の原則を対比した図。公助として避難指示の発令、避難所の開設運営、住民への情報伝達、要支援者への対応を挙げ、自助として自らの命は自らが守る姿勢、防災情報の正しい理解、自ら判断した避難、高齢者等への声かけを左右に並べている。

 災害時の損害賠償 ― 過去の裁判例から学ぶ

災害で被害を受けた場合、法的にはどのような救済が考えられるのでしょうか。

ここでは、過去の裁判例から見える法的な枠組みを簡単にご紹介します。

災害時の損害賠償請求は、主に国家賠償法に基づいて行われることが多くあります。

たとえば、河川の堤防が決壊して浸水被害が生じた場合、河川管理の瑕疵(欠陥)があったかどうかが問題となります。

最高裁判所の判例では、河川管理の瑕疵は、過去に発生した水害の規模や頻度、改修の緊急性、財政的・技術的な制約など、さまざまな事情を総合的に考慮して判断すべきとされています。

また、避難指示の発令が遅れたことについて自治体の責任が問われたケースもあります。

災害の予見可能性や、当時の気象情報から避難指示を出すべきだったかどうかが争点となります。

ただし、自然災害は予測が困難な面があり、すべての被害について国や自治体に責任を認めることは難しいのが実情です。

だからこそ、住民としては「公的な救済があるから大丈夫」と考えるのではなく、防災気象情報を活用して早めに避難するという自衛の姿勢が何より重要です。

災害時の損害賠償と裁判例を説明するスライド。河川の堤防決壊による浸水被害では河川管理の瑕疵が問題となり、最高裁は過去の水害規模や改修の緊急性などを総合考慮して判断するとしていること、避難指示の発令遅れで自治体の責任が問われる例もあることを示している。
災害の法的リスクへの備えとして保険の確認を促す図。火災保険に水災補償が含まれるかの確認、地震や津波による被害は火災保険では補償されないこと、建物と家財の補償上限額が十分かの定期的な見直し、という三つの確認ポイントを枠で並べて説明している。

今日からできる備え ― 法的知識を防災力に変える

最後に、新しい防災気象情報の運用が始まる今日から、私たちにできることを整理してみましょう。

①お住まいの地域のハザードマップを確認

自治体のホームページや国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で閲覧できます。自宅や職場がどのような災害リスクのある場所にあるかを把握しておくことが第一歩です。

②新しい警戒レベルと情報名称を覚える

特に「レベル3で高齢者等は避難」「レベル4で全員避難」「レベル5ではすでに手遅れの可能性がある」という基本を頭に入れておくだけでも、いざというときの行動が変わります。

③避難計画を家族で共有しておく

どこに避難するか、どのルートを通るか、離れている場合はどう連絡を取り合うか。事前に決めておくことで、混乱した状況でも冷静に行動できます。

④火災保険や地震保険などの保険内容を定期的に確認する

自然災害による被害が補償の対象に含まれているか、補償額は十分かなど、いざというときに備えておくことが法的なリスク管理につながります。

防災は、法律や制度を「知っている」だけでは不十分です。

知識を実際の行動に結びつけ、日常の中で備えを続けていくことが、自分と家族の命を守る最大の力になります。

今日からできる備えの前半を示す図。第一にハザードマップの確認として自治体や国土交通省のポータルサイトで自宅や職場の災害リスクを把握すること、第二に新しい警戒レベルを覚えることとしてレベル3で高齢者避難、レベル4で全員避難と整理している。
今日からできる備えの後半を示す図。第三に家族で避難計画を共有し避難先やルート、連絡方法を事前に決めておくこと、第四に保険内容を定期的に確認することを挙げる。防災は知っているだけでは不十分で、知識を行動に結びつけることが命を守る力になると締めくくる。

「レベルの数字で危険度がわかるようになったのは、本当にありがたいですね。今までは警報の名前だけでは、自分がどう動けばいいのか判断しにくかったので。」

相談者

微笑

横田

「そうですね。制度が変わったこのタイミングで、ぜひハザードマップの確認や家族との避難計画の共有をしてみてください。法律は私たちを守るための仕組みですが、それを活かすのは私たち自身の行動です。」
「わかりました。さっそく今日、家族と話し合ってみます。丁寧に教えていただき、ありがとうございました。」

相談者


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監修・執筆:弁護士 横田 秀俊 福井弁護士会所属

日本弁護士連合会の中小企業法律支援センター幹事を務め、中小企業の法的支援体制の構築に携わる。
福井県内地域においては、福井県事業承継・引継ぎ支援センターのエリアコーディネーターとして、数多くの事業引継ぎや経営課題の解決を主導。
法律のプロフェッショナルとして、緻密な法理と現場主義を両立させた的確なアドバイスを提供している。

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