COLUMNコラム
もっと身近な法律を。横田秀俊法律事務所のコラムをお届けします。
家族の喧嘩が「逮捕」につながる時〜阿部前監督の報道から考える「暴行罪」と「しつけ」の境界線〜
ニュース解説 2026.05.29.

相談者

横田

相談者

横田

相談者

横田

~目次~
傷害だけではない。ケガがなくても成立する「暴行罪」の恐ろしさ
先日、プロ野球の元監督が長女への暴行容疑で現行犯逮捕され、その直後に監督を辞任するという衝撃的なニュースが報じられました。
報道によれば、姉妹間の喧嘩を止めに入った際の行為が発端となり、長女が外部の機関へ相談したことで警察の介入に至ったとされています。
その後、長女側からすでに父とは仲直りしているとのコメントが出されたものの、社会的影響の大きさから監督辞任という重い決断を下す結果となりました。
このニュースを見て、他人の家でも起きそうな喧嘩なのにと感じた方も少なくないでしょう。
しかし、ここで最も注意すべき法的なポイントは、【ケガがなくても暴行罪は成立する】という事実です。
多くの方は、殴る蹴るの暴力を振るい、相手に打撲や骨折、出血などの傷害(ケガ)を負わせた場合にのみ犯罪になる、すなわち刑法第204条の傷害罪のイメージを強く持っています。
しかし、刑法第208条には暴行罪が明確に定められています。
法律上における暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使を指します。つまり、直接的に相手の身体を傷つけていなくても、不法な物理的力を加えれば犯罪が成立するのです。
たとえば、相手の服の胸ぐらを強く掴んで揺さぶる行為、腕を無理やり引っ張る行為、直接当たらなくても相手の近くに物を力いっぱい投げつける行為などが該当します。
家庭内という密室では感情が高ぶりやすいですが、【家族だから許される】という考えは現代においては通用しない認識であると知っておく必要があります。




「しつけ」や「仲裁」は暴力を正当化する魔法の言葉にはならない
子供の激しい喧嘩を止めるためだった、言うことを全く聞かない子供へのしつけだったという目的があれば、親の行為は許されるのではないかと考える方もいるかもしれません。
特に親の立場からすると、危険な喧嘩を力ずくで止めることは親の責任であると感じることもあるでしょう。
しかし、家族間の喧嘩の仲裁であっても、実力行使によってその場を力で収めようとする行為は、法的に違法と判断される可能性が高いのが実情です。
たとえば、相手が刃物を持って襲いかかってきた家族を取り押さえるといった、極端に危険な状況下で自分や他人の命を守るための正当防衛や緊急避難が成立するような特殊なケースは別ですが、単なる口論や小競り合いを暴力で制圧することは許されません。
感情的になっている相手を力でねじ伏せようとすれば、かえって激しい反発を招き、事態を悪化させるだけです。
間に割って入って両者を引き離すことと、相手を投げ飛ばしたり胸ぐらを掴んだりするような攻撃的な行動は、法的に明確に区別されます。
制圧するのではなく、距離をとらせるという冷静な対応が求められるのです。


民法改正による「懲戒権」削除と現代の体罰禁止の考え方
しつけと称した暴力が法的に認められない背景には、近年の重要な法改正が存在します。
かつて、日本の民法第822条には、親権者が子供を戒めることができるとする【懲戒権】という規定が存在していました。
親は子供を正しく導くために、ある程度の懲戒処分を行う権利があるという考え方に基づくものでした。
しかし、この懲戒権という言葉を理由にして、度を越した体罰や児童虐待が正当化されてしまう痛ましい事件が後を絶たなかったという悲しい背景があります。
児童相談所や警察が介入しようとしても、親側から「これは法律で認められたしつけだ」と主張され、対応が遅れてしまうケースが問題視されるようになりました。
こうした深刻な社会的状況を重く見た国は、法改正に踏み切りました。
2022年(令和4年)の民法改正により、この懲戒権の規定は完全に削除され、子供に対する体罰の禁止が法律上に明記されることになったのです。
したがって、現在では【しつけのためだから多少叩いてもよい】という主張は、警察の捜査や裁判において法的に全く認められなくなっています。


AI(ChatGPT)から警察介入へ。現代における通報の多様化
今回の事件で特に注目を集めたのは、被害者となった18歳の長女が、最初に生成AIであるChatGPTに相談を持ちかけたという報道です。
AIに対して「父親から暴力を振るわれたがどうすればいいか」といった趣旨の相談を行い、そこから得られたアドバイスに従って児童相談所へ連絡し、最終的に警察の介入(110番通報)に繋がったとされています。
この経緯は、家庭内のトラブルが外部に発覚するプロセスが現代において大きく変化していることを示しています。
これまでは、密室でのトラブルは当事者が直接警察に駆け込むか、近隣住民が騒ぎを聞きつけて通報するかの二択が主流でした。しかし現在では、スマートフォン一つで客観的な知識を持つAIに相談し、自身の状況が客観的に見て異常である(法的に保護されるべき状態である)と認識する機会が劇的に増えています。
家庭内という閉鎖的な環境にいると、「自分が悪いから怒られているんだ」「親に逆らうことはできない」と思い込んでしまう被害者は少なくありません。
しかし、テクノロジーの進化により、第三者の客観的な視点を手軽に取り入れることが可能となり、結果として公的機関へのアクセスへのハードルが下がっているのです。


逮捕=実刑という誤解。早期釈放の裏にある法的な要件
現行犯逮捕の翌日に元監督が釈放されたことに対し、有名人だから特別扱いされたのではないかと疑問を抱いた方もいるかもしれません。
しかし、これは決して特別扱いではなく、日本の刑事訴訟法に則った一般的な判断です。
そもそも【逮捕】という手続きに対する世間の大きな誤解があります。
逮捕とは、犯人に罰を与えるための手続き(刑罰)ではありません。
逮捕の本来の目的は、被疑者が逃亡することや、証拠を隠滅することを防ぐために、身柄を一時的に拘束するという捜査上の手段に過ぎないのです。
今回のようなケースでは、被疑者の身元(住所や職業)がはっきりと判明しており、本人も事実関係を大筋で認めて捜査に協力的な姿勢を示していたと考えられます。そのような状況下では、警察や検察の判断として、この人物が逃亡したり、証拠を隠滅したりする恐れはないとみなされます。
身柄を拘束し続ける法的な理由(要件)がなくなるため、速やかに釈放されるのが大原則なのです。
以後は、日常生活や仕事を続けながら取り調べを受ける【在宅事件(任意捜査)】へと切り替わります。

当事者間の「和解」がその後の刑事処分に与える極めて重要な影響
釈放された後の手続きにおいて、非常に重要な鍵を握るのが当事者間の関係修復です。
今回の事件では、被害者である長女側がすでに父とは仲直りしていると公表している点が、今後の法的な処分に極めて大きな影響を与えます。
暴行罪や傷害罪といった犯罪において、当事者間で話し合いが行われ、示談や和解が成立している場合、被害者が加害者の処罰を強く望んでいないという意思表示になります。
具体的には、被害届の取り下げや、処罰を求めない旨の嘆願書が提出されるケースがこれに当たります。
検察官は、被疑者を裁判にかける(起訴する)かどうかの判断を下す際、被害者の処罰感情を非常に重く見ます。
家族間の事件であり、すでに家庭内で問題が解決して和解が成立している場合、最終的に検察官の裁量判断で【不起訴処分】となるケースは非常に多く見られます。
早期の和解と被害感情の修復が、前科をつけないための最大のポイントとなるのです。

密室のトラブルを最悪の事態にしないための予防策と外部介入
家族の恥は外に出すべきではない、家庭内の問題は家族だけで解決すべきだという日本の伝統的な価値観は、時にトラブルを長引かせてしまう要因にもなります。
家庭という外からは見えない閉鎖的な空間では、親と子、夫と妻といった力関係が無意識のうちに固定化されてしまいます。
閉鎖空間でエスカレートした感情は行き場を失い、最終的に手を出してしまう、暴言を吐き続けるという望ましくない形で爆発しがちです。
今回の出来事は、社会的地位や名誉があり、普段は冷静な判断ができるはずの人物であっても、家族という特殊な関係性の中では感情のコントロールがいかに難しくなるかという事実を示しています。
もし現在、あなた自身が家庭内の不和、離婚問題、配偶者からのDV、あるいは子供との関係性などで深い悩みを抱えているのであれば、決定的な事件が起きて警察が介入する事態になる前に、第三者の目を入れることをお勧めします。
当事者同士で話し合おうとすると、どうしても感情的な対立の連鎖に陥り、解決の糸口を見つけることが難しくなります。
弁護士は、法律の専門家として客観的な視点から状況を整理し、代理人としてあなたの代わりに冷静な話し合いを進めるサポートが可能です。
深刻なケースであれば、公的機関と連携しながら、身の安全を確保するための法的な手続きを迅速にとることもできます。
家庭内の問題は、一人で抱え込まずに、法律の専門家という客観的な外部の力を頼ることが円満な解決への第一歩となります。


相談者

横田

相談者

横田

相談者

横田
〒912-0087
福井県大野市城町8番6号
弁護士法人横田秀俊法律事務所
電話:0779-64-4099
※当事務所は福井県大野市のみならず、全国の案件に対応しております。遠方の方でも、オンライン(ZOOM、Google meetなど)でのご相談が可能です。
※ご相談料は30分5500円となります。
※お支払いは、対面でのカード決済、およびQRコード決済に対応しております(PayPayは非対応となりますのでご注意ください)。
※お電話でのご予約をお願いいたします。誠に恐れ入りますが、メールでの受付は非対応となっております。