COLUMNコラム
自己破産すると選挙権・年金・パスポートはどうなる?
破産・再生 2026.02.23.
~目次~
「自己破産をしてしまうと、人間としての権利をすべて失ってしまうのではないか」
「選挙の投票に行けなくなるし、老後のための年金も没収されてしまうらしい」
「もう一生、海外旅行はおろか、パスポートすら作れなくなる」
日々の借金の返済に苦しみ、当事務所へご相談にいらっしゃる方々から、このような悲痛な不安の声を耳にすることが少なくありません。
自己破産という言葉の響きから、「人生の終わり」や「社会からの完全な追放」といったネガティブなイメージを持たれてしまうのも無理はありません。
しかし、結論から申し上げますと、こうした噂の多くは『事実とは異なる誤解』です。
自己破産は、借金をゼロにして生活を立て直すために国が用意した『経済的再生のための正当な法的手続き』です。
借金を免除する代わりに一定の財産は手放す必要がありますが、生きていくために不可欠な権利や財産まで奪われることは決してありません。
このコラムでは、自己破産を検討されている方が特に不安に感じやすい「選挙権」「年金」「パスポート・海外旅行」の3つのテーマについて、法律の専門家である弁護士が詳しく、そして分かりやすく検証・解説いたします。
誤った情報に惑わされて解決のタイミングを逃してしまう前に、ぜひ本コラムをお読みいただき、正しい知識を身につけていただければ幸いです。
はじめに:自己破産に対する根強い誤解と不安
インターネット上や人づてに広まる借金問題の噂の中には、事実とは全く異なるものが数多く存在します。
「戸籍や住民票に破産したことが載る」
「会社を不当に解雇される」
「家族の財産まで没収される」
といったものは、すべてよくある勘違いです。
自己破産手続きの最大の目的は、多重債務で苦しむ方を経済的な窮地から救済し、生活の再建を後押しすることにあります。
そのため、債務者(お金を借りた人)を社会的に罰したり、必要以上の不利益を与えたりするような制度にはなっていません。
今回は、数ある誤解の中でも特にご質問が多い「選挙権」「年金」「パスポート・海外旅行」に焦点を当てて、手続き前後で生活がどう変わるのか、あるいは全く変わらないのかを具体的に見ていきましょう。

選挙権について:公職選挙法上の扱いはどうなるのか?
選挙権や被選挙権が失われることは決してない
自己破産をしたからといって、選挙で投票する権利(選挙権)や、自らが立候補する権利(被選挙権)が失われることは『絶対にありません』。
選挙権をはじめとする参政権は、日本国憲法で保障された国民の重要な基本的人権です。
公職選挙法において、選挙権が停止される条件(欠格事由)が定められていますが、そこに「自己破産をしたこと」は含まれていません。
自己破産の手続きをすると、弁護士や警備員、保険外交員など「一部の職業に就くことが一時的に制限される(資格制限)」という規定は確かに存在します。
しかし、これはあくまで特定の職業における信用性を保つためのルールであり、国民としての基本的な権利である選挙権とは全く無関係です。
選挙運動や政治活動への参加も完全に自由
投票や立候補ができるだけでなく、応援する候補者の選挙運動を手伝ったり、特定の政党の政治活動に参加したりすることも、当然ながら自由に続けることができます。
また、「破産したことが選挙管理委員会に伝わって、投票所で恥ずかしい思いをするのではないか」と心配される方もいらっしゃいますが、そのような情報が選挙の運営機関に通知されることは一切ありません。
これまで通り、堂々と投票所に足を運んでいただけます。

年金について:老後の生活資金は守られるのか?
公的年金(国民年金・厚生年金)は全額保護される
多くの方が最も心配されるのが、「自己破産をすると老後の年金がもらえなくなってしまうのではないか」という点です。
これについてもご安心ください。原則として、年金を受け取る権利は『全額守られます』。
国民年金法や厚生年金保険法といった法律では、年金を受け取る権利を他人に譲ったり、借金の担保にしたり、差し押さえたりすることを明確に禁止しています。
このような財産を「差押禁止財産」と呼びます。
自己破産において手放さなければならないのは、あくまで一定額以上の現金や預貯金、不動産、高価な車などの資産です。
法律で特別に守られている公的年金は、自己破産の手続きの対象外(自由財産)として扱われるため、破産後も予定通り全額を受給することができます。
すでに年金を受給中の方も、これから受給年齢を迎える方も、その権利が消滅することはありません。

iDeCo(個人型確定拠出年金)も差押えの対象外
「個人型・企業型確定拠出年金」についても、公的年金と同様に『差押禁止財産』として法律(確定拠出年金法)で保護されています。
積み立てた掛金がどれだけ高額になっていたとしても、自己破産を理由に解約させられたり、積み立てた資金が没収されて債権者への返済に充てられたりすることはありません。
老後のための大切な資金として、そのまま維持することが可能です。
注意点:民間の「個人年金保険」の扱いは異なる
一つだけ強く注意していただきたいのが、民間の生命保険会社などで契約している「個人年金保険」や「学資保険」「養老保険」などの扱いです。
これらは国が運営する公的年金や確定拠出年金とは異なり、「民間企業との金融契約(資産)」とみなされます。
そのため、解約した際に戻ってくるお金(解約返戻金)の金額が一定額(一般的には20万円)を超える場合は、破産手続きにおいて『処分の対象となる可能性』が高くなります。
年金という名前がついていても、制度の違いによって守られるかどうかが大きく分かれます。ご自身が加入している年金や保険がどのタイプに該当するのか、専門家である弁護士に事前にしっかりと確認してもらうことが重要です。

パスポートと海外旅行について:移動の自由は制限されるのか?
パスポートの申請・取得・更新は制限されない
「自己破産をするとブラックリストに載り、パスポートが作れなくなる」というのも、非常によくある誤解です。
パスポート(旅券)の発行や効力について定めた旅券法には、パスポートの発給を拒否できる条件が規定されています。
例えば、重罪を犯して起訴されている人や、一定の刑罰を受けた人などが該当します。
しかし、この発給制限の条件の中に「自己破産」という項目はありません。
したがって、自己破産の手続き中であっても、手続きが完了した後であっても、パスポートの新規取得や更新手続きは『全く問題なく行うことができます』。

「同時廃止事件」の場合:海外旅行の制限は一切なし
では、実際に海外旅行に行けるかどうかについて解説します。
これは、自己破産の手続きの種類によって大きく二つに分かれます。
自己破産の手続きには、大きく分けて「同時廃止事件」と「管財事件」の2種類があります。
「同時廃止事件」とは、処分するような価値のある財産(おおむね20万円以上の資産)を全く持っていない場合に行われる、比較的簡易な手続きです。
この同時廃止事件として手続きが進む場合、居住地の制限や移動の制限は一切ありません。
したがって、手続きの最中であっても、事前の許可など不要で『自由に海外旅行や国内旅行に行くことができます』。
「管財事件」の場合:手続き期間中のみ裁判所の許可が必要
一方、一定以上の財産を持っている場合や、借金の原因がギャンブルや浪費である場合(免責不許可事由の調査が必要な場合)、個人事業主や会社代表者である場合などは、「管財事件」という手続きになります。
管財事件では、裁判所から選任された「破産管財人」という弁護士が、財産の調査や配当などの管理を行います。
この『管財事件として手続きが行われている期間中のみ』、長期の旅行や引越しをする際には、事前に裁判所の許可が必要となります。
これを「居住制限」と呼びます。
制限される理由は、決して債務者を罰するためではありません。
財産を勝手に持ち出して隠したり逃亡したりするのを防ぐため、そして、裁判所や破産管財人からの呼び出しや連絡があった際に、すぐに対応できる状態にしておく必要があるからです。
出張や冠婚葬祭などの正当な理由があれば許可は下りやすい
管財事件の手続き中であっても、「絶対に旅行に行ってはいけない」というわけではありません。
仕事での海外出張、親族の冠婚葬祭、病気の治療など、正当な理由と明確な渡航スケジュールがあり、裁判所や破産管財人との連絡体制が確保できると判断されれば、許可を得て海外へ行くことは十分に可能です。
なお、この居住制限が適用されるのは、あくまで『破産手続きが開始してから、免責許可決定(借金をゼロにするという最終決定)が確定するまでの数ヶ月間』だけです。
手続きがすべて完了した後、制限は一切解除され、誰の許可を得ることもなく、自由に海外旅行を楽しむことができます。

おわりに:正しい知識で新しい人生への第一歩を
いかがでしたでしょうか。自己破産をしても、「選挙権」が奪われることはなく、「公的年金やiDeCo」はしっかりと守られ、「パスポートの取得や海外旅行」も決して不可能ではないことがお分かりいただけたかと思います。
自己破産は、人生の終わりではありません。
むしろ、これまでの重い負担をリセットし、平穏な生活を取り戻すための『新しい人生のスタートライン』です。
誤った知識やネット上の不確かな噂を信じて不安を抱え込み、解決を先延ばしにしてしまうことこそが、最も避けるべき事態です。
借金の問題は、専門家の力を借りることで必ず解決の道が見えてきます。
一人で悩まず、まずは正しい法的な見通しを知るためにも、勇気を出して弁護士にご相談ください。


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