COLUMNコラム
【徹底解説】「退職代行モームリ」社長逮捕の深層――弁護士が警鐘を鳴らす「ホワイト」の裏側
ニュース解説 2026.02.12.
~目次~
退職代行サービス業界の最大手の一角、「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの社長らが逮捕されたというニュースは、単なる一企業の不祥事にとどまらず、現代日本の労働問題や法的サービスの危うさを浮き彫りにしました。
「SNSで有名だったから」
「安かったから」
という理由で利用していた方たちにとっては、青天の霹靂だったかもしれません。
しかし、私たち弁護士の視点から見れば、この業界が抱えていた「構造的な歪み」がついに限界に達した結果であるとも言えます。
本稿では、この事件がなぜ起きたのか、そして私たちがここから何を学ぶべきなのか。
法的観点から徹底的に、かつ噛み砕いて論評します。
なぜ「最大手」が逮捕されたのか? 事件の核心
今回の容疑は、弁護士法違反(非弁行為・非弁提携)です。
具体的には、弁護士資格を持たない株式会社アルバトロスが、退職を希望する顧客から依頼を受け、提携する弁護士に客を紹介し、その見返りとして「紹介料(キックバック)」を受け取っていたという疑いです。
報道によれば、その額は1人あたり約1万6,500円。
提携先の弁護士事務所から「事務手数料」や「広告宣伝費」といった名目で、組織的に現金を受け取っていたとされています。
ここで多くの方が疑問に思うのは、「紹介料をもらって何が悪いの?」という点でしょう。
不動産や転職エージェントなら当たり前のビジネスモデルです。
しかし、「法律業務」においてこれを行うことは、犯罪(刑事罰の対象)になります。

「弁護士法」という高い壁――なぜ紹介料はダメなのか
なぜ、法律はこれほどまでに「紹介料」に厳しいのでしょうか。
それは、弁護士が「正義の守護者」であるべきだからです。
弁護士法第72条(非弁行為の禁止)と第77条(非弁提携の禁止)は、資格のない者が金儲けのために他人の法律問題に介入することを厳格に禁じています。
その理由は主に3つあります。
- 利用者の保護: 紹介料が発生すると、弁護士は「依頼人の利益」よりも「紹介してくれる業者への配慮」を優先するようになります。最善の解決ではなく、業者が儲かるような強引な解決に導く危険があるのです。
- サービスの質の担保: 資格のない業者が法律事務に介入すると、間違ったアドバイスで事態を悪化させる恐れがあります。
- 公共性の維持: 法律事務が「金儲けの道具」として、資格のない業者に支配されると、司法の公正さが失われます。
今回のケースで言えば、「モームリ」側は「自分たちは単に弁護士を紹介しただけ」と主張するかもしれませんが、そこに多額の金銭が動いていたのであれば、それはもはや「ビジネスとしての法律事務の切り売り」であり、法が最も忌み嫌う「事件屋(じけんや)」に近い行為とみなされたのです。

「ホワイトな退職代行」というブランディングの罠
「モームリ」の最大の特徴は、社長自らがSNSやメディアに露出し、「労働者の味方」としてホワイトなイメージを作り上げたことでした。
- 「うちは適正価格(約2万円)です」
- 「無理な交渉はしません」
- 「手に負えない場合は弁護士を紹介します」
こうしたメッセージは、パワハラ等に悩み、一刻も早く会社を辞めたい方たちに深く刺さりました。
しかし、弁護士から見れば、この「2万円という低価格」と「弁護士紹介」の組み合わせこそが、ビジネスモデルとしての致命的な欠陥を隠すための装置だったようにも見えます。
本来、退職に際して「未払い残業代の請求」や「有給休暇の取得交渉」を行うには、弁護士(または認定司法書士、労働組合)の資格が必要です。
民間業者ができるのは、あくまで「本人の意思を伝えるだけ」です。
しかし、現実には会社側が反論してきたり、交渉が必要になったりするケースが多々あります。
その際、業者が「提携弁護士に繋ぐ」ことで解決を装いつつ、裏で高額なキックバックを得ていたのであれば、それは「労働者の窮状をマネタイズする巧妙なスキーム」だったと言わざるを得ません。

業界全体に蔓延する「グレーゾーン」の正体
退職代行業界には、大きく分けて3つのプレイヤーが存在します。
| 運営主体 | できること | リスク・特徴 |
| 弁護士 | すべての交渉、裁判 | 費用はやや高いが、100%合法で確実。 |
| 労働組合(ユニオン) | 団体交渉権を用いた交渉 | 合法だが、実態が不明な「自称ユニオン」も多い。 |
| 民間業者(今回ここ) | 意思の伝達(使い走り)のみ | 交渉すると違法。 今回のように弁護士と結託するリスク。 |
多くの民間業者は、「私たちは交渉しません」と言いつつ、実際には会社側とやり取りをしています。
これが「非弁行為(グレーから黒)」です。
「モームリ」は、そのグレーな部分を「弁護士紹介」という形でクリアに見せようとしましたが、結局はその「紹介」自体が違法な金銭授受の温床になっていたわけです。
社長はSNSで「業界をクリーンにしたい」と語っていましたが、法律の専門家から見れば、その手法は「法の抜け穴を探す行為」に他なりませんでした。

「会社を辞める」のに、なぜ代行が必要なのか
この事件の背景には、日本の労働環境の深刻な劣化があります。
「辞めると言ったら何をされるか分からない」
「損害賠償を請求すると脅されている」
こうした恐怖心があるからこそ、若者は数万円を払ってでも代行を頼みます。
しかし、冷静に考えてみてください。
- 民法第627条: 期間の定めのない雇用契約なら、2週間前に申し出ればいつでも辞められます。会社の承諾は不要です。
- 労働基準法: 強制労働は禁止されています。
つまり、本来は「手紙を一通郵送する(内容証明郵便など)」だけで、法的には退職が成立するのです。
それなのに、なぜ「代行サービス」が10億円以上も稼ぐ巨大市場になったのか。
それは、多くの日本人が「法律という武器」の使い方を知らず、会社という組織に心理的に支配されているからです。
今回の事件は、そうした「労働者の不安」を、無資格な業者が不適切な形でビジネスに変えてしまった悲劇とも言えます。

私たちが今後どう振る舞うべきか――弁護士からのアドバイス
もしあなたが今、会社を辞めたくて悩んでいるなら、以下のステップを検討してください。
①まずは「自分」で通知する(リスク小)
内容証明郵便を使えば、数千円で「いつ、退職の意思を伝えたか」を公的に証明できます。これだけで、まともな会社なら諦めます。
②揉めそうなら「弁護士」へ(確実性・高)
「残業代が数百万ある」
「パワハラで訴えたい」
「会社が絶対に認めないと言っている」
という場合は、最初から弁護士に依頼してください。
費用は5万〜10万円ほどかかるかもしれませんが、残業代を取り戻せばプラスになります。
何より、100%合法な手続きである安心感は、何物にも代えられません。
③民間業者の「甘い言葉」に騙されない
「100%退職可能」
「業界最安値」
「弁護士監修」
という言葉を過信しないでください。
特に「弁護士監修」は、その弁護士が名前を貸しているだけで、実際に動いてくれるわけではないケースが多々あります。


結論:正義は「透明性」の中にしかない
「モームリ」の事件は、退職代行というビジネスが「利便性」という仮面を被りながら、その裏で「司法のルール」を軽視していたことを証明しました。
弁護士として最後に強調したいのは、「自分の人生を守るための手続きを、正体不明の業者に丸投げしてはいけない」ということです。
法的なトラブルは、法に基づいた正しい手続きでしか根本解決できません。
今回の逮捕劇によって、退職代行業界は大きな淘汰の時期を迎えるでしょう。
それは利用者にとって決して悪いことではありません。
「安さ」や「手軽さ」の裏に潜むリスクを見極め、自分の権利を正当な手段で守る。
そんな当たり前のことが、改めて問われています。
あなたが次に進む一歩が、違法なサービスに依存するものではなく、確かな法的根拠に基づいた「新しい人生のスタート」であることを願って止みません。

