COLUMNコラム
店舗賃貸借契約の落とし穴-「原状回復」と「造作買取」
エステ法務 2026.02.09.
~目次~
新しい店舗を構える際、多くのオーナー様は「どのような内装にするか」「どうやって集客するか」という、いわば「入り口」の計画に心を躍らせます。
しかし、弁護士の視点からお伝えしたいのは、契約を結ぶ瞬間にこそ「出口(退去時)」のことを考えなければならないということです。
店舗の賃貸借契約は、一般的な居住用のアパート契約とはルールが大きく異なり、借主側に非常に厳しい条件が課せられることが少なくありません。
特に「原状回復」の範囲や「造作買取」の取り扱いは、退去時に数百万円単位のトラブルに発展するケースが頻発しています。
本コラムでは、後悔しないための店舗賃貸借契約のポイントを徹底解説いたします。

店舗賃貸借契約の特殊性-居住用契約との決定的な違い
私たちが普段住むための家を借りる場合、消費者保護の観点から「借地借家法」などで借主が手厚く守られています。
例えば、経年劣化による壁紙の日焼けや畳の損耗などは、大家側の負担で直すのが一般的です。
しかし、店舗などの事業用物件の場合、借主(オーナー様)は「消費者」ではなく「事業者」として扱われます。
事業者同士の契約においては、私的自治の原則が強く働き、契約書に書かれた内容が何よりも優先されます。「そんなに厳しい内容だとは知らなかった」という言い訳は、プロの世界では通用しません。
店舗契約において最も大きな違いは、原状回復の義務が「自然消耗」を含めたほぼすべての範囲に及ぶことが多い点です。
入居時にどれほど綺麗な状態に整えたとしても、退去時にはそれを全て取り払い、骨組みだけの「スケルトン状態」に戻すことが求められるのが、この世界の常識となっています。

保証金(敷金)の返還時期と「償却(敷引き)」の恐ろしいルール
店舗を借りる際、家賃の数ヶ月から十数ヶ月分という高額な「保証金」や「敷金」を預けます。
ここで注意が必要なのが、退去時に全額戻ってくるわけではないという点です。
- 償却(敷引き)ルールの存在:契約書に「解約時、保証金の20%を償却する」といった条項がある場合、その金額は無条件で大家側の手元に残ります。
- 返還時期の遅れ:居住用なら退去後1~2ヶ月で返還されますが、店舗契約では「退去から6ヶ月後」などと設定されていることがよくあります。
移転を考えているオーナー様にとって、次の店舗の初期費用に充てるつもりだった保証金が半年間も戻ってこないというのは、資金繰りにおいて致命的なダメージになりかねません。
契約前に、返還時期と償却率を必ず確認し、交渉の余地がないか探る必要があります。

「原状回復」の範囲を巡るトラブル-どこまで直す必要があるのか
店舗退去時の最大の紛争の火種が「原状回復」です。
原状回復とは、借りた時の状態に戻すことですが、店舗契約では「スケルトン戻し(内装・設備をすべて撤去し、コンクリート打ち放しの状態にすること)」が特約で義務付けられていることが大半です。
ここで問題になるのが、どこまでが「借りた時の状態」なのかという境界線です。
- エアコンや換気扇などの設備:もともとあったものか、自分で設置したものか。
- 床や天井の下地:どこまで剥がす必要があるのか。
- 看板や外構:建物外部の修復範囲。
これらが曖昧なまま退去見積もりが出されると、解体業者から驚くような高額請求が届くことになります。
工事範囲が1メートル広がるだけで、、あるいは配管の撤去が追加されるだけで、費用は数十万円単位で跳ね上がります。

居抜き物件の落とし穴:前の店子の内装は誰の責任になる?
最近増えている「居抜き物件(前の店舗の内装や設備が残ったままの物件)」は、初期費用を抑えられるため人気があります。
しかし、法律上は非常に注意が必要な形態です。
最大の落とし穴は、特段の合意がない限り、前の店子が残した内装の原状回復義務まで、現在の借主が引き継いでしまうという点です。
例えば、居抜きでカフェを始めたものの、数年後に退去することになった際、大家から「スケルトンに戻してください」と言われれば、自分が設置したカウンターだけでなく、前の店子が作った厨房やトイレの壁まで、自費で解体しなければなりません。
これを防ぐためには、契約時に「原状回復の義務は自分が新設した部分に限る」という内容を明確に契約書に盛り込んでおく必要があります。

造作買取請求権の放棄-契約書の「特約」を必ずチェックすべき理由
借地借家法第33条には、「造作買取請求権」という規定があります。
これは、借主が大家の同意を得て設置したエアコンや畳、建具などを、退去時に大家に対して「時価で買い取れ」と請求できる権利です。
しかし、実際の店舗賃貸借契約書のほぼ100%において、「借主は造作買取請求権を放棄する」という特約が入っています。
この特約は有効であると裁判所も認めているため、基本的には退去時に設備をお金に換えることはできません。
オーナー様が「あんなに高いオーブンやエアコンを入れたのだから、少しは返ってくるはずだ」と考えていても、契約書に放棄の文言があれば、一円にもなりません。
それどころか、撤去費用を請求される立場であることを忘れてはいけません。

「普通借家契約」と「定期借家契約」-更新の可否が招く経営リスク
契約の形式には「普通借家契約」と「定期借家契約」の二種類があります。
これは店舗運営の「寿命」を左右する重要な違いです。
- 普通借家契約:正当な理由がない限り、大家側から更新を拒絶できません。長く商売を続けたいならこちらが有利です。
- 定期借家契約:契約期間が終われば、自動的に契約終了となります。再契約(更新)は大家の合意がない限り不可能です。
例えば、定期借家で5年契約を結んだ場合、どんなに繁盛していても、大家が「次は自分で使うから貸さない」と言えば、5年で出ていかなければなりません。
その場合、多額の投資をした内装費を回収しきれないまま廃業に追い込まれるリスクがあります。事業計画と照らし合わせ、その物件がどちらの契約形式なのかを死守すべきポイントとして見極める必要があります。

契約締結時と退去時の証拠保全:写真と記録があなたを救う
トラブルを未然に防ぐ、あるいは有利に解決するための最強の武器は「写真」です。
入居時の状態がどうであったかは、数年経てば誰の記憶からも薄れます。
- 入居時の撮影:壁、床、天井、配管、既存の設備などを、日付入りの写真で数百枚単位で撮影しておきましょう。大家や管理会社と共有しておけば完璧です。
- 打ち合わせの記録:重要事項の説明時や、内装工事の許可を得る際のやり取りは必ずメールや書面で残してください。
退去時に過大な原状回復費用を請求された際、「入居時からこの傷はありました」「この設備は最初から付随していたものです」と写真で証明できれば、法的な交渉において圧倒的に有利に立ち回ることができます。

まとめ:店舗運営の出口戦略を見据えた契約を
店舗を借りる際の賃貸借契約書は、数十ページに及ぶこともあり、その一文字一文字が将来の数百万円、数千万円の支出を左右します。
「大家さんがいい人そうだから」
「不動産屋がこれが普通だと言っているから
」という理由で、内容を精査せずにサインをしてはいけません。
原状回復の範囲を明確にし、償却ルールを理解し、適切な契約形態を選ぶ。
この「出口の設計」をしっかり行うことが、結果として本業のビジネスを安定させることにつながります。
福井県大野市の弁護士法人横田秀俊法律事務所では、店舗オーナー様の強い味方として、契約書の事前チェックや、退去時の不当な原状回復費用の減額交渉などを承っております。
契約後に「こんなはずではなかった」と後悔する前に、ぜひ一度専門家のアドバイスをご活用ください。
地域のオーナー様が安心して店舗運営に打ち込めるよう、法務の側面から全力でサポートいたします。
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