COLUMNコラム
美容機器・設備の事故責任-メーカー任せにしていませんか?
エステ法務 2026.02.08.
~目次~
近年の美容業界では、脱毛機や痩身機、HIFU(ハイフ)などの高機能な美容機器の導入が一般的になっています。
特にインターネットの普及により、海外製の安価で高性能を謳う機器を個人輸入や代理店を通じて導入するサロンも増えてきました。
しかし、機器の普及に伴い、施術中にお客様が火傷(やけど)を負ったり、肌トラブルが発生したりといった事故報告も後を絶ちません。
万が一事故が起きた際、オーナー様の中には「機械の不具合なのだから、メーカーが責任を負うべきで、うちのサロンには責任はないはずだ」と考えてしまう方もいらっしゃいますが、これは法的に非常に危険な認識です。
本コラムでは、美容機器による事故が発生した際のサロンの法的責任と、リスクを回避するための実務的な備えについて徹底解説いたします。

美容業界における機器トラブルの現状とオーナーが直面するリスク
美容機器の進化は目覚ましく、かつては医療機関でしか受けられなかったような施術が、エステサロンでも手軽に受けられるようになりました。
しかし、高い効果を追求するあまり、出力の設定ミスや機器の経年劣化、あるいは製造上の欠陥によって、お客様に身体的な損害を与えてしまうケースが急増しています。
こうした事故が発生した場合、サロンオーナー様が直面するリスクは、単なる損害賠償金の支払いだけではありません。
- 損害賠償責任:治療費、通院交通費、慰謝料、休業損害などの支払い。
- 行政処分:消費者庁や保健所からの調査・指導、最悪の場合は営業停止。
- 社会的信用の失墜:SNSや口コミサイトでの悪評の拡散。
- 刑事責任:業務上過失致傷罪などに問われる可能性。
「機械が勝手に暴走した」
「いつも通り使っていたのに壊れた」
という弁明は、法的な場では通用しにくいのが実情です。
お客様にサービスを提供する主体である以上、その道具の安全性についてもオーナーが最終的な責任を負わなければならないという現実を、まずは正しく認識する必要があります。

製造物責任法(PL法)とサロンの安全配慮義務の違い
事故の責任を議論する際、まず整理すべきなのが「PL法」と「安全配慮義務」の違いです。
【製造物責任法(PL法)】
これは、製品の欠陥によって生命、身体または財産に損害を被った場合に、製造業者等に対して損害賠償を請求できる法律です。
つまり、「機械そのものに問題があった場合」にメーカーを訴えるための法律です。
【安全配慮義務(債務不履行責任・不法行為責任)】
一方で、サロンとお客様との間には「施術契約」が存在します。
この契約において、サロン側には「お客様の身体の安全を確保しながらサービスを提供する義務(安全配慮義務)」が発生します。これは民法に基づく責任です。
ここで重要なのは、お客様から見れば、契約の相手方はあくまで「サロン」であるということです。
機械に欠陥があったとしても、それをお客様の体に当てて施術を行ったのはサロン側です。
そのため、お客様はPL法を使ってメーカーを訴えることもできますが、より確実に、契約関係にあるサロンに対して「安全配慮義務違反」を理由に損害賠償を請求してくるのが一般的です。

お客様との関係において「サロンが第一義的に責任を負う」理由
「メーカーが作った機械が悪いのに、なぜサロンが先に払わなければならないのか?」という疑問を抱くオーナー様は多いでしょう。
しかし、法的な考え方はこうです。
お客様はサロンに対して料金を支払い、安全な施術を期待して身を委ねています。
サロン側がどのような機械を選ぶか、どのようにメンテナンスをするか、どのような設定で使用するかについて、お客様は関与できません。
これらはすべてサロン側の裁量に委ねられています。
したがって、たとえ直接的な原因が機器の製造上の欠陥であったとしても、その機器を選択し、使用し、利益を得ているサロン側が、まずは被害者であるお客様に対して責任を負うべき(無過失責任に近い厳しい責任を負うべき)であると考えられています。
サロンがまずお客様に賠償し、その後に「原因を作ったのはお前のところの機械だ」として、サロンからメーカーに対して支払った賠償金の肩代わりを求める(これを求償といいます)という二段構えの流れになるのが実務上の定石です。

海外製機器を導入する際の落とし穴と法的注意点
安価で魅力的なスペックを持つ海外製機器は、小規模なサロンにとって大きな武器になります。
しかし、法的な観点からは、海外製機器の導入はハイリスク・ハイリターンな選択と言わざるを得ません。
- 求償の困難さ:海外のメーカーに対して日本の法律で賠償を請求するのは、時間もコストも膨大にかかり、事実上不可能です。
- 責任の転嫁:輸入販売代理店が「うちは売っただけで、事故の責任は負わない」という免責条項を契約書に盛り込んでいるケースがあります。
- PL法上の製造業者とみなされるリスク:海外から直接輸入した場合、輸入したサロン自体がPL法上の「製造業者等」とみなされ、メーカーと同等の重い責任を負うことになります。
「安物買いの銭失い」という言葉がありますが、美容機器においては「安物導入の人生失い」になりかねない怖さがあります。
導入を検討する際は、販売代理店が事故発生時にどのような保証・サポート体制を敷いているか、契約書に理不尽な免責がないかを厳格に確認すべきです。

事故を未然に防ぐための安全確認テストとメンテナンス記録の重要性
もし不幸にも裁判になった際、サロンを守る唯一の盾となるのが「適切な管理を行っていたという客観的な証拠」です。
オーナー様が「ちゃんとやっていました」と口で言うだけでは不十分です。
以下の記録が、法的な場では極めて重要になります。
- 始業前・終業後の点検日誌:コンセントの緩み、異音の有無、冷却機能のチェックなど。
- 定期メンテナンス記録:メーカーや代理店による法定点検や推奨点検の履歴。
- 施術ごとのパッチテスト・出力設定記録:お客様の肌の状態に合わせて、適切にテストを行い、適切な設定で施術したことの証明。
- スタッフ研修記録:機器の正しい操作方法、禁止事項、トラブル時の対応についての教育履歴。
これらの記録が完璧に残っていれば、事故が起きた際に「サロン側に過失(不注意)はなく、不可抗力、あるいは機器自体の隠れた欠陥が原因である」という主張が通りやすくなります。逆に、これらの記録が一切ない場合、サロンの過失はほぼ確実とみなされてしまいます。

万が一のトラブル発生!被害を最小限に抑えるための初動マニュアル
事故が起きてしまった際、その後の対応次第で、事態が収束に向かうか、あるいは泥沼の紛争に発展するかが決まります。
- 直ちに施術を中止し、応急処置を行う:保冷剤での冷却など、お客様の安全を最優先します。
- 医療機関への受診を促す:サロン独自の判断で「大丈夫ですよ」と言うのは禁物です。必ず医師の診断を仰ぎ、診断書を取得してもらうよう勧めます。
- 機器の状態を保存する:不具合が起きた際の設定、表示されていたエラーコードなどを写真や動画で記録し、その後は原因究明までその機器の使用を中止します。
- 誠意ある謝罪と丁寧なヒアリング:事実関係を認めるべき点は認めつつ、その場ですぐに「全額賠償します」といった具体的な約束はせず、まずは「誠実に対応すること」を伝えます。
この段階で、必ず「賠償責任保険」の担当者と、法律の専門家である弁護士に連絡を入れてください。自己判断での示談交渉は、後から取り返しのつかない不利な条件を飲まされる原因となります。

メーカーへの求償権(損害の肩代わり請求)を確実に行使するために
お客様への対応と並行して進めるべきなのが、メーカーや代理店に対する責任追及です。
サロンがお客様に支払った見舞金や治療費をメーカーに補填させるためには、「事故の原因がサロンの操作ミスではなく、機器の欠陥にあること」を証明しなければなりません。
そのためには、導入時の契約書を再度確認し、契約不適合責任やアフターサポートの条項を精査する必要があります。
また、弁護士を通じてメーカーに内容証明郵便を送り、機器の調査や事故原因の報告を求めるなどの毅然とした対応が求められます。
サロン側が一人でメーカーという企業を相手にするのは非常に困難です。
法的な知識をバックボーンに持つ弁護士が介在することで、メーカー側も真剣な対応を迫られることになります。

まとめ:安心・安全なサービス提供がサロンの価値を高める
「美容機器の事故は他人事ではない」という意識を持つことが、サロン経営を長続きさせるための第一歩です。
海外製の安い機械に飛びつく前に、その裏にある膨大な法的リスクを天秤にかけてみてください。
適切な機器の選定、日々の厳格なメンテナンス記録、そして万が一の際の相談先を確保しておくこと。これらの「守りの経営」こそが、結果としてお客様からの信頼という「攻めの利益」を生み出します。
福井県大野市の弁護士法人横田秀俊法律事務所では、美容サロンの経営における契約書のリーガルチェックや、機器トラブル発生時の示談交渉、メーカーへの損害賠償請求などを幅広くサポートしております。
地元のオーナー様が安心してビジネスに専念できるよう、法的なパートナーとして全力で支えてまいります。
少しでも不安を感じることがあれば、トラブルが大きくなる前に、お早めにご相談ください。
【お問合せ先】
〒912-0087 福井県大野市城町8番6号
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