COLUMNコラム
解雇のハードルは高い-問題スタッフを円満に辞めさせる方法
エステ法務 2026.02.07.
~目次~
サロンや小規模事業を経営するオーナー様にとって、スタッフの管理は最も頭を悩ませる問題の一つです。
「何度注意しても遅刻が治らない」
「接客態度が悪く顧客からクレームが絶えない」
「期待していた技術レベルに到底達していない」
といった問題スタッフに対し、多くのオーナー様が「もう辞めてほしい」と切実に感じておられます。
しかし、日本の労働法において「解雇」を選択することは、経営者が想像する以上に高い法的ハードルが存在します。
安易に「明日から来なくていい」と告げてしまうと、後日、不当解雇として多額の解決金を請求されるリスクがあります。
本コラムでは、解雇に関する誤解を解き、法的なリスクを最小限に抑えつつ、円満にスタッフに退職してもらうための実務の定石である「退職勧奨」の手法について徹底解説いたします。

解雇に関する最大の誤解-解雇予告手当を払えば自由に解雇できるのか
サロン経営者様のご相談の中で非常に多いのが、【30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払えば、いつでも解雇できる】という誤解です。
確かに、労働基準法には解雇の「手続き」として解雇予告の規定があります。
しかし、これはあくまで「手続き上のルール」に過ぎません。
解雇予告手当を支払ったからといって、その解雇が「法的にも有効」になるわけではないのです。
解雇が有効であるためには、手続きとは別に、解雇すること自体の【客観的に合理的な理由】と【社会通念上の相当性】が必要になります。
この実体的な要件を満たしていない解雇は、たとえ解雇予告手当を100日分支払ったとしても、法律上は「無効」となります。
無効となった場合、経営者はそのスタッフを職場に戻し、裁判期間中の賃金を遡って支払わなければならないという、極めて重い責任を負うことになります。

日本の法律が定める「解雇権濫用の法理」とは
労働契約法第16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と明記されています。
これが世に言う【解雇権濫用の法理】です。
日本の労働法体系は、世界的に見ても労働者保護が非常に手厚いことで知られています。労働者にとって職を失うことは、生活の基盤を失うことを意味するため、解雇は「死刑宣告」に例えられるほど慎重に判断されます。
裁判所が「合理的理由」や「相当性」を判断する際、経営者が考える「あいつはやる気がない」「技術が低い」といった主観的な評価はほとんど考慮されません。
あくまで客観的な証拠に基づき、他に手段が本当になかったのか、という点が厳しく問われることになります。

「能力不足」や「勤怠不良」で解雇が認められるための厳しい条件
では、具体的に「能力不足」や「遅刻・欠勤」を理由とした解雇が認められるためには、どのような条件が必要なのでしょうか。
まず、能力不足の場合、単に「他のスタッフに比べて下手だ」というだけでは不十分です。
【そのスタッフの能力が平均的な水準を著しく下回り、かつ、それが業務に多大な支障をきたしていること】を具体的に立証しなければなりません。
さらに、経営者側がその能力を向上させるために【十分な教育・指導を行ったか】、それでも改善の見込みがないと言えるか、といった「改善の機会」を与えたかどうかが重視されます。
勤怠不良についても同様です。数回の遅刻ですぐに解雇することはできません。
【何度も注意・指導を繰り返し、必要に応じて譴責(けんせき)などの軽い懲戒処分を行い、それでもなお改善の意欲が見られない】というプロセスを経て、初めて解雇の検討が可能になります。
こうしたプロセスを飛ばして「明日から来なくていい」と言うことは、自ら不当解雇の証拠を作っているようなものなのです。

実務の定石:解雇ではなく「退職勧奨」による合意退職を目指す理由
解雇のハードルがあまりにも高いため、実務上、多くの弁護士や社労士が推奨するのが【退職勧奨(たいしょくかんしょう)】です。
退職勧奨とは、会社が従業員に対して「辞めてくれないか」と打診し、話し合いによって従業員自らに「辞めます」と言ってもらう(合意退職する)行為を指します。
解雇は会社による一方的な「命令」ですが、退職勧奨による退職は双方の「合意」です。
合意である以上、後から「不当解雇だ」と訴えられるリスクを劇的に下げることができます。
また、解雇という経歴が残らないことは、従業員の再就職にとってもメリットがあるため、交渉の余地が生まれます。
経営者にとって、退職勧奨は【時間とコストを最小限に抑えつつ、確実に問題を解決するための最も現実的な手段】と言えます。

紛争を防ぐための必須アイテム「指導記録」と「改善指示書」の作り方
退職勧奨を行うにしても、あるいは最終的に解雇を検討するにしても、絶対に欠かせないのが【客観的な記録】です。
多くのオーナー様は「何度も注意した」と言われますが、裁判や紛争の場では、口頭での注意は「なかったこと」にされがちです。
以下の内容を記録に残しておくことが、経営者の身を守る最大の武器になります。
- 指導記録:いつ、どのような問題(遅刻の分、ミスの内容)が発生し、誰がどのように注意し、本人がどう回答したかをノートやデータにまとめる。
- 改善指示書:口頭注意で改善しない場合、「いつまでに、何を改善すべきか」を明記した書面を交付し、本人の受領サインをもらう。
- 懲戒処分の履歴:就業規則に基づき、軽い処分から段階的に行った記録。
これらの積み重ねがあるからこそ、退職勧奨の場でも「これだけの機会を与えたが、残念ながら改善されなかった」という説得力のある話ができるようになります。

円満退職を成立させるための具体的な交渉テクニックと注意点
退職勧奨を成功させるためには、その進め方に細心の注意が必要です。
まず、場所と時間は慎重に選びます。
個室などのプライバシーが守られる場所で、本人の心理的負担に配慮しながら行います。
交渉の際、重要なのは【威圧しないこと】です。
「辞めないとクビだぞ」といった脅し文句は、それ自体がハラスメント(退職強要)とみなされ、合意自体が無効になる恐れがあります。
あくまで「今のあなたの適性と、店が求める役割にミスマッチが生じている」「お互いの未来のために、別の道を探す方が良いのではないか」というスタンスを崩さないことが肝要です。
また、円満に解決するための「パッケージ」として、【解決金(特別退職金)の提示】や【有給休暇の完全消化の承認】、【会社都合退職としての処理】などを提案することも有効なテクニックです。
一定の金銭を支払うことで、早期に、かつ確実に身を引いてもらうという「損して得取れ」の考え方が、長期的な紛争リスクを考えれば安上がりになることが多いのです。

後日の紛争を完全に封じ込める「退職合意書」の重要条項
話し合いがまとまり、スタッフが退職に同意したら、必ずその場で、あるいは数日以内に【退職合意書】を締結してください。単なる「退職届」だけでは不十分です。
退職合意書に盛り込むべき必須の条項は以下の通りです。
- 合意退職の確認:会社と従業員が、〇月〇日をもって労働契約を合意解約したことを明記する。
- 清算条項:この合意書以外には、互いに債権債務(未払い残業代の請求など)がないことを確認する。
- 非難・誹謗中傷の禁止:退職後、SNS等で互いの名誉を毀損するような書き込みをしないことを約束する。
- 守秘義務:在職中に知った顧客情報や技術、内部事情を第三者に漏らさないことを誓約させる。
この書面一通があるかないかで、将来の法的リスクはゼロに等しくなります。
逆に、これがないと、退職後に「あの時は無理やり辞めさせられた」と主張される隙を与えてしまいます。

まとめ:トラブルのない組織の再構築に向けて
「スタッフを辞めさせる」という決断は、オーナー様にとっても非常に辛く、エネルギーを消耗するものです。
しかし、一人の問題スタッフを放置することは、真面目に働いている他のスタッフのモチベーションを下げ、大切なお客様を失うことにもつながります。
日本の法律は解雇に厳しいですが、正しいプロセス(記録、指導、交渉、合意)を踏めば、必ず解決の道は開けます。
感情的になって「明日から来なくていい」と言ってしまう前に、まずは現状の証拠を整理し、戦略を練ることが重要です。
福井県大野市の弁護士法人横田秀俊法律事務所では、数多くの労務トラブルを解決してきた実績がございます。
退職勧奨の進め方のアドバイスから、退職合意書の作成、さらには代理人としての交渉まで、オーナー様の立場に立ってサポートいたします。
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