COLUMNコラム
サロン内のハラスメント・いじめ-女性職場特有のトラブル対応
エステ法務 2026.02.06.
~目次~
美容室、エステサロン、ネイルサロンなど、女性スタッフが多く活躍する職場において、オーナー様から最も多く寄せられるご相談の一つが「スタッフ間の人間関係トラブル」です。
特に、経験豊富な古参スタッフによる新人への過度な叱責や、無視、陰口といった「いじめ・嫌がらせ」は、単なる個人的な相性の問題では済まされません。
2022年4月から中小企業においても義務化された「パワハラ防止法」により、経営者にはハラスメントを未然に防ぎ、適切に対処する法的義務が課せられています。
放置すればスタッフの離職だけでなく、損害賠償請求や社会的信用の失墜といった深刻な経営リスクを招くことになります。
本コラムでは、サロン特有のハラスメントの実態と、法的に正しい解決プロセスについて、専門的な知見から詳細に解説します。

パワハラ防止法の義務化とサロン経営者が負うべき法的責任
労働施策総合推進法、いわゆる「パワハラ防止法」が改正され、2022年4月からは中小企業を含むすべての事業主に対して、パワーハラスメント防止のための措置を講じることが義務化されました。
これにより、数名のスタッフで運営している個人経営のサロンであっても、ハラスメント対策を怠ることは明確な法違反となります。
法律が求める防止措置には、主に以下の内容が含まれます。
- 事業主の方針の明確化と周知・啓発(就業規則への記載や社内規定の整備)
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口の設置)
- 職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応(事実確認と被害者・加害者への措置)
- 併せて講ずべき措置(プライバシー保護、相談を理由とした不利益取扱いの禁止)
これらの措置を講じていない状態でハラスメントが発生し、被害を受けたスタッフが心身の不調をきたして退職や休職に追い込まれた場合、経営者は【安全配慮義務違反】や【使用者責任(民法715条)】に基づき、多額の損害賠償を命じられる可能性があります。
ハラスメント対策は、もはや「努力目標」ではなく「経営上の必須義務」であることを再認識する必要があります。


美容業界における「技術指導」と「パワハラ」の境界線
美容業界は技術職としての側面が強く、先輩から後輩への厳しい技術指導が日常的に行われます。
その中で、「これくらいは当たり前」「自分たちの時代はもっと厳しかった」という古い価値観が、現代の法基準ではハラスメントとみなされるケースが多々あります。
厚生労働省の定義によれば、パワハラとは以下の3つの要素をすべて満たすものを指します。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
サロンにおいて特に注意すべきは【業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの】という点です。
例えば、技術的なミスを指摘する際に、スタッフの人格を否定する言葉(「向いていないから辞めろ」「やる気がないなら帰れ」など)を投げかけることや、他のスタッフや顧客の前で見せしめのように大声で怒鳴る行為は、指導の範疇を逸脱したパワハラに該当します。

古参スタッフによる新人いじめを放置することの重大なリスク
女性職場のトラブルで特に深刻なのが、経験年数の長い古参スタッフによる新人への「キツイ当たり」や「排他的な振る舞い」です。
- 必要な連絡事項を意図的に伝えない(情報の隔離)
- 挨拶を無視する、特定のスタッフだけを会話に入れない(人間関係からの切り離し)
- 新人の些細なミスを執拗に責め立て、過度な心理的圧迫を与える
- 私生活に過剰に干渉し、事実に基づかない陰口を広める
これらはパワハラの類型の中でも「精神的な攻撃」や「人間関係からの切り離し」に該当します。
オーナー様の中には「彼女は店を支えてきた功労者だから」「腕がいいから」と見て見ぬふりをする方もいますが、これは経営判断として非常に危険です。
放置された新人がメンタルヘルスを損なえば、労災認定や損害賠償請求に発展します。
また、職場全体に「いじめを容認する文化」が定着してしまい、せっかく採用した新しい人材が次々と辞めていくという、深刻な人材不足を招くことになります。

ハラスメント発生時の初期対応:客観的な事実確認(ヒアリング)の方法
いじめやハラスメントの疑いが生じた際、オーナーが最初に行うべきは【客観的な事実確認】です。
感情的な対立に巻き込まれず、冷静に状況を把握する必要があります。
【ヒアリングの重要ポイント】
◎被害者、加害者、第三者(目撃者)から個別に話を聞く
◎「いつ、どこで、誰が、何を、どのようにしたか」を時系列で詳細に記録する
◎主観的な感想(「嫌な感じだった」など)ではなく、具体的な言動を抽出する
◎被害者の希望(配置転換を望むのか、謝罪を望むのか等)を確認する
◎加害者の言い分もしっかり聞き、指導のつもりだったのか等の背景を確認する
ヒアリングにおいて最も重要なのは【プライバシーの保護】です。
相談したことが加害者に漏れることを恐れて本当のことを言えないスタッフも多いため、「秘密は厳守すること」「相談したことで不利益な扱いはしないこと」を最初に強く約束する必要があります。

問題社員への適切な指導プロセスと「指導書」作成の重要ポイント
事実確認の結果、ハラスメントが認められた場合、加害スタッフに対して速やかに是正を求めなければなりません。
しかし、感情的に注意するだけでは逆効果になることが多く、かえって陰湿ないじめに発展する恐れがあります。
ここで重要になるのが【書面による指導】です。
口頭での注意は、後になって「そんなことは言われていない」「正当な指導だと思っていた」と反論されるリスクがあります。
改善が必要な具体的な言動を指摘し、それが就業規則のどの条項に抵触するかを明記した【指導書(改善指示書)】を交付することが、法的な証拠となります。
指導書には以下の内容を記載します。
- 指導の対象となった具体的な事実(日時、場所、内容)
- 違反している就業規則の条項
- いつまでに、どのような状態まで改善することを求めるか
- 改善が見られない場合の不利益な取扱い(懲戒処分の可能性)についての予告
このプロセスを丁寧に行うことで、加害者に対して「組織としてハラスメントを許さない」という強い姿勢を示すことができます。

解雇を検討する場合の法的ハードルと適正なステップ
あまりにも改善が見られない、あるいは他のスタッフが次々と辞めてしまうような極端なケースでは、問題スタッフの解雇を検討せざるを得ないこともあるでしょう。
しかし、日本の労働法において解雇は非常にハードルが高く、慎重な手続きが求められます。
客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限り、解雇は【解雇権の濫用】として無効になります。
特にオーナー様が陥りやすいのが、十分な改善機会を与えずにいきなり解雇してしまうケースです。
【解雇が有効とされるための適正ステップ】
- 具体的な事実に基づく継続的な改善指導(記録の蓄積)
- 譴責(けんせき)や減給、出勤停止などの段階的な懲戒処分の実施
- 配置転換など、解雇を回避するための最大限の努力
- それでも改善の見込みがないことの立証
いきなり解雇を告げるのではなく、まずは弁護士に相談し、現在の状況で解雇が認められる可能性がどの程度あるか、どのような証拠が必要かを確認することが不可欠です。

外部相談窓口としての弁護士活用と職場環境の健全化
オーナー様自身がスタッフと距離が近すぎる場合、中立的な立場での対応が難しいことがあります。
また、古参スタッフに対してオーナーが強く言えない関係性にある場合、事態は悪化する一方です。
そこで有効なのが、弁護士を【外部相談窓口】として活用することです。
スタッフから直接弁護士に相談できる体制を整えることで、オーナーに直接言いにくい悩みも早期に吸い上げることが可能になります。
また、顧問弁護士から【ハラスメント防止研修】を実施してもらうことで、スタッフ全体の意識改革を図ることもできます。
「弁護士が入る」ということは、単にトラブルを解決するだけでなく、サロン全体の規律を正し、真面目に働いているスタッフが守られる環境を作ることに他なりません。

まとめ:すべてのスタッフが安心して働けるサロン経営のために
サロン内のハラスメント対応は、経営者にとって非常に精神的な負担が大きい作業です。
しかし、そこから逃げずに正面から向き合うことが、結果として最強のチーム作りにつながります。
「昔からの慣習だから」「女性の職場だから仕方ない」と諦める必要はありません。
法的なルールを正しく理解し、毅然とした態度で職場環境を整えることで、スタッフが安心して技術を磨き、お客様に最高のサービスを提供できるサロンへと成長させることができます。
弁護士法人横田秀俊法律事務所では、サロン経営における労務トラブルのご相談や、就業規則の作成、ハラスメント対応のアドバイスなど、幅広く承っております。
地域に根ざした弁護士として、オーナー様の悩みに寄り添い、共に解決の道を模索します。
ひとりで悩まず、まずは一度お気軽にご相談ください。
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