COLUMNコラム
業務委託(面貸し) vs 雇用-「偽装請負」と言われないために
エステ法務 2026.02.02.
~目次~
「社会保険料の負担が重いから、スタッフは全員『業務委託』ということにしている」
「形だけ契約書を交わしておけば、労働基準法は関係ない」
もし、貴社のサロン経営がこのような認識の上で成り立っているとしたら、それは非常に危険な【砂上の楼閣】です。
近年、美容業界ではフリーランスの美容師に場所を提供する「面貸し」や、完全歩合制の「業務委託契約」が一般的になっています。サロン側は固定費や社会保険料を削減でき、スタッフ側は手取り収入が増えるため、一見すると双方にメリットがあるように思えます。
しかし、契約書のタイトルが「業務委託」であっても、実際の働き方が「雇用」と変わらなければ、それは法律上【偽装請負(偽装雇用)】とみなされます。
ひとたび「実態は雇用である」と認定されれば、過去に遡って数百万円、数千万円単位の未払い残業代や社会保険料を請求され、最悪の場合、サロンが倒産に追い込まれるケースも決して珍しくありません。
本コラムでは、どこからが「雇用」で、どこまでが「業務委託」なのか。
その法的な判断基準と、労働基準監督署の調査リスク、そしてサロンを守るための正しい契約運用のポイントについて、弁護士が徹底解説します。
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なぜ多くのサロンが「業務委託」のリスクに直面するのか
美容業界において、業務委託(面貸し)という働き方が急増している背景には、明確な経済的理由があります。
サロンオーナー様にとっての最大の悩みは、人件費とそれに付随する【法定福利費(社会保険料)】の負担です。正社員として雇用すれば、給与に加え、会社負担分の健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険が発生します。これらは給与総額の約15%前後にもなり、経営を圧迫する大きな要因となります。
一方、業務委託契約であれば、スタッフは「個人事業主」として扱われるため、サロン側に社会保険料の負担義務はありません。
また、労働基準法の適用外となるため、残業代や有給休暇の管理も不要と考えられがちです。
スタッフ側にとっても、「社会保険料が引かれない分、手取りが増える」「自由に働ける」というメリットが強調され、安易に業務委託契約が選択される傾向にあります。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
日本の労働法制は、【契約の形式】ではなく【働かせ方の実態】を重視します。
つまり、いくら立派な「業務委託契約書」にハンコを押していても、実態が「社長の命令で動く従業員」であれば、法律はそれを「雇用契約」として扱い、強行法規である労働基準法を適用するのです。
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契約書よりも「実態」-労働者性の判断基準とは
では、法律上「労働者(雇用)」なのか「個人事業主(業務委託)」なのかは、具体的にどのような基準で判断されるのでしょうか。
裁判例や行政解釈において重視されるのは、【使用従属性】という概念です。
簡単に言えば、「サロン側の指揮命令下にあり、場所的・時間的に拘束されているか」という点です。
具体的には、以下の2つの要素が総合的に考慮されます。
■指揮監督下の労働であるか
仕事の依頼に対して拒否権があるか、業務の内容や遂行方法について具体的な指示を受けていないか。
■報酬の労務対償性があるか
結果に対して報酬が支払われているか(請負・委任)、それとも働いた時間や労務そのものに対して支払われているか(雇用)。
これらに加え、「機械・器具の負担関係」「専属性の程度」「代替性の有無」などの補強要素を加味して判断されます。
重要なのは、これらのうち「どれか一つ」ではなく、「全体を見てどうか」で判断されるという点です。しかし、これから解説するチェックポイントに複数該当する場合、行政や裁判所から「実態は雇用である」と認定されるリスクは極めて高くなります。

【セルフチェック】あなたのサロンは「偽装請負」になっていないか
貴社の業務委託スタッフ(面貸しスタッフ)の働き方を、以下のポイントでチェックしてみてください。
もし該当する項目が多ければ、それは「名ばかり業務委託」である可能性が高いと言えます。
【1】指揮命令権の有無
・「このお客様を担当して」というサロン側の指示を断ることができない。
・施術の手順や接客マニュアルに従うことを強制されている。
・朝礼、終礼、店舗ミーティングへの参加が義務付けられている。
・掃除、タオル洗い、電話対応などの雑務を命じられている。
【2】勤務時間・場所の拘束
・「10時から19時まで」のようにシフトが決められている。
・遅刻や早退をする際に、サロン側の承認や許可が必要である。
・予約が入っていない空き時間でも、外出や帰宅が許されず、店内にいることを求められる。
【3】道具・経費の負担
・ハサミ以外の薬剤(カラー剤・パーマ液)、トリートメント、タオルなどをすべてサロン側が無償で提供している。
・光熱費や場所代としての徴収を行っていない。
【4】代替性の有無
・そのスタッフが体調不良で休む際、サロン側の他のスタッフが代わりに施術を行っている(本来の個人事業主であれば、自分で代わりの人間を手配するか、予約をキャンセルするはずです)。
【5】報酬の性質
・売上がゼロでも、「最低保証給」として日当や時給が支払われている。
特に危険なのは、【シフト管理】と【業務指示】です。
「明日は9時に来て」と指示し、お客様がいない時間も店番をさせ、掃除をさせているのであれば、それはもはや完全な「従業員」です。


「雇用」と認定された場合に発生する恐怖のコスト
「実態は雇用である」と認定された場合、サロン経営にどのような影響があるのでしょうか。
それは、単に「これからは気をつける」では済まされない、過去に遡った金銭的負担です。
《1》未払い残業代の請求
業務委託だと思っていた期間は、当然ながら残業代を支払っていないはずです。
しかし、雇用と認定されれば、過去3年分(時効にかからない範囲)の残業代や深夜手当を請求されます。
例えば、月給30万円相当のスタッフが毎日1時間残業していたと仮定すると、1人あたり数百万円の請求になることもあります。
《2》社会保険料の遡及徴収
年金事務所の調査により雇用と認定されると、過去2年分に遡って厚生年金・健康保険料を徴収されます。
これはスタッフ負担分と会社負担分の両方を合わせると莫大な金額になります。
本来スタッフから徴収すべき分もまとめてサロンが支払わなければならないケースが多く、キャッシュフローを一気に悪化させます。
《3》消費税の追徴課税
業務委託報酬は、消費税の「仕入税額控除」の対象として処理しているはずです。
しかし、これが給与(雇用)と認定されると、給与は消費税の対象外(不課税)取引であるため、仕入税額控除が否認されます。
結果として、過去に控除していた消費税分を追徴課税されることになります。

労働基準監督署の調査は突然やってくる
こうした問題が発覚するきっかけの多くは、退職したスタッフによる【内部告発】や【駆け込み】です。
「業務委託と言われていたが、実際は社員のように働かされていた。残業代も有給もないのはおかしい」と労働基準監督署に相談に行ったり、年金事務所に「社会保険に入りたかったのに入れてもらえなかった」と通報されたりすることで、調査が始まります。
労働基準監督署の調査官は、契約書の文言だけでなく、タイムカード、日報、業務連絡のLINE、スタッフへのヒアリングなどを通じて、徹底的に「実態」を調査します。
「契約書に判子を押しているから合意の上だ」という言い訳は通用しません。
労働基準法は、労働者を保護するための強行法規であり、当事者の合意があっても、法を下回る条件は無効とされるからです。

正しい「業務委託契約」の運用と契約書のポイント
では、リスクなく業務委託(面貸し)を活用するにはどうすればよいのでしょうか。
答えはシンプルで、「名実ともに個人事業主として扱う」ことです。
【契約書の見直し】
契約書には、指揮命令権がないこと、勤務時間の拘束がないこと、業務の遂行方法が自由であることなどを明記する必要があります。インターネット上の雛形をそのまま使うのではなく、自社の運用に合わせた条項を作成してください。
【運用ルールの徹底】
契約書以上に重要なのが、日々の運用です。以下の点を徹底してください。
・出退勤の時間を管理しない(タイムカードを押させない)。
・「シフト」を作成せず、あくまで「場所を利用する時間の予約」という形にする。
・業務命令(掃除、朝礼、他スタッフのヘルプ)を行わない。
・予約が入っていない時間は自由に外出・帰宅させる。
・材料費や光熱費など、場所貸しに伴う経費を明確に区分し、スタッフに負担させる(または報酬から控除する)。
・お客様からのクレームや返金対応は、原則としてスタッフ自身の責任と費用で行わせる。
もし、「店のルールには絶対に従わせたい」「急な欠員の穴埋めをさせたい」「掃除もさせたい」と考えるのであれば、それは業務委託には馴染みません。
リスクを負って無理やり業務委託にするのではなく、正々堂々と【雇用契約】を結ぶべきです。


まとめ-経営を守るために「グレーゾーン」を解消する
「周りのサロンもみんなやっているから大丈夫」
「うちはスタッフと仲が良いから訴えられることはない」
そう思っていた経営者様が、たった一人の退職者とのトラブルをきっかけに、数千万円の支払いを命じられるケースを私は数多く見てきました。
業務委託契約そのものが悪いわけではありません。
多様な働き方を認める素晴らしい仕組みです。しかし、それは「対等なビジネスパートナー」としての関係があって初めて成立するものです。
「社会保険料を逃れるための雇用」として悪用すれば、必ずしっぺ返しが来ます。
・現在の契約書の内容が法的に有効か確認したい
・業務委託から雇用への切り替え(またはその逆)を検討している
・スタッフから「労働者ではないか」と指摘を受けた
このようなお悩みをお持ちのサロンオーナー様は、手遅れになる前に、ぜひ弁護士にご相談ください。
当事務所では、美容業界の実情に即した、リスクの少ない契約スキームの構築や、就業規則の整備をサポートいたします。
正しい知識と準備こそが、貴社のサロンとスタッフ、そして大切なお客様を守る最大の武器となります。

