COLUMNコラム
ステルスマーケティング(ステマ)規制-インフルエンサー依頼の注意点
エステ法務 2026.01.28. #エステサロン経営 #エステ法務 #特定商取引法 #美容サロン法務 #美容広告チェック
~目次~
美容サロンやエステサロンの経営において、InstagramやTikTokなどのSNSを活用した集客は、もはや欠かせない戦略の一つとなっています。特に、影響力のあるインフルエンサーや、モニターとして無料施術を受けた一般の方による「リアルな口コミ」は、広告臭を感じさせずに顧客の信頼を獲得できるため、非常に高い宣伝効果が見込まれます。
しかし、「宣伝であることを隠して口コミを投稿してもらう」という手法、いわゆる「ステルスマーケティング(ステマ)」に対する法規制が、2023年10月1日より劇的に厳格化されたことをご存知でしょうか。
「金銭を払っていないから大丈夫」
「個人の感想として書いてもらっているから問題ない」
といったこれまでの常識は、現在の景品表示法下では通用しません。
ルールを知らずに安易な投稿依頼を続けていると、ある日突然、消費者庁からの行政処分を受け、サロン名が公表されてしまうリスクがあります。
本コラムでは、サロンオーナー様が知っておくべき「ステマ規制」の全容と、インフルエンサーマーケティングを行う際の具体的な注意点、そして過去の投稿に対する対策について、弁護士が詳しく解説します。

2023年10月施行「ステマ規制」とは何か
これまで、日本の法律では「嘘の広告(優良誤認表示や有利誤認表示)」は規制されていましたが、「広告であることを隠す行為」そのものを直接規制する法律は限定的でした。
しかし、消費者が広告と知らずに口コミや評判を信じて商品やサービスを選んでしまう弊害が深刻化したことを受け、消費者庁は2023年10月1日より、景品表示法の禁止行為(不当表示)の一つとして、新たに「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(いわゆるステマ規制)を指定しました。
これにより、サロン側(事業者)が第三者に依頼して行わせる表示であって、それが広告・宣伝であることを消費者が判別できないものは、法律違反として明確に禁止されました。
重要なのは、内容が真実であっても、あるいは素晴らしいサービスであっても、「広告であることを隠している」という点だけで違法となる可能性があるということです。

「広告」とみなされる境界線-事業者の関与とは
この規制で最も重要なポイントは、「事業者の表示」とみなされるかどうかの判断基準です。
純粋に客が自主的に「このサロン良かった!」と投稿する場合は、当然ながら規制の対象外です。
しかし、サロン側が投稿内容に関与している場合は、「事業者の表示(広告)」とみなされます。
では、どこからが「関与」になるのでしょうか。
例えば、以下のようなケースは、明確な指示がなくても「関与がある」と判断される可能性が高くなります。
・サロン側がインフルエンサーに投稿を依頼している場合
・投稿内容について、サロン側が指示や修正を行っている場合
・投稿することと引き換えに、対価(金銭やサービス)を提供している場合
特に注意が必要なのは、「良いことだけ書いて」と指示していなくても、「投稿してくれたら次回割引」や「無料モニターとして招待するから、感想をSNSにアップして」と依頼している場合です。
これらは、実質的にサロン側が投稿を促しているため、ステマ規制の対象となります。

金銭のやり取りがなくても規制対象?ギフティングの注意点
多くのサロンオーナー様が誤解されているのが、「お金を払って依頼した場合は広告だが、無料で施術をしただけ(ギフティング)なら広告ではない」という点です。
結論から申し上げますと、金銭の授受がなくてもステマ規制の対象になります。
景品表示法における「対価」とは、金銭に限りません。
無料での施術提供、商品のプレゼント、あるいは次回使える高額なクーポンの付与など、何らかの経済的利益を提供し、その見返りとして投稿を期待する関係性があれば、それは「事業者の表示」となります。
インフルエンサー側としても、無料でサービスを受けている以上、サロン側に配慮してネガティブなことは書きにくくなるのが心理です。
消費者庁はこのような関係性を重視しており、金銭の有無にかかわらず、両者の関係性から実質的に広告と評価できる場合は、すべて規制の対象となると考えてください。

正しい表記方法-「#PR」「#広告」の重要性
では、インフルエンサーやモニターに投稿してもらう際、具体的にどのような対策をとればよいのでしょうか。
答えはシンプルで、「これは広告です」「プロモーションです」と一般消費者がひと目で分かるように明記することです。
具体的には、投稿内の分かりやすい位置に、以下のような表記を行う必要があります。
・「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった言葉を明記する
・「○○(サロン名)からの提供です」「○○のモニターに参加しています」と説明する
ここで注意すべきは、表記の「場所」と「大きさ」です。
例えば、大量のハッシュタグの中に「#PR」を紛れ込ませたり、「詳しくはブログで」と飛ばした先のページだけに表記したり、文字色を背景色と同化させて見にくくしたりする行為は、表記として認められない可能性があります。
Instagramの投稿であれば、画像の1枚目やキャプションの冒頭など、消費者がパッと見た瞬間に認識できる場所に表示することが求められます。各SNSプラットフォームには「タイアップ投稿ラベル」などの機能も実装されていますので、これらを積極的に活用することが推奨されます。

違反した場合のペナルティ-処分を受けるのは誰か
もしステマ規制に違反した場合、法的な責任を問われるのは誰でしょうか。
投稿を行ったインフルエンサーではなく、依頼主である「サロン(広告主)」が処分の対象となります。
違反が認められた場合、消費者庁や都道府県から「措置命令」が出されます。
これは、「違反行為をただちにやめること」「再発防止策を講じること」などを命じる行政処分です。
そして、最も恐ろしいのが、その事実が公表されることです。
「消費者庁、○○サロンに対しステマ規制違反で措置命令」といったニュースが報道されれば、サロンのブランドイメージは失墜します。
「客を騙して集客していた店」というレッテルは、一度貼られると簡単には剥がせません。また、措置命令に従わなかった場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性もあります。

過去の投稿も対象になる?遡及適用の恐ろしさ
今回の規制で非常に厄介なのが、「過去の投稿」の扱いです。
規制が施行されたのは2023年10月1日ですが、それ以前に投稿されたものであっても、現在インターネット上で閲覧可能な状態にあり、かつステマに該当する内容であれば、規制の対象となります。
つまり、数年前にインフルエンサーに依頼して書いてもらった記事や、過去のモニターキャンペーンで投稿してもらったSNSの書き込みなどが、今もそのまま残っていて「PR」表記がない場合、現在進行形で違反状態にあるとみなされるのです。
「昔のことだから」は通用しません。サロンオーナー様は、過去に依頼した案件を洗い出し、インフルエンサーに対して「#PR」の追記を依頼するか、あるいは投稿自体の削除を依頼するなどの対応をとる必要があります。
もし連絡がつかない場合は、サロン側の公式サイトやSNSで「過去の以下の投稿は、当店の依頼によるものです」と宣言するなどの対応策も検討すべきでしょう。

サロン側が今すぐやるべき対策とチェックリスト
ステマ規制は「正直な商売」を守るためのルールです。正しく理解し対応すれば、恐れる必要はありません。最後に、サロンオーナー様が直ちに取り組むべき対策をまとめます。
[対策チェックリスト]
☑ 現在依頼しているインフルエンサーに対し、「PR」「広告」表記の徹底を指示する。
☑ 指示内容は口頭ではなく、メールやLINE、あるいは契約書などの書面で残す。
☑ 「個人の感想です」という注釈を入れても、広告表記(PR)は省略できないことを周知する。
☑ 過去に依頼した投稿(ブログ、SNS、口コミサイト)を可能な限りチェックする。
☑ 過去の投稿にPR表記がない場合、修正または削除を依頼する。
☑ 今後モニターキャンペーンを行う際は、募集要項に「投稿時は必ず『#モニター』等の表記をお願いします」と明記する。
「知らなかった」では済まされないのが法律の世界です。
もし、自社の広告手法が規制に抵触するかどうか不安な場合や、インフルエンサーとの契約書のリーガルチェックが必要な場合は、お早めに弁護士にご相談ください。
適切なリスク管理が、長く愛されるサロン経営の基盤となります。

