COLUMNコラム
「中途解約」の返金ルール-サロン独自ルールは法律に勝てない
エステ法務 2026.01.23. #エステサロン経営 #エステ法務 #特定商取引法 #美容サロン法務 #美容広告チェック
~目次~
「コース契約の途中解約は一切受け付けません」
「いかなる理由があっても返金はできません」
サロンの誓約書や契約書の裏面に、このような条項を入れている経営者様はいらっしゃいませんか?
経営者としての心情は痛いほどよく分かります。一度契約していただいた売上を見込んで事業計画を立てている以上、お客様の個人的な都合でキャンセルされ、返金に応じることは、サロンの経営を圧迫する大きな要因となります。また、スタッフのモチベーション低下にも繋がるでしょう。
しかし、残念ながら法律の世界では、その「サロン独自のルール」は通用しません。
エステティックサロンの契約において、特定商取引法(特商法)は消費者に極めて強力な「中途解約権」を認めています。
もし、貴店の契約書が法律の基準よりも厳しい条件を課していた場合、その条項は【すべて無効】となり、法律の基準に従って計算し直した金額を返金しなければなりません。
「お客様が納得してハンコを押したんだから有効だ」という理屈は、裁判所にも行政にも一切通用しないのです。
本コラムでは、弁護士法人横田秀俊法律事務所が、エステサロン経営者が誤解しがちな「中途解約」の正しい返金ルールと、違法な引き留めが招く行政処分のリスクについて徹底解説します。

クーリング・オフ期間が過ぎても「辞める権利」はなくならない
まず、基本となる法律の枠組みを整理しましょう。
エステティックサロンの契約のうち、【期間が1ヶ月を超え、かつ金額が5万円を超えるもの】は、特定商取引法における「特定継続的役務提供」に該当します。
この契約類型においては、契約から8日間のクーリング・オフ期間が過ぎた後であっても、契約期間内であれば【いつでも】【理由を問わず】将来に向かって契約を解除(中途解約)することができます。
これは法律が消費者に与えた強力な権利であり、サロン側がこれを拒否することはできません。
「引越しをするから」
「効果が実感できないから」
「単に通うのが面倒になったから」
どのような理由であれ、お客様が「辞めます」と言えば、その時点でお客様を縛る契約の効力は失われます。


「返金不可」の特約は法律上どう扱われるのか
では、契約書に明記した「いかなる場合も返金不可」という条項には意味がないのでしょうか。
結論から申し上げますと、特商法の規定に反する消費者に不利な特約は【無効】となります(特商法第53条)。
つまり、契約書にどれだけ太字で「返金しません」と書いてあり、お客様がそれに同意して署名捺印をしていたとしても、法律上はその文章は「書かれていないもの」として扱われます。
したがって、お客様から中途解約の申し出があった場合、サロンは速やかに「法律で定められた計算式」に基づいて精算を行い、残金があれば返還する義務を負います。これを拒否し続けると、民事上の返金請求訴訟を起こされるだけでなく、法律違反として行政処分の対象となります。

これが正解!特商法が定める「解約損害金(違約金)」の上限額
中途解約が避けられないとして、サロン側が請求できる「違約金(解約手数料)」はいくらでも良いわけではありません。これにも明確な上限(キャップ)が法律で定められています。
サロン側は、以下の金額を超えて請求することはできません。
【A. 施術開始「前」に解約された場合】
契約締結後、まだ一度も施術を受けていない段階での解約です。
この場合、サロンが請求できる解約損害金の上限は【2万円】です。
どんなに高額なコース契約であっても、事務手数料や逸失利益の名目で2万円を超えて請求することはできません。
【B. 施術開始「後」に解約された場合】
すでに1回以上施術を受けた後に解約されるケースです。
この場合、サロンが請求できるのは、以下の2つの合計額までです。
- 【提供済みサービスの対価】(すでに受けた施術の代金)
- 【解約損害金】(いわゆる違約金)
ここで重要になるのが「2. 解約損害金」の上限計算です。法律は以下のように定めています。
【契約残額の10%】または【2万円】の、いずれか【低い方の金額】
「高い方」ではありません。
「低い方」です。
例えば、残りの施術代金が10万円分ある場合、その10%は1万円です。この場合、2万円よりも1万円の方が低いため、請求できる違約金の上限は1万円となります。
逆に、残りの施術代金が30万円分ある場合、その10%は3万円ですが、上限の2万円の方が低いため、請求できるのは2万円までとなります。
つまり、施術開始後の解約において、サロンが違約金としてお客様から取れる金額は、最大でも【2万円】までということになります。
「解約手数料として残金の30%を頂きます」といった契約は、明らかに違法です。


要注意!「チケット制・回数券」における残金計算の落とし穴
エステサロンでよくあるトラブルが、「単価」の設定に関するものです。
例えば、以下のような契約があったとします。
・通常1回2万円の施術
・10回コース契約なら総額10万円(1回あたり1万円)
お客様が5回施術を受けた時点で解約を申し出たとします。
お客様の計算(単純な割り算)ではこうなります。
「10万円払って半分しか受けていないから、残り5万円が戻ってくるはず(そこから違約金を引く)」
しかし、サロン側はこう主張したくなります。
「中途解約する場合は、割引が無効になります。すでに受けた5回分は定価(2万円)で計算します。2万円×5回=10万円分のサービスを提供済みなので、返金はゼロです」

「通常価格で計算して返金ゼロ」は許されるのか?
この「消化分を定価(通常単価)で計算し直す」という手法は、多くのサロンで行われていますが、極めてリスクが高い運用です。
特定商取引法では、すでに提供された役務の対価は「契約時の単価」あるいは「社会通念上相当な価格」で計算すべきと解釈される傾向にあります。
もし、定価を不当に高く設定し(例えば、実際には定価で受ける客などいないのに、定価を5万円、コース単価を5千円にするなど)、解約時の返金を封じる目的で定価計算を用いていると判断された場合、その計算方法は【公序良俗違反】や【消費者契約法違反】として無効になる可能性が高いです。
実際に、施術済みの分を定価換算することで返金額が極端に減ったり、ゼロになったりするような契約条項は、消費者センターとのトラブルの典型例です。
安全な経営を目指すのであれば、【契約時の割引単価】を基準に残金を計算し、そこから法定の上限(2万円または10%)を差し引いて返金するという運用が最も確実です。

違法な引き留めが招く「業務停止命令」の恐怖
「返金したくない」という一心で、現場スタッフが以下のような対応をしていませんか?
・「担当者が不在なので今は手続きできない」と何度も先延ばしにする。
・「今辞めると違約金が高額になるから、休会にした方がいい」と嘘をつく。
・「お客様のために特別に安くしたのに、裏切り行為だ」と精神的に追い詰める。
・「返金はできないという契約書にサインしましたよね?」と威圧する。
これらの行為は、特商法における【解約妨害】(不実告知や威迫困惑)にあたります。
解約妨害が悪質だと判断されると、消費者庁や都道府県から【業務停止命令】が出されます。これは、「3ヶ月間、新規契約も勧誘も広告も一切してはならない」という、サロンにとって死刑宣告にも等しい重い処分です。
さらに、事業者名が公表され、ニュースにもなります。たった数十万円の返金を惜しんだ結果、サロンそのものを失うことになりかねないのです。

おわりに:正しい契約書と計算式がサロンを守る
「中途解約はサロンにとって損だ」と思われるかもしれません。
しかし、法律に従ってスムーズに返金対応を行うことは、結果として「ホワイトなサロン」としての評判を高め、無用なトラブルや炎上を防ぐ最良の防衛策となります。
「自社の解約計算式が法律に適合しているか不安だ」
「お客様から納得できないと言われて揉めている」
「解約時の定価計算について、どこまで許されるのか知りたい」
そのようにお悩みの経営者様は、ぜひ弁護士法人横田秀俊法律事務所にご相談ください。
当事務所では、美容業界の現場実務を理解した上で、現在の契約書の見直しや、トラブル発生時の代理交渉を行っております。
「知らなかった」で行政処分を受ける前に、専門家のチェックを受け、盤石な経営体制を整えましょう。
サロン経営者の皆様が、安心して事業に専念できるようサポートいたします。

