COLUMNコラム
施術による「火傷・皮膚トラブル」-損害賠償請求への正しい初期対応
エステ法務 2026.01.21. #エステサロン経営 #エステ法務 #特定商取引法 #美容サロン法務 #美容広告チェック
~目次~
エステティックサロンや美容サロンを経営する皆様にとって、最も恐ろしい瞬間の一つは、お客様から「施術のせいで肌が荒れた」「火傷をした」というクレームが入った時ではないでしょうか。
「スタッフのミスだったのか?」
「治療費はいくらかかるのか?」
「SNSに書かれたらどうしよう?」
不安が頭をよぎり、現場はパニックに陥りがちです。そして、その焦りから発した「良かれと思った一言」が、後にサロンを窮地に追い込む致命的な失言となるケースが後を絶ちません。
トラブル対応において最も重要なのは、お客様の身体を気遣う誠意と、法的な責任の所在を冷静に切り分ける「プロフェッショナルの振る舞い」です。
本コラムでは、弁護士法人横田秀俊法律事務所が、サロンでの皮膚トラブル発生時に「現場が絶対にやってはいけないこと」と「必ずやるべきこと」を、法的な観点から詳細に解説します。
トラブル発生!その時、現場責任者が直面するリスク
「施術後に肌が赤く腫れ上がった」
「ヒリヒリして眠れない」
お客様からのこのような連絡は、突如としてやってきます。
特に、新人スタッフが施術を担当していた場合や、新しい機器を導入した直後などは、管理者の不安もひとしおでしょう。
初期対応を一歩間違えれば、単なる治療費の支払いだけでなく、数十万円から数百万円に及ぶ慰謝料請求、悪評の流布による客離れ、最悪の場合は行政指導など、経営を揺るがす事態に発展しかねません。
ここでまず認識すべきは、【クレーム対応はスピードが命だが、拙速な約束は命取りになる】という鉄則です。

最大のタブー:「治療費や慰謝料を全額払います」と即答してはいけない理由
お客様が激怒している、あるいは痛がっている姿を目の当たりにすると、責任感の強いスタッフほど、その場を収めようとしてこう言ってしまいます。
「申し訳ございません。当店の責任ですので、治療費も慰謝料もすべてお支払いします。」
これは、法的に見て【最悪の対応】と言わざるを得ません。
なぜなら、まだ施術とトラブルの因果関係がはっきりしていない段階で、サロン側が一方的に法的責任(債務)を認める発言をしてしまうと、以下のような深刻なデメリットが生じるからです。
【保険が下りなくなるリスク】
多くのサロン賠償責任保険には、「保険会社の同意なく、勝手に賠償責任を認めたり、示談金を約束したりしてはならない」という免責条項が含まれています。
つまり、現場の独断で支払いを約束してしまうと、保険金が支払われず、全額がサロンの自腹になる可能性があるのです。
【不当な要求のエスカレート】
一度「なんでも払う」と言ってしまうと、相手方は「この店は言いなりになる」と認識します。
その結果、本来支払う必要のない高額な休業損害や、法外な慰謝料、通院のためのタクシー代まで請求される事態を招きます。
現場スタッフには、「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。まずは状態を確認させていただき、誠意を持って対応いたします」という表現にとどめ、具体的な金銭の支払いをその場で約束させないよう徹底指導する必要があります。


「謝罪」と「責任の承認」は全く別物である
「お金の約束をしないなら、謝ってもいけないのか?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。ここには法的なテクニックが必要です。
お客様は心身ともに傷ついています。まずはその「不快な思い、痛い思いをさせたこと」に対して、人として、サービス提供者として謝罪することは必要不可欠です。
【正しい謝罪の例】
「施術後にこのような痛みが生じ、大変なご心配とご不快な思いをおかけして、誠に申し訳ございません。」
【間違った謝罪(責任承認)の例】
「当店の施術ミスにより火傷を負わせてしまい、申し訳ございません。」
違いがお分かりでしょうか。
前者は「お客様の状態(結果)」に対して謝罪していますが、後者は「当店のミス(原因)」を認めてしまっています。原因が特定されるまでは、道義的な謝罪に留め、法的な過失を認める発言は避けるべきなのです。

その肌荒れは本当に施術のせいか?-因果関係の徹底調査
法的責任を負うのは、あくまで【サロンの施術が原因で、損害が発生した場合】に限られます。
これを「相当因果関係」と呼びます。
肌トラブルの原因は、必ずしも施術にあるとは限りません。
以下のような要因が隠れていないか、慎重に調査する必要があります。
【お客様自身の体質や持病】
アトピー性皮膚炎、ケロイド体質、光線過敏症などを事前カウンセリングで申告していたか。
もし申告がなく、通常の手順で施術してトラブルが起きた場合、サロン側の責任は減免される可能性があります。
【併用薬や化粧品の影響】
施術前後に、ピーリング効果のある化粧品や、光感受性を高める薬を使用していなかったか。
【施術後の禁止事項違反(アフターケア不足)】
「施術当日は入浴や飲酒、激しい運動を避けてください」「日焼けをしないでください」といった注意事項をお客様が守っていたか。施術直後にサウナに行ったり、海で日焼けをしたりして悪化したのであれば、それはお客様側の過失(過失相殺)となります。
これらの事実を確認するためには、同意書(インフォームド・コンセント)やカウンセリングシートの記録が決定的な証拠となります。

お客様に依頼すべき「診断書」の重要性とチェックポイント
トラブルが発生したら、必ずお客様に皮膚科を受診していただき、「診断書」を取得してもらうよう依頼してください。
ここで重要なのは、医師が何と診断するかです。
単に「皮膚炎」と書かれているのか、「熱傷(火傷)」と書かれているのかによって、サロンの責任の重さが変わります。
また、診断書に【◯月◯日のエステ施術によるものと考えられる】という記載があるかどうかも重要です。
もし、医師が「これは施術による火傷ではなく、もともとのニキビが悪化したものだ」「化粧品かぶれ(接触性皮膚炎)の可能性が高い」と判断すれば、サロン側の施術ミスという前提が崩れます。
お客様の自己申告だけを鵜呑みにせず、必ず第三者である医師の客観的な判断を仰ぐプロセスを踏んでください。

賠償責任保険の落とし穴と弁護士介入のメリット
サロンが加入している賠償責任保険は、いざという時の頼みの綱ですが、保険会社は「交渉代行」まではしてくれないケースが多々あります(示談代行サービスが付帯していない契約も多いです)。
その場合、サロン店長やオーナーが、怒っているお客様と直接、お金の交渉をしなければなりません。これは精神的に非常に大きな負担であり、本来の業務に支障をきたします。また、知識がないまま交渉すると、相場よりも遥かに高い金額で押し切られてしまうこともあります。
ここで弁護士が介入するメリットは計り知れません。
【窓口の一本化】
弁護士が代理人となることで、お客様からの連絡はすべて弁護士宛になります。現場スタッフやオーナーは、直接のクレーム対応から解放され、平穏な業務環境を取り戻せます。
【適正な賠償額の算出】
過去の裁判例に基づき、「法的に妥当な賠償額」を算出します。相手方が感情的になって「慰謝料100万円払え」と言ってきても、弁護士であれば「裁判基準では通院日数に応じて◯万円が妥当です」と冷静に反論・減額交渉ができます。

示談書の重要性-「終わったはずのトラブル」を蒸し返させないために
最終的に金銭を支払って解決する場合、必ず「示談書(合意書)」を作成しなければなりません。
口約束や、簡単な領収書だけで済ませるのは非常に危険です。
示談書には、以下の条項(清算条項)を盛り込む必要があります。
【本件に関し、当事者間には、本合意書に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。】
この一文がないと、数ヶ月後、数年後に「やっぱり跡が残ったから、もっと整形費用を出せ」「後遺症が出た」と言って、追加請求されるリスクが残ります。
この「後腐れのない完全な解決」を文書化することこそが、弁護士の重要な仕事です。

おわりに:感情的な対立を防ぎ、円満解決を目指すために
施術トラブル対応のゴールは、単に支払いを拒否することではありません。
お客様の納得を得て、紛争を早期に収束させ、サロンの信頼を守ることです。
誠実に対応しようとするあまり、言われるがままになってしまうのも、逆にお客様をクレーマー扱いして頑なになってしまうのも、どちらも正解ではありません。
必要なのは【事実に基づいた冷静な対応】と【法的な後ろ盾】です。
「お客様がすごい剣幕で怒鳴り込んできた」
「高額な請求をされて困っている」
「保険会社への報告の仕方がわからない」
そのような時は、自己判断で動く前に、まずは弁護士法人横田秀俊法律事務所にご相談ください。
当事務所は福井県大野市に根差し、地域の皆様の事業を守るための法務サポートを行っております。
初期対応のアドバイスから、示談書の作成、代理人としての交渉まで、あなたのサロンを守るために全力を尽くします。
トラブルを一人で抱え込まず、法律の専門家である私たちにお任せください。

