COLUMNコラム
「医師法違反」の境界線-脱毛サロンが絶対にやってはいけないこと
エステ法務 2026.01.20. #エステサロン経営 #エステ法務 #特定商取引法 #美容サロン法務 #美容広告チェック
~目次~
美容業界の技術進歩は目覚ましく、より効果の高い施術を提供したいと考えるのは、サロン経営者として当然の願いです。
「一度の施術で劇的な効果を出したい」「他店との差別化を図りたい」という思いから、最新の機器を導入される方も多いことでしょう。
しかし、その「効果の高さ」と「法的リスク」は、常に隣り合わせであるという事実をご存知でしょうか。
近年、エステサロンにおける脱毛施術やHIFU(ハイフ)施術をめぐり、医師法違反で逮捕されるケースや、重大な健康被害による消費者トラブルが後を絶ちません。
「メーカーが大丈夫と言ったから」「みんなやっているから」という弁明は、警察や行政には通用しません。一度でも逮捕報道が出れば、これまで築き上げたサロンの信用は一瞬で崩壊し、事業継続は不可能となります。
本コラムでは、弁護士法人横田秀俊法律事務所が、エステサロンが絶対に踏み越えてはならない「医師法違反の境界線」について、法律と最新の行政判断に基づき徹底解説します。
ご自身とスタッフ、そして大切なお客様を守るために、正しい法的知識をご確認ください。
はじめに:なぜ今、エステサロンへの取り締まりが厳しいのか
近年、美容医療とエステティックサロンの境界線領域におけるトラブルが急増しています。
消費者の美に対する意識の高まりとともに、より医療に近い効果をうたうエステサロンが増加しましたが、それに比例して火傷や神経損傷などの健康被害も増加の一途をたどっています。
これを受け、警察や保健所、厚生労働省は監視の目を光らせています。かつては「グレーゾーン」と呼ばれ黙認されていたような施術であっても、現在では明確に「クロ(違法)」と判断され、即座に捜査対象となるケースが増えています。
経営者が法律を正確に理解していないことは、そのまま経営上の最大のリスク要因となるのです。

医師法第17条の壁-「医行為」とは何か
すべての議論の出発点は、医師法第17条です。ここには極めてシンプルにこう書かれています。
【医師でなければ、医業をなしてはならない。】
この短い条文が、すべての無資格者による医療行為を禁止しています。では、具体的に何が「医業(医行為)」にあたるのでしょうか。 最高裁判所の判例によれば、医行為とは【医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為】と定義されています。
ここで重要なのは、「実際に怪我をさせたかどうか」だけではなく、「危害を及ぼすおそれ」がある行為自体が、医師以外には禁止されているという点です。つまり、これまで事故が起きていないからといって、その施術が合法的である証明にはなりません。人体に強力なエネルギーを照射し、細胞組織に変化を与える行為は、本質的に医療行為であるとみなされる可能性が高いのです。

「脱毛」における絶対的な境界線-厚生労働省通知の解釈
エステサロンにおける最大の懸案事項である「脱毛」について解説します。
かつては脱毛行為の違法性について議論がありましたが、平成13年11月8日に厚生労働省から出された通知(医政医発第105号)により、明確な基準が示されました。
この通知は、エステサロン経営者が必ず暗記すべきほど重要なものです。
この通知では、以下の行為を医師法違反(医行為)であると明記しています。
【レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮下組織などを破壊する行為】
ここで最も重要なキーワードは「破壊」です。
医療脱毛(レーザー脱毛)は、毛根にある発毛組織(毛乳頭やバルジ領域)をレーザーの熱で「破壊」することで、二度と毛が生えてこないようにする施術です。組織を破壊する行為は、当然ながら医療行為となります。
一方、エステサロンで許容されているのは、あくまで「美容ライト脱毛(光脱毛)」です。これは、あくまで【毛の発育を遅らせる、あるいは一時的に減毛する程度の出力】での照射に限られます。
つまり、エステサロンにおいて「永久脱毛」をうたうことは、自ら「私は毛乳頭を破壊する違法行為を行っています」と公言しているのと同じことになります。
「最新のマシンだから抜ける」とメーカーに勧められ、医療用に近い高出力が出る機器を導入していませんか? 「絶対に生えてこなくなります」とお客様に説明していませんか?
その行為自体が、医師法違反の構成要件を満たしてしまう危険性があります。
エステサロンができるのは、あくまで「制毛・抑毛」の範囲内であることを強く認識してください。


社会問題化する「HIFU(ハイフ)」の違法性リスク
現在、脱毛以上に法的リスクが高まっているのが、HIFU(高密度焦点式超音波)です。
HIFUは、超音波を一点に集中させ、皮下組織(SMAS筋膜など)に熱変性を起こさせることでリフトアップ効果を狙う施術です。
このメカニズムをよく考えてください。「皮下組織に熱変性を起こさせる」、つまり体の内側の組織を意図的に火傷させて縮める行為です。
これは、前述した医師法の「人体に危害を及ぼすおそれのある行為」そのものです。
実際、消費者庁の消費者安全調査委員会は、エステサロンでのHIFU施術による神経麻痺や火傷などの事故多発を受け、極めて厳しい報告書を公表しています。
さらに、国民生活センターも【エステサロン等でのHIFU施術はリスクが高く、医師資格のない者が行うことは医師法に抵触するおそれがある】と明確に注意喚起を行っています。
以前は「切らない脂肪吸引」などとしてエステ業界で流行しましたが、現状の法解釈では、HIFU機器(医療用・エステ用を問わず、皮下組織に熱損傷を与えるもの)を医師のいないサロンで使用することは、医師法違反となる可能性が極めて高いと言わざるを得ません。
すでにHIFU施術による逮捕者も出ており、「出力が弱いから大丈夫」という理屈は通用しなくなってきています。
現在HIFUメニューを提供しているサロン様は、直ちに弁護士に相談し、メニューの撤廃を含めた早急な対応を検討すべき段階にあります。

ホームページや広告の「NGワード」完全チェック
実際の施術内容だけでなく、ホームページやチラシ、SNSでの「言葉の選び方」も法的リスクに直結します。
医師法違反だけでなく、医療法や景品表示法(優良誤認表示)、薬機法にも関わる問題です。
以下の言葉をサロンの広告で使用していませんか?
これらはすべて、医師のいないエステサロンでは使用不可(NGワード)です。
【A. 「治療」「治る」「完治」】
これらは医療機関のみが使える言葉です。
「ニキビが治る」「肌荒れ治療」などの表現はアウトです。「ニキビを防ぐ」「肌を整える」といった表現に留める必要があります。
【B. 「永久脱毛」】
前述の通り、永久脱毛は組織を破壊する医療行為の結果です。
エステサロンでは「ムダ毛ケア」「制毛」「減毛」といった表現しかできません。「一生生えてこない」という表現も同様にNGです。
【C. 「診断」「診療」】
「肌診断を行います」という表現も要注意です。診断は医師の独占業務です。「肌質チェック」「カウンセリング」と言い換える必要があります。
【D. 医学的根拠のない「特許取得」「No.1」】
「特許取得の技術で細胞を再生」など、科学的根拠(エビデンス)の乏しい表現や、客観的な調査に基づかない「地域No.1」などの表記は、景品表示法違反に問われる可能性があります。
特に最近は、同業者や消費者からの通報により、ホームページの記載内容から捜査が始まるケースが増えています。
何気なく使っている言葉が、捜査機関の端緒となることを忘れないでください。

もし医師法違反に問われたら-逮捕と経営への甚大な影響
万が一、医師法違反の容疑がかかった場合、どのような事態が待っているのでしょうか。
まず、警察による家宅捜索(ガサ入れ)が行われ、施術機器や顧客カルテ、売上帳簿などが押収されます。
経営者や施術スタッフは取調べを受け、悪質性が高いと判断されれば逮捕・勾留されることもあります。 医師法違反の罰則は【3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はこれを併科】です。
しかし、真の恐怖は刑事罰だけではありません。
【実名報道による社会的信用の喪失】
「〇〇市の脱毛サロン経営者を逮捕」といったニュースは、インターネット上に半永久的に残ります。
【金融機関との取引停止】
反社会的行為に関与した企業として、銀行口座の凍結や融資の引き上げが行われる可能性があります。
【テナントの退去・損害賠償】
賃貸借契約の解除事由に該当し、店舗からの退去を求められるほか、被害に遭ったお客様からの多額の損害賠償請求(慰謝料、治療費、休業損害など)を抱えることになります。
つまり、一度の摘発で、事業も財産もすべて失うことになりかねないのです。


おわりに:「知らなかった」では済まされない経営責任
「機械メーカーの営業マンが、法的に問題ないと言っていた」
「近くの他のサロンも同じメニューをやっている」
相談に来られる経営者様は、皆様そうおっしゃいます。
しかし、最終的に責任を負うのはメーカーでも他店でもなく、経営者であるあなた自身です。
美容業界は法規制の変化が激しい業界です。昨日まで黙認されていたことが、今日から摘発対象になることも珍しくありません。
大切なのは、自社のメニューや広告表現が現在の法規制に適合しているかを、客観的にチェックし続ける体制を持つことです。
「ウチのサロンのメニューは法的に大丈夫だろうか?」
「ホームページの表現に問題はないだろうか?」
「お客様から施術後のトラブルでクレームが来ているが、どう対応すればいいか?」
少しでも不安を感じたら、自己判断せずに専門家にご相談ください。
弁護士法人横田秀俊法律事務所では、企業のコンプライアンス支援や、美容業界特有の法的トラブルへの対応に力を入れています。
あなたのサロンを守り、健全な発展を支えるパートナーとして、ぜひ当事務所をご活用ください。

