COLUMNコラム
知的財産権(著作権・商標)の侵害-自社が加害者にも被害者にもならないために
~目次~
ある日突然、会社に届く一通の内容証明郵便。
「貴社のウェブサイトで使用されている画像は、当方の著作権を侵害しています。直ちに使用を中止し、損害賠償金として○○万円をお支払いください」。
あるいは、手塩にかけて育てた自社商品の名前を、ライバル企業が堂々と使い始め、抗議したら「うちは商標登録していますよ」と逆に訴えられそうになる。
これらは決してドラマの中の話ではなく、中小企業や個人事業主の間で日常的に起きているトラブルです。 インターネットやSNSでの集客が当たり前になった現在、企業活動と「知的財産権(知財)」は切っても切り離せない関係にあります。
知財の知識不足は、ある時は「加害者」として高額な賠償金を請求され、ある時は「被害者」として大切なブランドを奪われるという、経営上の致命傷になりかねません。
本コラムでは、企業が陥りやすい「著作権」「商標権」の落とし穴と、自社を守るための具体的な法務対策について、弁護士が詳しく解説します。

「ネットで拾った画像」が命取りに。著作権侵害のリアル
自社のブログやSNS、チラシを作成する際、「イメージに合う写真をGoogle画像検索で見つけて、そのまま貼り付けた」という経験はありませんか? もし心当たりがあるなら、それは極めて危険な状態、いわば【時限爆弾】を抱えているのと同じです。
著作権法では、他人の著作物を無断でコピーしたり、ウェブサイトに掲載(公衆送信)したりすることは原則として禁止されています。
「個人のブログだし」「引用のつもりだった」「悪気はなかった」という言い訳は、法律の世界では通用しません。
近年、画像検索技術の進化により、権利者は自分の画像がどこで無断使用されているかを瞬時に特定できるようになりました。その結果、過去数年分に遡って使用料相当額や損害賠償を請求されるケースが急増しています。
特に注意が必要なのは、自社の従業員が「知識がないまま」行ってしまうケースです。
例えば、広報担当の社員が、軽い気持ちでネット上の画像を加工してInstagramに投稿し、それが原因で会社全体が訴えられる。このような事態を防ぐためには、経営者自身がリスクを理解するだけでなく、社内全体のコンプライアンス意識を高める必要があります。

「フリー素材」なら大丈夫? 規約に潜む危険な罠
「ネットの画像がダメなのは知っている。だからうちは『フリー素材サイト』を使っているから安心だ」 そう思われている経営者様も多いでしょう。
しかし、ここにも大きな落とし穴があります。
「フリー素材」や「ロイヤリティフリー」という言葉は、「著作権が存在しない」という意味ではありません。
「利用規約の範囲内であれば、許諾を得ずに使っても良い」という意味に過ぎないのです。
トラブルになりやすいのは、以下のような【利用規約の制限】を見落としてしまうケースです。
《商用利用の禁止》
個人の趣味ブログならOKだが、会社のサイトや集客チラシ(商用)で使う場合は有料、あるいは使用禁止としているサイトが多くあります。
《加工の禁止・制限》
画像を切り抜いたり、文字を乗せたり、色を変えたりする「改変」を認めていない場合があります。著作者人格権(同一性保持権)の侵害にあたる可能性があります。
《クレジット表記の義務》
「使用する際は、必ず画像提供元の名前やURLを記載すること」という条件がついている場合があります。デザインの都合で勝手に削除すると、契約違反・権利侵害となります。
《モデルリリースの有無》
人物が写っている写真の場合、著作権とは別に「肖像権」の問題があります。きちんとした素材サイトであればモデルの許諾(モデルリリース)を得ていますが、無料サイトの中には、一般人が無許可で撮影した写真をアップロードしているケースも紛れ込んでいます。この場合、写真を使った企業が、写っている本人から肖像権侵害で訴えられるリスクがあります。
「無料だから」と安易に飛びつくのではなく、必ずそのサイトの利用規約を隅々まで読み込むこと。そして、ビジネスで使用する画像については、信頼できる有料のストックフォトサービスを利用することが、結果として最も安上がりな安全策となります。

社名登記だけでは守れない。「商標」は早い者勝ちの冷酷な世界
次に、自社が「被害者」になりやすい、あるいは知らぬ間に加害者になってしまう「商標権」の問題について解説します。
よくある誤解が、「法務局で会社名の登記をしているから、この名前は自分たちのものだ」という思い込みです。
商号(会社名)登記と、商標登録は全く別の制度です。
商号は同一住所でなければ同じ名前でも登記できますが、商標は日本全国で一つの権利です。
例えば、あなたが福井県で「越前クラウド」という名前のITサービスを展開していたとします。数年後、東京の大手企業が同じ「越前クラウド」という名前で商標登録をしてしまったらどうなるでしょうか?
商標法は、原則として【先願主義(早い者勝ち)】です。相手が商標権を取得した瞬間から、あなたは「越前クラウド」という名前をビジネスで使えなくなります。
看板の撤去、名刺の刷り直し、ウェブサイトのドメイン変更、パンフレットの廃棄、そして何より、これまで積み上げてきたブランド認知の消失。その経済的損失は計り知れません。
逆に、あなたが何気なく付けた商品名が、実は他社が既に登録している商標だった場合、ある日突然、使用差止請求や損害賠償請求を受けることになります。
「知らなかった」では済まされないのが商標の恐ろしさです。
新商品や新サービスをリリースする前には、必ず「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」などで類似の商標がないか調査を行うこと。
そして、自社の看板商品については、コストをかけてでも商標登録出願を行うことが、ビジネスを守る必須条件です。


社員が作ったデザインやプログラムは誰のもの? 「職務著作」の盲点
社内の人間関係が悪化した際や、従業員の退職時に揉め事になりやすいのが、この「職務著作(法人著作)」の問題です。
例えば、社員のAさんが業務中に会社のPCで作成したプログラムのコードや、広報用のキャラクターデザイン。Aさんが退職する際に、「これは私が作ったものだから、私が著作権を持っている。会社は今後これを使わないでほしい、あるいは使用料を払ってほしい」と言い出したらどうしますか?
著作権法15条では、以下の要件を全て満たす場合、著作権は作成した社員ではなく「会社(法人)」に帰属すると定めています。
これを【職務著作】といいます。
1.会社の発意に基づいていること(会社が作れと命じた、あるいは業務の予定に入っていた)
2.会社の業務に従事する者が作成したこと(雇用関係があること)
3.職務上作成したものであること(業務時間内や業務に関連して作成された)
4.公表する場合、会社名義で公表されるものであること(プログラム等の場合は例外あり)
5.就業規則や契約に別段の定めがないこと
ここで特に重要なのが、5番目の「就業規則や契約」です。
もし、就業規則に「従業員が作成した発明や著作物の権利は、従業員個人に帰属する」といった趣旨の規定があったり、逆に何も規定がなかったりする場合、トラブルの火種になります。
また、近年増えている「業務委託(フリーランス)」や「派遣社員」の場合は、原則として雇用関係がないため、この職務著作の規定が適用されません。
つまり、契約書で明確に著作権の譲渡(すべての権利を会社に移すこと)を取り決めておかないと、お金を払って作ってもらったホームページやロゴマークの著作権が、外注先のデザイナーに残ったままになってしまうのです。
「後で修正しようとしたら、デザイナーから著作権侵害だと言われた」
「追加料金を請求された」というトラブルは、契約段階での確認不足が原因です。

外注先とのトラブル回避。権利の所在を契約書で明確にする
前述の通り、外部のデザイナー、ライター、プログラマーに業務を委託する場合、著作権の取り扱いは「契約書」が全てです。
通常、著作権は「作った人」に発生します。 発注側(企業)が、「お金を払うのだから当然こちらのものになるだろう」と考えていても、法律はそう解釈しません。著作権を自社に移転させたい場合は、契約書に【著作権の譲渡条項】を明記する必要があります。
さらに注意すべきは、【著作者人格権】です。
著作権(財産権)を譲渡してもらっても、「著作者人格権」は譲渡できません。
これは「著作者が自分の作品に対して持つこだわり」を守る権利です。これが行使されると、会社側が自由にデザインを修正したり、トリミングしたりすることができなくなります。
そのため、契約書には必ず「著作者人格権を行使しない」という条項(不行使特約)を入れておく必要があります。
また、外注先が制作過程で他人の画像を無断使用していた場合、発注元である自社も責任を問われるリスクがあります。契約書には、「納品物が第三者の権利を侵害していないことを保証する」という表明保証条項や、万が一侵害があった場合は外注先が責任を負うという【補償条項】を入れておくことが、自社を守る防波堤となります。

知財リスクを回避し、攻撃と防御を固めるために
知的財産権の問題は、「問題が起きてから対処する」のでは遅すぎます。
一度拡散してしまった画像を回収するのは不可能ですし、他社に取られてしまった商標を取り戻すのは至難の業です。
しかし、裏を返せば、正しく対策をしておけば、これほど強力な武器もありません。
商標登録を済ませておけば、模倣品を排除し、自社ブランドの独占的な地位を築くことができます。 著作権の所在をクリアにしておけば、将来的なM&Aや事業譲渡の際にも、会社の資産価値(IP価値)として高く評価されます。
経営者がすべきことは、以下の3点に集約されます。
【調査】
新しい名前やデザインを使う前に、必ず他人の権利を侵害していないか調査する習慣をつける。
【契約】
社員や外注先との間で、権利の帰属を明確にする契約書や就業規則を整備する。
【登録】
自社のコアとなる商品名やロゴは、早期に商標登録出願を行う。
これらは専門的な判断を要する場面が多く、インターネット上の知識だけで判断するのは危険です。特に「似ているか似ていないか(類似性)」の判断は、過去の裁判例などを踏まえた法的な分析が不可欠です。

弁護士法人横田秀俊法律事務所にご相談ください
「警告書が届いてどう対応すればいいかわからない」
「これから新商品を出すので、商標の調査をしてほしい」
「外注先との契約書リーガルチェックをお願いしたい」
このようなお悩みをお持ちの企業様は、ぜひ弁護士法人横田秀俊法律事務所にご相談ください。
当事務所では、著作権法や商標法に関するトラブル対応はもちろん、トラブルを未然に防ぐための予防法務にも力を入れています。
知的財産権は、目に見えない資産です。だからこそ、軽視されがちですが、現代のビジネスにおいてその価値は不動産や現金以上に重いものとなることがあります。
福井県大野市を拠点に、地域企業の皆様の「知恵」と「ブランド」を守るため、私たちが専門知識でサポートいたします。
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