COLUMNコラム
経営者の高齢化と事業承継-早めの法務対策が会社を救う
~目次~
「自分の代で会社をたたむべきか、それとも誰かに任せるべきか」
「息子はまだ頼りないが、他人に売るのも抵抗がある」
現在、60代、70代を迎えた多くの経営者様が、こうした深い悩みを抱えていらっしゃいます。結論から申し上げますと、ご親族に承継する場合であっても、M&Aで第三者に売却する場合であっても、安全なバトンタッチを行うためには【数年単位の準備期間】が不可欠です。

「まだ元気だから大丈夫」と先送りにしている間に、認知機能の低下や予期せぬ相続が発生し、黒字企業であるにもかかわらず廃業に追い込まれるケースが後を絶ちません。
本コラムでは、事業承継における「株式」「相続(遺留分)」「経営者保証」という3つの視点から、なぜ早期の法務対策が会社の命運を分けるのか、そのリスクと解決策を詳しく解説します。

息子に継ぐか、M&Aか? 決断を待ってはいけない理由
事業承継には大きく分けて3つの選択肢があります。「親族内承継」「従業員承継」、そして「M&A(第三者承継)」です。多くの経営者様は、この選択肢のどれにするか「決めてから」専門家に相談しようと考えがちです。しかし、これが大きな落とし穴となります。
なぜなら、どの方法を選ぶにせよ、共通して行わなければならない【経営基盤の磨き上げ】があるからです。
例えば、親族に継がせる場合、後継者が円滑に経営権を行使できるよう、株式を集中させる必要があります。一方でM&Aを選択する場合も、株式が分散していたり、契約関係が不明確だったりする会社は、買い手がつかないか、買収価格が著しく叩かれてしまいます。
つまり、後継者が決まっていなくても、法務的な整理整頓は今すぐ始めなければなりません。
「決まってから動く」のではなく、「動きながら決める」のが、会社を守る正しい姿勢です。
特に、70歳を超えてからの対策開始は、時間との戦いになります。判断能力がしっかりしている今だからこそ、打てる手があるのです。

会社支配の要石「自社株式」の分散リスクとは
中小企業の事業承継において、最大のトラブルの種となるのが【自社株式の分散】です。
創業時はご自身が100%持っていた株式も、増資の際に知人に出資してもらったり、過去の相続で親族に分散していたりすることはありませんか? あるいは、名義株(名前だけ借りている株)がそのまま放置されていませんでしょうか。
経営権の安定には、株主総会の特別決議を単独で成立させられる【3分の2以上】の議決権確保が理想です。
もし、後継者の持株比率が低いまま承継してしまうと、以下のような恐ろしい事態を招きます。
《重要事項が決められない》
定款の変更、合併、事業譲渡、役員の解任など、会社の根幹に関わる決定には3分の2以上の賛成が必要です。株式が分散していると、少数株主の反対によって重要な経営判断ができず、会社が機能不全に陥ります。
《クーデターのリスク》
会社経営に不満を持つ親族や、会社を乗っ取ろうとする外部勢力が、分散した株式を買い集め、後継者の解任を迫るケースがあります。
《買取請求による資金流出》
経営に関与しない株主から「配当を出せ」と迫られたり、「株を買い取れ」と法外な価格での買取を請求されたりすることがあります。これに応じると、会社の運転資金が一気に枯渇します。
こうしたリスクを避けるためには、生前贈与や売買を活用して、経営者様の手元、ひいては後継者の手元に株式を集中させておく必要があります。
しかし、株価が高い時期に移転すると多額の税金が発生するため、株価引き下げ対策とセットで、数年がかりで計画的に移転する必要があるのです。


想定外の争族トラブル「遺留分」が経営を揺るがす
親族内承継、特にお子様が複数いらっしゃる場合に必ず考慮しなければならないのが【遺留分(いりゅうぶん)】の問題です。
遺留分とは、一定の相続人に対して法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。
例えば、経営者様が「長男に会社の全株式を相続させる」という遺言書を書いたとします。これで安心だと思われるかもしれませんが、もし次男や長女が「自分たちの取り分が侵害された」と主張し、遺留分侵害額請求を行うと、大きなトラブルに発展します。
かつては、遺留分の返還として「株式そのもの」を渡すケースもありましたが、民法改正により、原則として「金銭」で解決することになりました。
これは株式の分散を防ぐ意味では前進ですが、新たな問題を生みます。それは、【後継者が巨額の現金を支払わなければならない】というリスクです。
自社株の評価額が予想以上に高騰している場合、後継者が支払うべき代償金(遺留分相当額)も跳ね上がります。後継者個人の資産で払えなければ、会社から借り入れるなどして工面せざるを得ず、結果として会社の財務内容を著しく悪化させます。
これを防ぐためには、「除外合意(自社株を遺留分の計算に入れない)」や「固定合意(自社株の評価額を固定する)」といった、経営承継円滑化法に基づく特例措置を活用する必要があります。
これには経済産業大臣の確認や家庭裁判所の許可など、複雑な手続きが必要です。
専門家のサポートなしに進めることは極めて困難であり、生前の元気なうちでなければ合意形成が難しいのが現実です。


後継者を苦しめる「経営者保証」の重圧と外し方
「会社を継ぐのはいいが、親父の借金の保証人になるのは怖い」
後継者候補が承継を躊躇する最大の要因、それが【個人保証(経営者保証)】です。中小企業の多くは、金融機関から融資を受ける際、社長個人が連帯保証人になっています。
万が一会社が倒産すれば、社長は自宅も資産も全て失うことになります。この重荷を、これからの未来ある後継者に負わせたくないと思うのは親心であり、また後継者にとっても人生を賭けた決断となります。
現在、国の方針としても「経営者保証ガイドライン」が策定され、一定要件を満たせば保証契約を解除できる流れができています。しかし、自動的に解除されるわけではありません。以下の要件を満たすよう、会社を磨き上げる必要があります。
《法人と個人の明確な分離》
会社のお金を社長が私的に使っていないか、逆に社長が会社にお金を貸し付けすぎていないかなど、経理の透明性が求められます。
《財務基盤の強化》
借入金の返済能力が十分にあること、債務超過でないことが求められます。
《適時適切な情報開示》
金融機関に対して、試算表や決算書を正確かつ迅速に開示し、信頼関係を構築していることが必要です。
また、事業承継のタイミングで「事業承継特別保証制度」を利用し、後継者の保証を不要とする借換えを行う手段もあります。
M&Aによる売却の場合でも、基本的には買い手企業が保証を肩代わりしたり、保証自体を外したりすることが一般的ですが、これも交渉次第です。
いずれにせよ、保証を外す交渉や財務改善には時間がかかります。「継ぐ瞬間に何とかしよう」では遅いのです。

準備には最低3年〜5年かかる? 法務スケジュールの現実
ここまで、株式、遺留分、保証の問題を見てきました。これらを解決するには、どれくらいの期間が必要でしょうか。
例えば、株式の移転一つをとっても、一度に贈与すれば贈与税が莫大になるため、暦年贈与を使って毎年少しずつ移し、5年以上かけるケースは珍しくありません。
また、遺言書の作成や、推定相続人との話し合い(遺留分対策)も、感情的な対立を避けるために慎重に進めれば、1年や2年はあっという間に過ぎてしまいます。
さらに、後継者の育成期間も含めれば、やはり【5年〜10年】の期間を見据えた計画が必要です。
逆に言えば、60代のうちから準備を始めれば、多くの選択肢を検討できます。
「種類株式」を発行して、後継者に議決権を集めつつ、他の相続人には配当優先株を渡すといった高度な設計も可能です。
M&Aを目指す場合も、数年かけて法務デューデリジェンス(法的監査)に耐えうるクリーンな会社にしておくことで、売却価格を数千万円、数億円単位でアップさせることも夢ではありません。
もっとも恐れるべきは、何の準備もしないまま経営者様に万が一のことが起きることです。
遺言もなく、株式は分散し、保証債務だけが残る。この状態では、残されたご家族は相続税の支払いと会社の借金に追われ、会社は空中分解してしまいます。
会社を守り、従業員を守り、そして何よりご家族を守るために、法務対策は「転ばぬ先の杖」ではなく、経営者の「最後の責務」なのです。

弁護士法人横田秀俊法律事務所にご相談ください
事業承継は、税務の問題であると同時に、極めて高度な「法務」の問題です。
税金対策ばかりに気を取られ、会社法のルールや民法の遺留分を無視した対策を行うと、後々法的な紛争に発展し、会社が立ち行かなくなるケースがあります。
福井県大野市に拠点を置く弁護士法人横田秀俊法律事務所では、地元企業の皆様の事業承継を強力にサポートしております。
代表弁護士の横田秀俊は、福井県事業承継・引継ぎ支援センターのエリアコーディネーターを務めるなど、この分野における豊富な経験と実績を有しています。
「まだ具体的には決まっていないけれど、話だけ聞いてみたい」
「自社株がどうなっているか、一度調査してほしい」
そのような段階からのご相談も大歓迎です。
将来の不安を安心に変えるために、まずは一度、専門家の視点を取り入れてみませんか? 貴社の永続的な発展と、円満な承継のために、私たちが全力で伴走いたします。

