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役員の責任はどこまで?会社法における取締役の善管注意義務と「経営判断の原則」

企業法務 2026.01.11. #企業法務

役員の責任はどこまで?会社法における取締役の善管注意義務と「経営判断の原則」

 会社が順調に成長し、組織が大きくなるにつれて、取締役としての責任の重さを以前よりも強く感じるようになった、という経営者様は多いのではないでしょうか。

「もし、社運を賭けた新規事業が失敗して巨額の赤字を出してしまったら、自分は私財を投げ打ってでも会社に賠償しなければならないのか?」

「株主代表訴訟で訴えられたら、家も車も失うのではないか」

  このような不安が頭をよぎり、思い切った経営判断ができなくなってしまうことは、会社にとっても大きな損失です。

 しかし、会社法は取締役に「結果責任(失敗したら即賠償)」までは求めていません。法律が求めているのは、プロとしての誠実なプロセスです。

 本コラムでは、取締役が負うべき法的義務の正体と、万が一の失敗の際に自らを守るための法理《経営判断の原則》について、実務的な観点から解説します。

取締役としての責任、不安を感じていませんか?

取締役の責任は「無限」ではない-恐れすぎる必要はありません

 まず、大前提として知っておいていただきたいのは、取締役が会社に対して損害賠償責任を負うのは、任務を怠った場合(任務懈怠)に限られるということです。

 ビジネスには常にリスクがつきものです。どんなに優秀な経営者が、どんなに綿密な計画を立てても、市場環境の変化や予期せぬ事態によって事業が失敗することはあります。

 もし、結果が悪かったというだけで常に法的責任を問われるとしたら、誰も取締役を引き受け手がいなくなってしまいますし、誰もリスクを取った挑戦をしなくなってしまいます。これでは経済が停滞してしまいます。

 したがって、単に「赤字を出した」「事業に失敗した」という事実だけで、直ちに取締役個人が賠償責任を負うわけではありません。

 責任を問われるのは、やるべきことをやらなかった、あるいはやってはいけないことをやったという【過失】がある場合に限られます。

会社法が求めているのは「プロとしての誠実なプロセス」

会社法が求めるプロのハードル-「善管注意義務」とは

 では、どのような場合に「過失があった」とされるのでしょうか。

 ここでキーワードとなるのが、会社法第330条および民法第644条に基づく

【善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)】です。

 これは「善良なる管理者の注意義務」の略です。

 少し難しく聞こえますが、簡単に言えば「その地位や職業にある人として、通常期待されるレベルの注意を払って業務を行いなさい」ということです。

 取締役は経営のプロフェッショナルとして会社から委任を受けています。そのため、一般の人よりも高いレベルの注意力が求められます。

 何も考えずにハンコを押したり、部下に任せきりにして監視を怠ったり、明らかに不合理な投資を行ったりした場合は、「プロとしての注意義務を果たしていない(善管注意義務違反)」とみなされ、会社に生じた損害を賠償する責任が発生します。

善管注意義務

失敗=賠償ではない!経営者を守る盾「経営判断の原則」

 「注意義務と言われても、どこまでやればいいのか不安だ」 そう思われるかもしれません。ここで、取締役を守るための重要な法理が登場します。

 それが【経営判断の原則】です。

 これは、裁判所が取締役の責任を判断する際、「経営判断には専門的・予測的な性質があることを尊重し、結果責任を問うのではなく、その決定に至るプロセスが正当だったかを審査する」というルールのことです。

 裁判官は法律のプロですが、ビジネスのプロではありません。後から振り返って「あの時こうしていればよかった」と言うのは簡単(後知恵)ですが、当時の状況下で、不確実な未来を予測しながら決断を下すのは経営者にしかできないことです。

 そのため、以下の2つの要件満たしていれば、たとえ結果として会社に巨額の損害を与えたとしても、「善管注意義務違反には当たらない(賠償責任はない)」と判断されます。

1.【情報収集の過程】に不注意がなかったか 判断の前提となる事実認識において、十分な情報を集め、専門家の意見を聞くなどして、慎重な検討を行ったか。

2.【判断の内容】に不合理な点がなかったか 集めた情報に基づいて、通常の経営者であれば選ばないような著しく不合理な決定をしていないか。

経営判断の原則
賠償責任を問われない2つの要件 ①情報収集の過程に不注意がなかったか ②判断の内容に不合理な点がなかったか

裁判所は何を見ているのか?「結果」ではなく「プロセス」

 つまり、重要なのは「成功したか失敗したか」ではなく、「ちゃんと調べて、ちゃんと議論したか」という【プロセス】なのです。

 例えば、新しい工場を建設する場合を考えてみましょう。

 建設後に需要が急減し、工場が閉鎖に追い込まれたとします。

 この時、もし取締役が「社長の思い付き」だけで建設を決め、市場調査もせず、コスト試算もずさんだったなら、善管注意義務違反を問われる可能性が高いでしょう。

 しかし、事前に詳細な市場調査を行い、複数の建設会社から見積もりを取り、リスクシナリオを検討し、取締役会で何度も議論を重ねた上での決断だったのであれば、結果が失敗だったとしても、その責任を法的に問われることは原則としてありません。

 「ベストを尽くして検討した結果の失敗」であれば、法律はあなたを守ってくれるのです。

大切なのは、ちゃんと調べて議論したかどうかということ

あなたを守る最強の証拠-「取締役会議事録」の作り方

 では、いざ訴訟になった時、どうやって「ベストを尽くして検討した」ことを証明すればよいのでしょうか。

 取締役の頭の中でどれだけ深く考えていても、証拠がなければ裁判所には伝わりません。

 ここで決定的に重要になるのが【取締役会議事録】です。

 中小企業の議事録でよく見かけるのが、「第1号議案:新工場建設の件。満場一致で承認可決された。」という1行だけの記載です。

 はっきり申し上げますが、これでは取締役を守る盾としては【無力】です。これでは、誰がどんな意見を言い、どんなリスク検討がなされたのか全く分かりません。

 「あなたの身を守る議事録」には、以下の要素が必要です。

・どのような資料に基づいて検討したか

・誰からどのような質問が出たか(リスクへの懸念など)

・その質問に対して、どう回答し、どうリスクヘッジ策を確認したか

・反対意見はあったか、あればその理由は何か

 議論の過程(プロセス)を詳細に残すことこそが、数年後に「経営判断の原則」を主張するための唯一にして最大の武器となります。

最強の証拠「取締役会議事録」

最後の砦として-役員賠償責任保険(D&O保険)の活用

 法的・実務的な防衛策を尽くしても、株主代表訴訟を起こされるリスクをゼロにすることはできません。また、裁判で勝訴したとしても、高額な弁護士費用がかかることがあります。

 そこで、規模が大きくなってきた企業の皆様に強く推奨しているのが、【役員賠償責任保険(D&O保険)】への加入です。

 これは、役員が業務上の行為に起因して損害賠償請求を受けた場合に、その賠償金や争訟費用(弁護士費用など)をカバーする保険です。

 近年は中小企業向けのプランも充実しています。「自分は大丈夫」と思わず、万が一のセーフティネットを用意しておくことも、安心して経営に専念するための重要な戦略です。

役員賠償責任保険

攻めの経営をするために、弁護士法人横田秀俊法律事務所へ

 責任を恐れて守りに入ってしまっては、企業の成長は止まってしまいます。

 正しい法知識と、適切なプロセス(議事録整備など)があれば、取締役は不必要に責任を恐れる必要はありません。

 弁護士法人横田秀俊法律事務所では、取締役会の運営指導、議事録のリーガルチェック、新規事業のリスク分析など、経営陣が安心してアクセルを踏めるような法務サポートを提供しています。

「この決議内容で法的に問題ないか」

「議事録の書き方を指導してほしい」

 といったご相談は、いつでもお任せください。

 あなたの挑戦を、法律の力でバックアップいたします。

取締役を守る3つのポイント ①正しい法知識を持つ ②適切なプロセスを残す ③万が一に備える
弁護士法人横田秀俊法律事務所のサポート 攻めの経営をするために
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