COLUMNコラム
秘密保持契約(NDA)はなぜ重要か?情報漏洩リスクと企業の防衛策
~目次~
「大手企業から共同開発の話を持ち掛けられたが、詳細を話したとたん、アイデアだけ盗まれてしまわないか心配だ」
「長年勤めていた社員が退職して競合他社に転職した際、当社の顧客リストを持ち出されないか不安だ」
このような悩みは、独自の技術やノウハウ、あるいは長年培った顧客基盤を持つ企業経営者にとって、避けては通れない重大な課題です。
ビジネスにおいて情報は「金脈」そのものです。しかし、形のない情報は一度流出してしまうと、回収することはほぼ不可能です。
本コラムでは、御社の大切な資産を守るための基本中の基本である【秘密保持契約(NDA)】の重要性と、法律による保護を受けるために社内で整備しておくべき「秘密管理」のポイントについて解説します。

情報を開示する「前」に結ぶのが鉄則
新たな取引先との商談や、他社との業務提携、共同開発の場面において、最も犯してはならないミスがあります。
それは、「具体的な技術やノウハウを話してしまった【後】に、秘密保持契約書を提示すること」です。
ビジネスの現場では、話が盛り上がり、「まずは技術的な可能性を確認してから契約の話をしましょう」という流れになることがよくあります。
しかし、相手が悪意を持っていた場合、あるいは悪意がなくとも情報管理がずさんな場合、契約を結ぶ前に開示した情報は、何の法的保護も受けられない「ただのお喋り」として扱われるリスクがあります。 一度相手の手に渡ったデータや知識は、覆水盆に返らず。後から「あれは秘密だったことにしてほしい」と頼んでも、相手が拒否すればそれまでです。
したがって、たとえ相手が大手企業であっても、あるいは親しい知人の紹介であっても、具体的な中身に踏み込む【前】に、必ず秘密保持契約(NDA)を締結することが、御社を守る最初の、そして最大の防衛線となります。

そもそも「秘密情報」とは何か?(定義と除外事由)
秘密保持契約を結ぶ際、最も重要なのが「何を守るのか」、つまり《秘密情報の定義》です。
一般的には、「甲が乙に対して、書面、口頭、電磁的記録等を問わず開示した一切の情報」といった広い定義がなされます。
しかし、すべての情報が秘密として守られるわけではありません。契約書には通常、秘密情報の例外(除外事由)が規定されます。これを知っておくことは非常に重要です。
【主な除外事由】
・開示された時点で、すでに公知となっていた情報(すでに世間で知られていること)
・開示された後に、自らの責めによらず公知となった情報(ニュースなどで公開されたこと)
・開示される前から、すでに正当に所持していた情報
・正当な権限を持つ第三者から、秘密保持義務を負わずに適法に入手した情報
特に注意すべきは、「公知の事実」は秘密として保護されないという点です。 逆に言えば、御社が「これは極秘技術だ」と思っていても、すでに業界内で知れ渡っている標準的な技術であれば、契約違反を問うことは難しくなります。
そのため、何が「御社独自の非公知のノウハウ」なのかを明確にしておく必要があります。

契約書だけでは守れない?「不正競争防止法」と「秘密管理性」
契約違反として損害賠償を請求するだけでなく、情報の使用差し止めや、刑事罰の適用まで視野に入れた強力な保護を受けたい場合、【不正競争防止法】という法律が関わってきます。
この法律では、企業の「営業秘密」を不正に取得・使用する行為を厳しく罰していますが、実は、御社の情報がこの法律で守られるためには、以下の3つの要件をすべて満たしている必要があります。
1.【秘密管理性】:秘密として管理されていること
2.【有用性】:事業活動に有用な情報であること
3.【非公知性】:公然と知られていないこと
この中で最もハードルが高く、トラブルになりやすいのが1つ目の《秘密管理性》です。
単に「社長の頭の中では秘密だと思っていた」だけでは認められません。客観的に見て「会社として秘密として扱っていた」と言える状態が必要です。

具体的には以下のような措置が求められます。
・紙の書類であれば「部外秘」「Confidential」といったスタンプを押してあるか
・データであれば、パスワード制限やアクセス権限の設定がなされているか
・鍵のかかるキャビネット等で保管され、持ち出しが制限されているか
もし、重要な顧客リストや設計図が、誰でもアクセスできる共有フォルダに入っていたり、机の上に放置されていたりする場合、万が一盗まれても「御社が秘密として管理していなかったのだから、法律上の保護対象(営業秘密)にはなりません」と判断される恐れがあります。
NDA(秘密保持契約)を結ぶだけでなく、社内の管理体制(アクセス権限や物理的な保管方法)を見直すことが、法的な保護を受けるためには不可欠なのです。

外部との取引だけではない!従業員の退職時にこそ必要な対策
情報漏洩のリスクは、取引先だけにあるのではありません。実は、最も多いのが「退職した従業員による持ち出し」です。
「長年目をかけていた部下が、顧客リストを丸ごとコピーして独立し、ライバル会社を作った」
「技術部門の責任者が、設計データを手土産に競合他社へ転職した」
といった相談は後を絶ちません。
在職中の従業員は、労働契約上の義務として秘密保持義務を負っていますが、退職後については、職業選択の自由との兼ね合いもあり、当然に秘密保持義務が続くわけではありません。
そこで重要になるのが、退職時に【秘密保持誓約書】を提出させることです。
この誓約書の中で、「在職中に知り得た秘密情報を、退職後も漏洩・使用しないこと」「顧客リスト等のデータをすべて返還・消去したこと」を明確に約束させます。
また、入社時や昇進時にも就業規則とは別に誓約書を取得し、定期的に秘密管理への意識付けを行うことが、心理的な抑止力としても機能します。

契約書のひな形を鵜呑みにしないために
インターネット上には、無料の秘密保持契約書のひな形がたくさん落ちています。
また、取引先から「いつものフォーマットです」と契約書が送られてくることもあります。 しかし、それらをそのまま使うことはお勧めできません。
・秘密情報の定義が曖昧で、守りたい技術が含まれていない
・契約期間が「契約終了後1年」と短く設定されており、長期的なノウハウ流出に対応できない
・損害賠償額の上限が低く設定されている
このように、自社に不利な内容が含まれていることが多々あります。
自社の技術や情報の性質に合わせて、カスタマイズされた契約書を作成・チェックすることが、将来の紛争を防ぐカギとなります。

情報漏洩対策は、弁護士法人横田秀俊法律事務所へ
情報は一度漏れれば、企業の存続すら危ぶまれる事態になりかねません。
「契約書を交わしておけば安心」ではなく、その中身が自社の利益を本当に守れるものになっているか、そして社内の管理体制が法律の要件を満たしているか、専門家の視点でチェックすることが重要です。
弁護士法人横田秀俊法律事務所では、秘密保持契約書(NDA)の作成やリーガルチェックはもちろん、不正競争防止法を見据えた社内規定の整備、退職者への対応など、企業の知的財産を守るためのトータルサポートを行っております。
「大切な技術を守りたい」
「共同開発の話が進んでいる」
という経営者様は、情報を開示する前に、まずはお気軽にご相談ください。
