COLUMNコラム
取引先からの無理な要求・下請法違反かも?知っておくべき親事業者の義務と正しい交渉術
~目次~
原材料価格の高騰、エネルギーコストの上昇、さらには人手不足による労務費の増加など、製造業や建設業を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。
「資材の値上がりが止まらないのに、元請け業者からは従来の単価での納品を求められている」
「赤字覚悟で仕事を受けているが、もう限界だ」
といった悲痛な声が、当事務所にも数多く寄せられています。
こうした取引上の理不尽な要求に対して、実は【下請法】という強力な法律があなたの会社を守ってくれる可能性があります。
本コラムでは、立場の弱い受注者(下請事業者)を守るための下請法の仕組みから、具体的な禁止行為、そして関係性を壊さずに是正を求めるための交渉術まで、経営者が知っておくべき実務知識を詳しく解説します。

下請法とは?中小企業の利益を守るためのセーフティネット
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、独占禁止法の特別法として制定された法律です。 通常、ビジネスは自由な契約に基づいて行われるものですが、発注側(親事業者)と受注側(下請事業者)の間には、どうしても力関係の格差が生まれます。
「嫌なら他に出す」と言われてしまえば、下請事業者は無理な条件でも飲まざるを得ないのが実情でしょう。
このような不公平な取引を規制し、下請事業者の利益を保護するために、下請法は親事業者に対して厳しい【義務】と【禁止事項】を課しています。この法律の最大の特徴は、たとえ下請事業者が「その条件でいいです」と合意していたとしても、その内容が下請法に違反していれば、親事業者は違法となる点です。
つまり、無理やり同意させられた契約であっても、法律が後から無効・違法と判断してくれる強力な効力を持っています。

あなたの取引は対象?「親事業者」と「下請事業者」の定義
「うちは小さな町工場だから関係ない」
「相手もそんなに大企業ではない」
と思っていても、実は下請法の対象となっているケースは多々あります。
下請法が適用されるかどうかは、取引の内容と、双方の【資本金の額】によって形式的に決まります。
例えば、製造委託や修理委託の場合、以下のようなケースで適用されます。
【ケースA】 親事業者の資本金:3億円超
下請事業者の資本金:3億円以下(個人事業主含む)
【ケースB】 親事業者の資本金:1,000万円超〜3億円以下
下請事業者の資本金:1,000万円以下(個人事業主含む)
つまり、相手が一部上場企業のような大企業でなくても、自社よりも資本金規模が一定以上大きければ、下請法が適用される可能性が高いのです。
まずは自社と取引先の資本金を確認し、法の保護を受けられる立場にないかチェックしてみましょう。

これだけは許されない!親事業者が犯しやすい4つの禁止行為
下請法には親事業者が「絶対に行ってはならない」禁止行為が11項目定められていますが、その中でも特に相談が多く、製造業・建設業で起こりやすい4つの違反類型について詳しく解説します。
(1) 買いたたき
現在、最も問題となっているのがこの「買いたたき」です。
具体的には、原材料費や光熱費が高騰しているにもかかわらず、その上昇分を単価に反映せず、従来通りの価格で発注を続けることや、大量発注を餌に著しく低い単価を押し付ける行為が該当します。
親事業者が「予算が決まっているから無理」「他社はもっと安い」と言って協議に応じず、一方的に価格を据え置くことは、違法となる可能性が極めて高いです。
(2) 受領拒否
下請事業者が納期通りに納品しようとしたにもかかわらず、親事業者の都合で受け取りを拒否することです。
「販売不振で在庫が溢れている」
「仕様変更の予定があるから少し待ってほしい」といった理由は、下請事業者には何の関係もありません。発注した以上、親事業者は期日に受け取る義務があります。
(3) 不当な返品
検査に合格して受け取った後、あるいは検査なしで受け取った後に、親事業者の都合で商品を返品することです。
製品に明らかな瑕疵(欠陥)がある場合を除き、一度受け取ったものを「やっぱり売れなかったから返す」「月末の在庫調整のために一旦戻す」といった理由で返品することは厳禁です。
(4) 下請代金の支払遅延
物品を受領した日(役務提供を受けた日)から起算して、60日以内の「あらかじめ定めた支払期日」までに代金を全額支払わないことです。
建設業界などで見られる「施主から入金があったら払う」という条件は、下請法上は認められません。
また、手形で支払う場合、現金化までの期間が長すぎる(例えば120日サイトなど)手形を渡すことも、割引困難な手形として指導の対象となります。


「コスト増」を価格転嫁するための具体的な交渉ステップ
では、実際に「買いたたき」の状態から脱却し、適正な単価へ是正してもらうにはどうすればよいでしょうか。感情的に「上げてくれ」と頼むだけでは、なかなか相手は動きません。
法的な背景を理解した上で、以下のステップを踏むことが重要です。
【ステップ1:根拠資料の作成】
まず、どれくらいコストが上がっているのかを数字で示します。材料費の仕入れ伝票の推移、電気料金の明細、あるいは公的な統計データ(企業物価指数など)を用意し、「以前と比べてこれだけコストが上昇しており、自助努力だけでは吸収できない」という客観的な証拠を揃えます。
【ステップ2:書面での協議申し入れ】
口頭や電話だけでなく、必ずメールや文書で価格改定の協議を申し込みます。「〇月〇日付で価格改定のお願い」という形で記録を残すことが重要です。公正取引委員会の指針でも、下請事業者からの協議の申し入れに対して親事業者が協議に応じないこと自体が問題視されています。
【ステップ3:価格転嫁の交渉】
実際の交渉では、「一方的な値上げ」ではなく「パートナーシップの継続」を強調します。
「今後も御社に安定して良い製品を供給し続けるためには、適正な価格転嫁が必要です」と伝え、会社の存続に関わる問題であることを理解してもらいます。

交渉の切り札として「公正取引委員会」をどう活用するか
交渉が膠着した場合、頭をよぎるのが「公正取引委員会(公取委)への申告」です。
公取委に違反事実を申告すれば、調査が入り、親事業者に是正勧告や指導が行われる可能性があります。これは非常に強力な武器ですが、諸刃の剣でもあります。申告したことが相手に伝われば、その後の取引継続が困難になるリスクがあるからです。
実務でおすすめするのは、公取委を【見えない第三者】として交渉のテーブルに乗せる方法です。
「最近、公正取引委員会の監視が非常に厳しくなっており、業界内でも下請法違反に対する調査が入っていると聞きます。弊社としても御社にご迷惑をおかけしたくありません。今の単価設定のままでは、後々、御社が『買いたたき』として指摘を受けるリスクがあります。お互いのコンプライアンスを守るためにも、一度正式に価格の見直しをさせていただけませんか?」
このように、「あなたの会社を守るために提案している」というスタンスを取ることで、角を立てずに相手にプレッシャーを与えることができます。

自社が発注側に回った時の注意点(3条書面の交付義務)
ここまで被害者の視点で解説してきましたが、製造業・建設業の皆様は、協力会社や外注先に仕事を依頼する「親事業者」の立場になることもあるはずです。
その際、絶対に忘れてはならないのが【3条書面の交付義務】です。
下請法第3条では、発注と同時に、以下の内容を記載した書面(発注書)を直ちに交付することを義務付けています。
・下請事業者の給付の内容(何を)
・下請代金の額(いくらで)
・支払期日(いつ払うか)
・納入場所や期日
・検査完了日 など
「昔からの付き合いだから電話一本で済ませている」
「金額は後で決めることにして作業を先に進めてもらった」
というケースは、すべて法律違反となります。
書面交付義務違反は、それだけで直ちに違法行為とみなされます。万が一トラブルになった際、発注書がないと自社が圧倒的に不利になるだけでなく、刑事罰(罰金)の対象になることもあります。
自分が守られるためにも、発注業務の適正化は必須です。

ひとりで抱え込まず、弁護士にご相談ください
取引先との力関係で言いたいことが言えない、価格転嫁の交渉が怖い、あるいは契約書の内容が適正か不安だという方は、決して一人で抱え込まないでください。
弁護士が介入することで、法的な根拠に基づいた冷静な交渉が可能になります。
また、直接弁護士が表に出るのが憚られる場合でも、交渉のための書面の添削や、想定問答のアドバイスなど、黒子としてサポートすることも可能です。
当事務所は、地元・福井県の企業の皆様が、公正な取引の中で正当な利益を得られるよう全力で支援いたします。
事業の継続と発展のために、まずは一度、専門家の視点を取り入れてみませんか?
