COLUMNコラム
「問題社員」を解雇したい…法的リスクを回避するための正しい手順と実務対応
企業法務 2025.12.27.
~目次~
経営者の皆様にとって、従業員に関する悩みは尽きないものです。特に、何度注意しても改善が見られない、職場の秩序を乱す、能力が著しく不足しているといった「問題社員」への対応は、企業の成長を阻害するだけでなく、他の真面目な社員のモチベーション低下にもつながる深刻な課題です。
「これ以上、雇用を続けることは会社にとって不利益だ」と判断した際、多くの経営者様が「解雇」を検討されます。
しかし、日本の労働法制において、解雇は極めてハードルの高い法的行為です。感情に任せて安易に解雇を言い渡してしまうと、後になって不当解雇として訴えられ、数百万円単位の解決金の支払いや、当該社員の復職を命じられるといった、最悪の事態を招きかねません。
本コラムでは、経営者様が必ず知っておくべき「解雇の法的な壁」と、トラブルを未然に防ぎながら問題を解決するための「正しいプロセスの踏み方」について、弁護士の視点から詳しく解説します。

なぜ日本の会社は簡単にクビにできないのか?「解雇権濫用の法理」
まず、大前提として理解いただきたいのは、「社長の権限であっても、自由に従業員を辞めさせることはできない」という日本の法律の厳しさです。
労働契約法第16条には、以下のように明記されています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
これを専門用語で「解雇権濫用(らんよう)の法理」と呼びます。
会社側が「辞めさせたい」と思っても、裁判所が「それはやりすぎだ(権利の濫用だ)」と判断すれば、解雇は無効になります。
具体的には、以下の2つの要素が厳格に審査されます。
1.客観的に合理的な理由があるか
単に「性格が合わない」「なんとなく気に入らない」では理由になりません。「2週間無断欠勤が続いた」「会社の金を横領した」といった重大な規律違反や、著しい能力不足の事実が客観的に証明できる必要があります。
2.社会通念上相当であるか
理由があったとしても、いきなり解雇という「死刑判決(労働者としての地位を奪う行為)」を下すのが妥当かどうかが問われます。「他の軽い処分(減給や出勤停止など)で済ませることはできなかったのか?」「改善のチャンスは与えたのか?」という点が重視されます。
つまり、会社側は「解雇以外のあらゆる手段を尽くしたが、それでも改善が見込めなかった」というプロセスと実績を積み上げて初めて、解雇が認められる可能性が出てくるのです。


いきなり解雇は絶対NG!法的リスクを下げる「5つのステップ」
法的紛争を回避し、会社を守るためには、以下のステップを順序正しく、丁寧に進めることが不可欠です。
① 口頭での注意・指導と記録化
問題行動があった場合、その都度、口頭で注意を行います。
ここで重要なのは 「いつ、誰が、どのような内容で注意し、本人がどう答えたか」を必ず記録に残すこと です。業務日誌や個人のメモ、メールの送信履歴などが、後の裁判で重要な証拠となります。
「言った言わない」の水掛け論を防ぐための第一歩です。
② 書面による注意・指導(イエローカード)
口頭注意を繰り返しても改善が見られない場合、次は「注意書」や「指導書」といった書面で通知します。
これは、会社として問題を深刻に捉えていることを本人に自覚させると同時に、裁判所に対して「会社は具体的かつ適切な指導を行った」と証明するための決定的な証拠となります。
③ 配置転換・降格などの人事措置
能力不足や人間関係のトラブルが原因の場合、部署異動(配置転換)や役職の降格を行うことで、改善の余地がないかを探ります。
「営業部では成果が出なかったが、総務部なら活躍できるかもしれない」という可能性を模索することは、会社側の 「解雇回避努力義務」 を果たしたことの証明になります。
ここを飛ばしていきなり解雇すると、「まだやれることがあったはずだ」と判断され、敗訴するリスクが高まります。
④ 退職勧奨(たいしょくかんしょう)
ここが実務上、最も重要なステップです。
解雇通知を出す前に、「会社としてはこれ以上契約を続けるのは難しい。自主的に退職してはどうだろうか」と話し合いを持ちかけます。 これを「退職勧奨」と言います。
解雇が会社からの一方的な通告であるのに対し、退職勧奨はあくまで「合意による契約解除」を目指すものです。
本人が納得して退職届を提出すれば、後から不当解雇で訴えられるリスクはほぼゼロになります。解決金の上乗せや有給消化などの条件を提示し、円満な退社を目指すのが賢明な策です。
⑤ 解雇
上記のすべてを行っても本人の改善が見られず、かつ退職勧奨にも応じない場合に、初めて「解雇」というカードを切ります。
ここまでプロセスを踏んでいれば、解雇の正当性が認められる可能性は格段に高まります。


裁判でも通用する証拠へ!「注意指導書」作成の具体的ポイント
ステップ②の「注意書」や「指導書」は、書き方ひとつで法的効力が大きく変わります。
抽象的な精神論(例:「もっとやる気を出すこと」「誠実に勤務すること」)を書いても、裁判所には評価されません。
以下の3点を必ず盛り込んでください。
☆「5W1H」で事実を特定する
「勤務態度が悪い」と書くのではなく、
「〇月〇日の会議中、上司の指示に対し『うるさい』と発言し、机を蹴った」
「〇月〇日、〇日、〇日にそれぞれ始業時刻に遅刻した」
など、誰が見ても分かる客観的事実を記載します。
☆就業規則の根拠条文を示す
その行為が会社のルールのどこに違反しているかを明記します。
(例:「就業規則 第〇条(服務規律)および第〇条(職場の秩序維持)に違反」など)
☆改善期限とペナルティの予告
「本書面受領後、〇週間以内に改善が見られない場合、または同様の事案が再発した場合は、就業規則に基づき懲戒処分を含む厳正な措置をとる」という警告文言を入れます。
これが「最後通告」としての意味を持ちます。
また、作成した書面は本人に手渡し、受領のサイン(署名・捺印)をもらうことを徹底してください。もし本人が受け取りを拒否した場合は、そのやり取り自体を録音したり、記録に残したりしておく必要があります。

「退職勧奨」こそが最大のリスクヘッジである理由
経営者の方の中には「悪いのは社員なのだから、なぜ会社がお金を払ってまで辞めてもらわなければならないのか」と、退職勧奨(条件提示)に納得がいかない方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、もし解雇を強行し、裁判で「不当解雇」と判断された場合のリスクを想像してみてください。
☆バックペイの支払い:解雇した日から判決が出るまでの期間(1年~数年)の給与を全額支払う義務が生じます。『労働の実態がないにもかかわらず』です。
☆職場復帰:裁判で負ければ、その社員は会社に戻ってきます。お互いに信頼関係が崩壊した状態で再び雇用しなければならないストレスは計り知れません。
こうしたリスクを考えれば、多少の解決金(給与の数ヶ月分など)を支払ってでも、 合意の上で退職してもらう方が、金銭的にも精神的にもコストは圧倒的に安く済みます。
解雇は「戦い」ですが、退職勧奨は「交渉」です。まずは交渉による解決を目指すべきです。


まとめ:トラブルになる前に専門家へ相談を
問題社員への対応は、初期対応を誤ると泥沼化しやすい非常にデリケートな問題です。
「これくらいならクビにしても文句は言われないだろう」という独自の判断は大変危険です。
解雇や退職勧奨を行う前には、必ず法的な見通しを立てる必要があります。

弁護士法人横田秀俊法律事務所では、福井県大野市を中心に、多くの中小企業経営者様から労務問題のご相談をいただいております。
「注意指導書の文面をチェックしてほしい」
「退職勧奨の面談にどう臨めばいいか」
といった具体的なご相談から、就業規則の見直しまで幅広く対応可能です。
会社を守り、他の社員が安心して働ける環境を守るために、ひとりで悩まず、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。
