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従業員とのトラブル、初期対応で間違えると泥沼化するパターンとは

企業法務 2025.12.24. #企業法務

従業員とのトラブル、初期対応で間違えると泥沼化するパターンとは

 会社経営において「人」の問題は避けて通れません。

 特に、期待をかけて採用した従業員とのトラブルは、経営者にとって単なる業務上の問題を超え、精神的にも大きな負担となるものです。

「なぜ分かってくれないのか」

「裏切られたような気持ちだ」

 という葛藤を抱えながら、日々の業務に追われている経営者様も少なくないでしょう。

 しかし、この精神的な負担から早く解放されたいと願うあまり、あるいは感情が抑えきれずに取ってしまった「最初の行動」が、実は事態を最も悪化させる原因になることが多々あります。

 労働問題は、初期対応こそが全てと言っても過言ではありません。

 本記事では、真面目で責任感の強い経営者様や、従業員想いの優しい経営者様が陥りやすい「初期対応の罠」と、会社を守るための正しい初動について、弁護士の視点から詳しく解説します。

労働トラブルにおける「初動」が勝敗を決める理由

 問題社員への対応において、もっとも避けなければならないのは

「客観的な証拠がない状態での感情的な叱責」や「法的な手順を無視した処分」です。

 日本の労働法制は、世界的に見ても労働者の権利保護が手厚いことで知られています。経営者が主観的に「勤務態度が悪い」「能力不足だ」と感じていても、裁判所などの第三者を納得させるだけの客観的な証拠(業務日報、注意指導のメール履歴、始末書など)が積み上がっていなければ、会社側の言い分はなかなか認められません。

 初期対応でミスをすると、それが会社側の「不法行為(パワハラなど)」や「手続違反」として記録され、後の交渉や労働審判において、会社側にとっての致命傷になりかねません。

 トラブルが起きた瞬間に経営者に求められるのは、感情をぶつけることではなく、外科医のような冷静さで証拠を保全し、戦略を立てることなのです。

パターン1:感情的な「クビ」発言が招く最悪のシナリオ

 熱い想いを持って経営にあたっている方や、会社を家族のように大切に思っている経営者ほど陥りやすいのがこのパターンです。

 例えば、従業員が会社の信用を傷つけるような重大なミスをしたり、上司に対して反抗的な暴言を吐いたりした際、カッとなって「もう明日から来なくていい!」「クビだ!」と口頭で言い渡してしまうケースです。

 あるいは、会議室に呼び出して長時間にわたり大声で説教をし、その場の勢いで「辞めると言うまで帰さない」といった雰囲気を作り出し、無理やり退職届を書かせる行為も非常に危険です。

 これらをやってしまうと、たとえきっかけが従業員の不始末であったとしても、法的紛争のステージでは「従業員の問題行動」についての議論ではなく、「会社によるパワハラ・不当解雇・退職強要」の有無が最大の争点へとすり替わってしまいます。

 特に、口頭での突発的な解雇は「解雇権の濫用」として無効と判断される可能性が極めて高いものです。もし解雇が無効と判断されれば、解雇言い渡し時にさかのぼって、働いていなかった期間の給与(バックペイ)を支払わなければなりません。

 さらに、無理やり書かせた退職届は「強迫による意思表示」として取り消されるリスクがあります。こうなると、会社側は解決金を支払って退職してもらう以外に道がなくなり、金銭的にも精神的にも大きなダメージを受けることになります。

パターン2:優しすぎるがゆえの「安易な謝罪」のリスク

 一方で、争いごとを好まない、優しく真面目な経営者が陥りやすいのが、

「とりあえずその場を収めるために謝ってしまう」というパターンです。

 従業員から「会社の指導体制が悪いからミスをした」「社長の言い方がきつくて精神的に参った」「うつ病になったのは会社のせいだ」などと主張された際、いかがでしょうか。

 実際には会社側に大きな落ち度がなくても、「不快な思いをさせたなら申し訳ない」「こちらの配慮が足りなかった」と、反射的に謝罪してしまうことはないでしょうか。

 一般的な人間関係やビジネスの取引先相手であれば、まず謝罪することで関係がスムーズになることもあります。しかし、法的な紛争の火種がある労使関係においては、この優しさが仇となります。

 その謝罪の言葉は、高い確率で録音されていたり、メールやLINEの文面として保存されたりします。そして、いざ弁護士を入れて交渉となった際に、「会社側が自らの非(パワハラや安全配慮義務違反)を認めた決定的な証拠」として相手方から提出されるのです。

 一度「会社が悪かった」という言質を取られてしまうと、その後の交渉で会社側は「自白」したことになり、圧倒的に不利な立場に立たされます。

 相手の感情に配慮することと、法的な責任を認めることは、明確に区別して対応しなければなりません。

録音されている前提で動くことの重要性

 現代の労働トラブル対応において、経営者が常に意識しておかなければならないのは、

「会話はすべて録音されているかもしれない」という前提です。

 スマートフォンを使えば、誰でも簡単に高音質での録音が可能です。ポケットの中に忍ばせたスマホで録音された「社長の怒鳴り声」や「安易な謝罪の言葉」は、編集されることなく、そのまま証拠として使われます。

 「うちの社員に限ってそんなことはしないだろう」という性善説は、トラブル発生時には捨てるべきです。

 どのような場面でも、第三者に聞かれても恥ずかしくない、理路整然とした対応を心がけることが、結果として会社と他の真面目な社員を守ることにつながります。

トラブル発生直後こそ、弁護士と「解決のシナリオ」を作る

 では、問題が発生したとき、具体的にどうすればよいのでしょうか。

  正解は、「アクションを起こす前に弁護士へ連絡し、解決までのシナリオを作ること」です。

 問題社員への対応は、将棋やチェスのような戦略的思考が必要です。最終的なゴール(改善して戦力になってもらう、あるいは納得して退職してもらう)に向けた手順を飛ばしてはいけません。

  1. 問題行動の記録化(いつ、どこで、何をしかた、誰が見ていたか)
  2. 具体的な事実に基づく適切な注意指導(書面やメールに残る形で行う)
  3. 改善のための具体的な機会と期間を与える
  4. それでも改善しない場合の、就業規則に基づいた段階的な懲戒処分

 こうしたプロセスを一つひとつ丁寧に踏むことで、「会社は十分な指導を行ったが、それでも改善が見られなかった」という客観的な事実が積み上がります。

 弁護士と共有し、法的に隙のない手順を踏むことで、初めて会社側の正当性を主張できるようになるのです。

 「こんなことを相談してもいいのだろうか」と一人で迷っている間に、事態が悪化することは珍しくありません。

最後に

 従業員とのトラブルは、経営者の情熱や時間を奪い、精神をすり減らす大きなストレス要因です。

「自分が我慢すればいい」

「怒鳴って終わらせよう」

 といった自己判断は、長年築き上げてきた会社経営全体を揺るがすリスクをはらんでいます。

 しかし、初期対応さえ間違えなければ、解決への道筋は必ず見えてきます。

 感情的な対立になる前に、法的なルールに則った冷静な対応をすることで、傷口を最小限に抑えることができるのです。

 もし今、対応に苦慮されている従業員の方がいらっしゃいましたら、ご自身で判断を下してアクションを起こす前に、まずは専門家のアドバイスを受けてください。

 弁護士法人横田秀俊法律事務所では、福井県大野市を中心に、地元企業の皆様からの労働問題に関するご相談を数多く承っております。

 経営者様の苦悩や会社への想いに寄り添い、会社と社員の双方が納得できる解決策を共に考え、法的な観点から全力でサポートいたします。

 トラブルが泥沼化する前に、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。

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監修・執筆:弁護士 横田 秀俊 福井弁護士会所属

日本弁護士連合会の中小企業法律支援センター幹事を務め、中小企業の法的支援体制の構築に携わる。
福井県内地域においては、福井県事業承継・引継ぎ支援センターのエリアコーディネーターとして、数多くの事業引継ぎや経営課題の解決を主導。
法律のプロフェッショナルとして、緻密な法理と現場主義を両立させた的確なアドバイスを提供している。

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