COLUMNコラム
成年後見制度(法定後見・任意後見)の仕組みと限界~資産凍結リスクと相続対策の課題~
相続問題 2025.12.15.
~目次~
高齢化社会が急速に進む日本において、認知症患者数の増加は避けて通れない社会問題となっています。
「自分はまだ大丈夫」
「うちの家族は仲が良いから問題ない」
と考えていても、認知症などによる判断能力の低下は、ある日突然、あるいは少しずつ確実に、ご本人とご家族の生活に大きな影響を及ぼします。
その中でも、生前対策や相続対策を考える上で最大の壁となるのが、判断能力の喪失によって預金の引き出しや不動産の売却ができなくなる「資産の凍結」という問題です。
こうした事態に対応するための公的な仕組みとして「成年後見制度」がありますが、この制度は万能ではありません。実は、多くの人が誤解している「限界」や、利用してから初めて気づく「制約」が存在します。
本記事では、成年後見制度の基本的な仕組み(法定後見と任意後見の違い)を丁寧に解説するとともに、生前対策として活用する場合に直面する課題について詳しくご紹介します。

生前対策の最大の落とし穴「判断能力の低下」
相続対策や老後の資金計画を立てる際、もっとも注意しなければならないのが、ご本人の「意思能力(判断能力)」の有無です。
法律行為を行うには、自分が行う契約などの意味や結果を理解できる能力が必要不可欠です。そのため、重度の認知症や脳血管疾患の後遺症などで判断能力が失われたとみなされると、法的に有効な契約を結ぶことができなくなります。
具体的には、以下のような深刻な事態(いわゆる資産の凍結)に直面します。
●預金口座の凍結
金融機関が本人の判断能力低下を把握した場合、預金の不正流用を防ぐために口座を凍結することがあります。一度凍結されると、たとえ家族であっても、生活費や入院費を引き出すことが極めて困難になります。
●不動産取引の停止
例えば、 老人ホームへの入居一時金を捻出するために自宅を売却したいと考えても、所有者本人に売却の意思能力がなければ、売買契約を締結することができません。また、所有しているアパートの大規模修繕や建て替え契約も不可能となります。
●遺産分割協議の停滞
もし配偶者が亡くなり相続が発生した場合、判断能力のない方は遺産分割協議に参加できません。そのため、遺産分けの話し合い自体がストップしてしまいます。
このような法的・経済的な行き詰まりを解消し、ご本人を保護・支援するために設けられているのが「成年後見制度」です。

成年後見制度の全体像
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が不十分になり、自分一人では契約や財産管理をすることが難しい方を法律的に保護し、支える制度です。
この制度を利用すると、家庭裁判所によって選任された援助者(後見人等)が、本人に代わって財産管理や契約行為を行ったり、本人が行ってしまった不利益な契約を取り消したりすることができるようになります。
制度は大きく分けて、すでに判断能力が低下している場合に対応する「法定後見制度」と、現在は元気だが将来の不安に備えておく「任意後見制度」の2種類があります。
ご本人の現在の状態によって、どちらの制度を利用するかが決まります。

法定後見制度~すでに判断能力が低下している場合~
法定後見制度は、すでにご本人の判断能力が低下してしまった後に利用する制度です。配偶者や四親等内の親族などが家庭裁判所に申し立てを行うことで手続きが始まります。
この制度は、ご本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれており、それぞれ支援の内容や範囲が異なります。
●後見(こうけん)
判断能力を「欠く常況」にある方が対象です。
もっとも症状が重いケースであり、日常的に自分の財産管理や契約行為の結果を判断することができない状態です。選任された「成年後見人」には、非常に強力な権限(財産管理権や広範な代理権、取消権)が与えられ、本人の生活全般をサポートします。
●保佐(ほさ)
判断能力が「著しく不十分」な方が対象です。
日常的な買い物などは自分でできても、不動産の売買や金銭の貸し借り、相続の承認・放棄などの重要な法律行為を行うには支援が必要な状態です。「保佐人」が選任され、重要な行為について同意を与えたり、取り消したりする権限を持ちます。
●補助(ほじょ)
判断能力が「不十分」な方が対象です。
軽度の認知症などで、一人で決定することに不安がある状態です。「補助人」が選任されますが、本人の自己決定権を尊重するため、補助人が持つ権限(同意権・代理権)は、本人が必要として申し立てた特定の範囲に限られます。

重要な点は、法定後見制度における後見人等は「家庭裁判所が選任する」ということです。
親族が候補者として立候補することは可能ですが、資産額が多い場合や親族間で意見の対立がある場合などは、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるケースが多々あります。

任意後見制度~将来に備えて自分で決める場合~
一方、任意後見制度は「現在は判断能力がある」方が利用する制度です。
将来、判断能力が低下した時に備えて、「誰に(任意後見受任者)」「どのような支援を(代理権の内容)」頼むかを、あらかじめ自分で決めて契約しておきます。
この契約は、公証役場で「公正証書」を作成して行う必要があります。
法定後見制度とは異なり、自分の信頼できる人を自分で選べる点が大きなメリットです。また、財産管理だけでなく、療養看護(施設入所の契約や医療契約の手続きなど)に関しても、具体的な希望を契約内容に盛り込むことができます。
実際に判断能力が低下した際には、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立て、その監督人が選ばれて初めて任意後見契約が発効(スタート)します。

知っておくべき成年後見制度の厳格な「限界」
成年後見制度は、判断能力が低下した方の生活と財産を守るための「命綱」とも言える重要な制度です。
しかし、生前対策や資産承継の視点から見た場合、この制度には見逃せない「限界」があります。
制度の根本的な目的は、あくまで「本人の保護」です。
家庭裁判所の厳格な監督のもと、後見人は「本人の財産を維持・確保し、本人のために使うこと」を最優先に義務付けられます。そのため、「本人のためにならない(財産が減る)行為」は、たとえ家族の総意であっても、原則として認められません。

柔軟な財産管理や相続税対策は困難
具体的に、成年後見制度を利用することで制限される行為には、以下のようなものがあります。
☆積極的な資産運用の禁止
株式投資や投資信託など、元本割れのリスクがある金融商品を購入することは、財産を減らすリスクがあるため、原則として認められません。基本的には元本保証のある預貯金などで堅実に管理することが求められます。
☆相続税対策(生前贈与)の不許可
相続税を減らすために、子や孫へ年間110万円の生前贈与を行いたい、あるいは教育資金を一括贈与したいといったケースはよくあります。しかし、贈与は本人の財産を無償で他人に与える行為であり、「本人のメリット」がありません。そのため、法定後見制度のもとでは、こうした相続税対策としての生前贈与は原則としてできなくなります。
☆不動産活用の制限
遊休地にアパートを建てて収益化したいといった活用も、多額の借入金を伴うリスクがある行為として、家庭裁判所の許可が下りない可能性が高いです。
☆親族間での資金移動の厳格化
「家族なんだから、少し生活費を融通してほしい」といった要望も簡単には通りません。後見人はすべての収支を記録し、家庭裁判所に報告する義務があるため、使途不明金や合理的理由のない親族への支出は厳しく追及されます。
このように、一度後見制度を利用し始めると、ご本人の財産は「ガチガチに管理された状態」となり、柔軟な活用や承継対策は非常に困難になります。また、原則としてご本人が亡くなるまで制度の利用は続き、途中で「やっぱりやめたい」と都合よく終了させることもできません。


おわりに
認知症などによる判断能力の低下は、誰にでも起こりうるリスクです。
すでに判断能力が低下してしまった場合には、法定後見制度がご本人の生活を守るための唯一かつ強力な選択肢となります。しかし、今回解説したように、この制度は「財産の保全」に重きを置いているため、ご家族が期待するような柔軟な財産管理や相続対策とは相容れない側面を持っています。
もし、ご自身やご家族が「資産の凍結」を避けつつ、積極的な資産活用や円満な資産承継を望まれるのであれば、判断能力がしっかりしているうちに、任意後見制度に加え、家族信託(民事信託)や遺言書の作成など、より柔軟な対策を検討する必要があります。

弁護士法人横田秀俊法律事務所では、成年後見制度の申立て手続きのサポートはもちろん、将来を見据えた生前対策、遺言書の作成、家族信託の活用など、お客様お一人おひとりの状況に合わせた最適なプランをご提案いたします。
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