COLUMNコラム
遺留分侵害額請求の方法と「1年」の時効|権利を失う前に行動を
相続問題 2025.12.01.
~目次~
「亡くなった父の遺言書を見たら、『全財産を長男に相続させる』と書かれていた」
「生前贈与によって、長女である自分の取り分がほとんどなくなってしまった」
遺産相続の場面では、被相続人(亡くなった方)の意思が尊重されるため、遺言書の内容は非常に強い効力を持ちます。しかし、特定の家族だけに財産を集中させるような不公平な遺言や生前贈与があった場合、残された他の家族は生活の基盤を脅かされ、大きな不満を抱くことになります。
このような事態に直面したとき、多くの相続人はショックを受け、あるいは親族間の争いを避けるために泣き寝入りをしてしまいがちです。しかし、民法では一定の相続人に対して、最低限の遺産の取り分を保障する「遺留分(いりゅうぶん)」という強力な権利が認められています。
不公平な遺言や贈与があったとしても、この権利を正しく行使すれば、本来受け取るべきであった利益に相当する金銭を取り戻すことが可能です。ただし、この権利行使において最も注意しなければならないのが「時間」です。遺留分を請求する権利には、法律によって非常に短いタイムリミットが設定されています。
本記事では、遺留分侵害額請求の法的な仕組みと、絶対に守らなければならない「1年」という時効、そして確実な請求方法について、法改正のポイントも交えながら詳しく解説します。

遺留分侵害額請求とは?法改正で変わった仕組み
被相続人には、自分の財産を誰にどう譲るかを決める「遺言の自由」があります。しかし、一方で相続制度には、残された家族の生活保障や、遺産形成への貢献を清算するという側面もあります。そのため、遺言の内容がいかに絶対的であっても、最低限受け取れる遺産の割合が法律で保障されています。これが「遺留分」です。
実は、近年の民法改正(2019年7月施行)により、この遺留分に関するルールが大きく変更されました。
以前は「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」と呼ばれ、権利を行使すると「不動産や株式そのものの持分」を取り戻すという効力を持っていました。しかし、これでは不動産が相続人の間で共有状態になってしまい、売却も活用も難しくなるといったトラブルが多発しました。事業承継などの場面でも、株式が分散して経営が不安定になるという問題がありました。
そこで法改正が行われ、現在の法律では「遺留分侵害額請求」という名称に変わりました。これは、遺留分を侵害された相続人が、侵害している相手(多くの財産をもらった相続人など)に対して、「侵害された額に相当する金銭を支払ってください」と請求する権利です。 つまり、不動産や株式の共有持分を争うのではなく、シンプルにお金の請求として解決を図る制度になったのです。

兄弟姉妹にはない?遺留分が認められる範囲
遺留分は、法定相続人であれば誰にでも認められるわけではありません。この点も誤解が多い部分ですので注意が必要です。
遺留分が認められるのは、以下の相続人に限られます。
・配偶者(妻・夫)
・子(子が亡くなっている場合は孫などの代襲相続人)
・直系尊属(父母・祖父母など ※子がいない場合)
ここで重要なのは、「被相続人の兄弟姉妹(およびその子である甥・姪)」には遺留分がないという点です。 例えば、子供のいない夫婦で夫が亡くなり、「妻に全財産を譲る」という遺言があった場合、夫の兄弟姉妹は「自分たちにも取り分があるはずだ」と遺留分を主張することはできません。

要注意!権利が消滅する「1年」の時効
遺留分について最も恐ろしいのは、「権利を行使できる期間が非常に短い」という点です。どれだけ高額な遺留分侵害があったとしても、期間を過ぎれば権利は消滅し、1円も請求できなくなります。 法律では、遺留分侵害額請求権の時効について以下のように定めています。
「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間」
ここでのポイントは2つです。
1つ目は「相続の開始を知った時」、つまり被相続人が亡くなったことを知った時です。
2つ目は「遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時」です。これは、単に死亡したことだけでなく、「全財産を長男に譲る」といった遺言書の内容を見たり、多額の生前贈与の事実を知ったりして、「自分の遺留分が侵害されている」と認識した時点を指します。
この2つの事実を知った日からカウントダウンが始まり、たった1年で時効にかかってしまいます。 葬儀や四十九日の法要、役所への手続きなどに追われていると、1年という時間はあっという間に過ぎ去ってしまいます。「家族で話し合ってから決めよう」「相手が落ち着いてから話をしよう」と遠慮している間に期限が過ぎ、相手方から「時効だから払わない」と主張されれば、法的に対抗することは極めて困難になります。
なお、この「知った時」に関わらず、相続開始(死亡時)から10年が経過した場合も、除斥期間として権利は法律上当然に消滅します。


裁判は必須ではない?請求から解決までの流れ
「請求する」と聞くと、すぐに裁判所へ訴えを起こさなければならないと考える方も多いですが、必ずしもそうではありません。一般的な流れは以下のようになります。
(1) 意思表示(通知)
まずは、遺留分を侵害している相手方に対して、「私は遺留分侵害額請求権を行使します」という意思を明確に伝えます。この通知によって時効の進行を止めることができます。
(2) 協議(話し合い)
通知を送った後、具体的な金額の交渉を行います。不動産の評価額をいくらにするか、支払いを一括にするか分割にするかなどを話し合います。合意ができれば、合意書を作成して解決となります。
(3) 調停
当事者同士の話し合いでまとまらない場合、家庭裁判所に「調停」を申し立てます。調停委員という第三者が間に入り、解決に向けた調整を行います。
(4) 訴訟
調停でも話がまとまらない場合は、裁判所による判決を求めて「訴訟」を提起することになります。
重要なのは、(3)や(4)に進むとしても、まずは(1)の意思表示を期限内に行わなければ、すべての権利を失うということです。


「内容証明郵便」が不可欠である理由
前述の通り、まずは意思表示を行うことが最重要ですが、その方法には厳重な注意が必要です。 電話やメール、普通郵便の手紙で「遺留分を払ってください」と伝えただけでは、後になって相手から「そんな請求は聞いていない」「郵便は届いていない」「ただの愚痴だと思った」としらを切られるリスクがあります。特に期限ギリギリで争いになった場合、「言った・言わない」の水掛け論は致命的です。
そこで、実務上必ず用いられるのが「内容証明郵便(配達証明付き)」です。
内容証明郵便とは、郵便局が「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を公的に証明してくれるサービスです。さらに「配達証明」をつけることで、相手がいつ受け取ったかも証明できます。 これを利用することで、「時効が成立する前に、確実に請求の意思表示を行った」という動かぬ証拠を残すことができます。
この通知さえ期間内に送っておけば、仮に具体的な金額の計算や交渉が1年を超えて長引いたとしても、時効によって権利が消滅することを防ぐことができます。具体的な請求金額がまだ計算できていなくても、まずは「請求する権利を行使する」という意思だけを先に内容証明郵便で送っておくことが、権利を守るための鉄則です。


泣き寝入りする前に弁護士へ相談を
遺留分侵害額請求は、権利があることが分かっていても、実際に適正な金額を受け取るまでには多くの専門的なハードルがあります。
・不動産の評価額をどう算定するか(固定資産税評価額か、実勢価格か)
・過去の生前贈与や特別受益をどこまで遡って調査できるか
・相手方が財産隠しをしている場合にどう対応するか
・相手方が「お金がない」と言って支払いに応じない場合どうするか
これらを一般の方がすべて一人で行うのは容易ではありません。相手方との感情的な対立も激しくなりがちで、精神的な負担も大きくなります。また、正確な遺留分の計算は非常に複雑で、計算を誤ると本来もらえるはずの金額よりも大幅に少ない額で合意してしまうリスクもあります。
大切なのは、権利を失う前に行動を起こすことです。 「自分のケースでも請求できるのか」「時効まで時間がない」とご不安な方は、まずは専門家である弁護士にご相談ください。あなたの正当な権利を守るため、迅速かつ適正にサポートいたします。

